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No.20

update.2017.08.05

アジアから生存圏を考える-生存圏アジアリサーチノードって?-

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地球温暖化、資源・エネルギーの枯渇、大気汚染など、たくさんの環境問題が起こっている現代。「この先地球はどうなっちゃうんだろう・・・」と不安に感じたこともあると思います。

京大の生存圏研究所では、私たちが生きていくために必要な空間を「生存圏」として、それを取り巻くいろんな問題を解決するために、分野の枠を超えた研究をしています。(それを「生存圏科学」って呼んでいます。)

そしてそれは、京大、国内にとどまらず、アジアを巻き込んだ国際的なものにまで発展しているんです!

今回のザッツでは、2016年度から始まった「生存圏アジアリサーチノード」(以下、ARN)の取り組みについてご紹介したいと思います!

みなさんも、生存圏について一緒に考えてみませんか?

ARNって??

ARNの目的はズバリ

生存圏科学の国際化の推進と国際連携の強化

です!

ARNの活動を通して、国際共同研究のハブ機能を強化し、生存圏科学を支え発展させる国際的な人材の育成を目指しています。
研究を進めるだけではなくて、研究者を育てるという観点で、教育にも力を入れているのです。

共同研究は、大きく分けて3種類!

①赤道ファウンテン共同研究

赤道で最大になる太陽熱エネルギーが、大気運動によってファウンテン(噴水)のように地球全体に運ばれる様子を解明する研究です(スイーツバイキングなんかでよくあるチョコレートファウンテンを想像してみてください)。これにより、極端気象や宇宙天気の予報精度改善に貢献し、減災や衛星の安全運用につなげることができます。

インドネシアにある赤道大気レーダー(EAR)や、滋賀県の信楽にある大気観測レーダー(MUレーダー)を使って大気の観測を行っています。

上の2枚はEARの写真。広大な大地に立ち並ぶアンテナ、圧巻です。

これらに加え新しく、EARの10倍の感度を持つ赤道MUレーダーをインドネシアに設置することを提案中です!

ちなみに・・・先日信楽MUレーダー見学ツアーがありました!
第2回ARNシンポジウムの一環として、2017年7月21日(金)に信楽MUレーダーを見学するツアーが開催されました!
山本衛 教授の解説を聞きながら、遠くから、近くからMUレーダーを観察した参加者のみなさん。
この日はMUレーダーを見学するだけではなく、信楽焼工房や京都の観光地も巡って、日本の文化に親しんでいました!
<研究者から一言~レーダー大気圏科学分野 橋口浩之 准教授>

「赤道大気レーダーに関しては、既に東南アジアのラボとは重要なつながりがあります。ARNは、そのつながりを強めて現地との共同研究を促進するために整備されました。でも、始まったばかりのプログラムなので、活動をどんどん紹介して、さまざまな分野の学生・若手研究者が来て、ARNの活動に参加してくれたら良いなと思います。そしてEARも、現地の学術団体を含めもっと研究者に利用してもらいたいですね。」

②熱帯バイオマスの生産・循環利用・環境保全共同研究

東南アジアには、熱帯雨林をはじめ豊かな生物資源があります。
このような熱帯バイオマスを活用することで、持続的に森林環境を守り、新産業を生み出せる可能性が!

他にもシロアリなど木材食害性昆虫の侵略制御や安くて高強度な木造住宅の建築法など、安心安全に暮らせる生活環境の提供につながる研究をしています。

生存圏研究所の木質材料実験棟。ここで研究をしているとは思えないほどペンションっぽい佇まい。木材のとても良い香りがしました!

<研究者から一言~生活圏構造機能分野 北守顕久 助教>

「僕の研究では現代建築における木材の開発・利用に焦点を当てています。京都にはとても古いお寺がありますけど、そこに使われている木材は頑丈で順応性が高いです。もし現代建築で木材がうまく活用できたら、コスト削減になりますよね。あと、伝統建築を現代の科学技術で補う方法についても注目しています。インドネシアにも伝統的な木造建築があるんですけど、日本とは特徴が全然違います。でも気候は似ているので、日本の技術がインドネシアでも使えるかどうか、共同研究を進めています。」

③生存圏データベースによる国際共同研究

いろんな分野の研究をしているからこそ、研究成果を蓄積し、オープンにすることが大事。
年間アクセス数1億回を誇る、生存圏研究所が蓄積してきたデータの集大成、「生存圏データベース」を各国の研究者に積極的に活用してもらいます!

そしてデータ上だけでなく、実際に研究者同士が会える機会も。
インドネシア科学院 (LIPI) に日ASEAN科学技術イノベーション共同研究拠点(JASTIP)と連携して共同ラボを設置!
LIPIにはサテライトオフィスもありますが、それに加えて国際共同研究の実験拠点、データベース拠点も設置しました。
研究者同士の交流促進にも大活躍です!

データベースについては、インドネシアにミラーサーバー(コピーみたいなものです)を設置して、データベースの保護とインドネシアからのアクセス向上を図っています。

教育面では、マレーシア・インドネシアでの国際シンポジウム・国際スクールの開催、月2回のオープンセミナーのインターネット配信、インドネシアでの大気科学に関する講義や実習などの活動を進めてきました!

実際にARNの活動に参加した学生は、どんなことを学び感じたんでしょうか?急遽座談会を開催し、思いのままに語ってもらいました!

学生に聞く!あなたにとってのARN

お集まりいただいたのはコチラのみなさん!

右から、Chin-Cheng Yang先生(生存圏研究所講師、台湾出身)、大城理志さん(同特定研究員)、武田ゆりさん(農学研究科博士課程2回生)、Didi Tarmadiさん(同博士課程3回生、インドネシア出身)、Subir Kumar Biswasさん(同博士課程1回生、バングラデシュ出身)

Yang先生の進行による座談会、全編英語だったので以下意訳&抜粋版にてお楽しみください(^o^)/

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Yang先生:まずみんなから見て、ARNの印象ってどんな感じ?

Subirさん:生存圏研究所がどんなところか、どんな研究をしているのか知ってはいたんですけど、それ自体は日本に限られたものですよね。一方ARNはグローバルレベルで、アジアに焦点を当てて研究所の目的を追求するプラットフォームです。ヨーロッパなど他の大陸のプログラムにも影響を与えられるものだと思います。

Didiさん: LIPIから来た僕にとって、ARNはとても重要なプログラムです。ARNのゴールの一つは、特に学生や若手研究者による国際共同研究を強化すること。でもそれ以上に、こういった共同研究が僕の祖国、インドネシアの発展につながれば良いなと思います。
インドネシアは、環境面、生物多様性の面で問題を抱えているんですけど、残念ながら効率良くそういう問題を解決する技術がないんです。ARNをきっかけに技術が向上すると良いなぁ。

武田さん:私は植物バイオマスの分子育種について研究しています。学生は研究室にこもって一人で研究しがちですけど、それだと新たな道は拓けません。例えば私の研究だと、植物が生育している環境を知るために研究室の外に出て研究しないといけないんですけど、それって一人だと無理があるんですよね・・・。将来研究を続けていくには、国際的なつながりが必要だと感じています。

Yang先生:京大は日本の研究者とアジアの研究者のつながりを作ろうとしてるよね。これを進めていけば、ARNがヨーロッパなど西洋の研究者がアジアの研究に参加できるきっかけ作りになるかも。実際西の方では、アジアにこんなに豊かな知識と資源があるってことが知られてなかったりするんだよね。もっと持続可能な方法で資源を活用できる科学技術を、共同研究によって開発していけたら良いなと思ってます。
東南アジアや京大でワークショップやシンポジウムを開催してるけど、ARNの教育制度についてはどう思う?みんなマレーシアのペナン(※2017年2月開催の第1回ARN国際シンポ)でポスター発表して、アジアの研究者とたくさん交流したと思うけど、何か学んだことはある?

大城さん:ARNを通した教育は、現地で研究をする上でとても重要だと思います。もちろんオンラインで情報収集できるけど、やっぱり不十分ですよね。自分でその地域に行って、実際に研究している人と話してみないと。
僕は現地固有の微生物や昆虫や熱帯植物についてはほとんど知識がなくて、どんな研究が好まれるのかも全く分からなかったんですけど、ARNのシンポは現在進行中の研究に触れて研究者と交流できる素晴らしい機会でした。若手研究者や学生にとっては本当に良い機会だと思います。

Didiさん:僕の国では、多くの人が環境についてあんまり気にしてなくて、それが大問題なんですよね。僕がシンポに行って、若手研究者に会って、彼らの研究から得た知識は僕がインドネシアに戻ったときにとても役に立つと思うんです。
シンポでとても面白かったのが、マレーシアからの研究者との議論。マレーシアとインドネシアでは環境保護について争いがあるんですけど、それについて徹底的に話しました。でも終わってみると、お互いの立場が良く分かったし、ARNに参加しなければ得られなかったつながりですよね。

Subirさん:ARNと生存圏研究所に特有なことの一つが、多くの専門分野があるということ。研究所って、たいてい一つのテーマやトピックに絞っているんですけど、ここでは自分の全く知らなかった人や研究に出会えます。シンポやARNは、他の生存圏科学についておのずと触れられる環境なので、ここから新しい解決策や技術が生まれるんじゃないかなと思います。

Yang先生:僕もそう思う!最後の質問だけど、特に京大で研究生活を送ってみて、特別だと感じることはあるかな?

Subirさん:他の大学では、京大みたいに分野の枠を超えて学生が交流しているのを見かけることが珍しいので、生存圏研究所も含め、京大の環境はとても良いと思います。

Didiさん:京大に来てびっくりしたのが学生と教員の距離の近さ!ここではとても気軽に指導教員と話ができますし、研究に関する質問や議論、個人的な相談にさえ時間を割いてくれます。これは僕の祖国にはないこと。みんなとても親切です。

武田さん:私が良いなと思うのは、京大が世界中に拠点を持っていること。おかげで海外の研究者とコンタクトをとる機会に恵まれ、研究データを集めるのに大きなサポートになっています。

大城さん:僕は東京から来たんですけど、京大には自由に対するとても健全な感覚があると感じました。こんな雰囲気じゃなければ生まれなかったかもしれない独特なプロジェクトがたくさんあります。共同研究や、自分の研究を追究する上での障壁がなくて、先生が後押ししてくれます。

<研究者から一言~生態系管理・保全分野 Chin-Cheng Yang 講師>

「最近、東南アジアに分布するアシナガキアリについての論文を出したんですが、東南アジアのどの地域から来たのか正確には誰も知らないんです。こういう研究には、興味を持ってくれる現地の研究者の協力が欠かせません。
海外の多くの研究者が、東南アジアと共同研究をしたいと思っているにも関わらず、どこから始めどのように進めていったら良いか分からないでいます。東南アジアとのつながりを作るために京大を活用できることも、ARNネットワークの強み。僕たちがコーディネーターとなって、西洋と東南アジアの研究者をつなぐ橋渡しをしていきます。」

めっちゃCEOっぽい雰囲気を醸し出しているYang先生(笑)。座談会もとても盛り上げてくれました!

京大と東南アジアの国際共同研究を促進するだけじゃなくて、他の地域の研究者にも活用してもらう拠点とする――アジアから全世界へ、ネットワークが広がれば良いですね。

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渡辺隆司 生存圏研究所長曰く、「社会を根本的に変えるためには狭い領域の研究だけでは不十分。生存圏を包括的に捉え、多様な分野の研究者による共同研究が不可欠」なんだそう。

いろんな分野の研究者が集まることで、それぞれの強みを活かした共同研究ができ、情報交換によってさらに自分の研究が発展する可能性もあるんですね。
ARNを拠点に、世界規模で「地球の診断と治療」の取り組みが進んでいったら良いなと思います。

生存圏研究所では、ここではご紹介できないくらいたくさんの面白い研究を行っています!
そしてどれも、私たちの生活に身近な研究ばかり。
生存圏に興味が出てきたという方は、ぜひ研究所のHPを見てみてくださいね!
(京都大学生存圏研究所:http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/

それではまた、次回のザッツで!