Campuslife

No.40

update.2019.08.29

つかめ!風と最高の景色! 我ら京都大学体育会ヨット部

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こんにちは。ザッツ京大編集部です。

早速なんですが、まずはこちらの動画をご覧ください!

ヨットの操縦の様子です
かなり動きが激しいと思いませんか?

そうです、今回紹介するのは、80年以上の歴史をもち、その長い歴史の中で表彰台に登ること32回。輝かしい成績を残してきた京都大学体育会ヨット部(以下:京大ヨット部)。

近年はスポーツ推薦などで優秀選手が集まる私立大学の台頭で苦戦がつづいていた京大ヨット部。しかしここ数年再び力をつけ、2014年に7年ぶりとなる全日本学生ヨット選手権(全日本インカレ)のスナイプ級、470級出場。2018年には同大会でスナイプ級2位、470級15位、総合8位という好成績を収めました。

さらに全日本インカレでの活躍から、ヨット専門マガジン『バルクヘッドマガジン』の「2018年度セーラー・オブ・ザ・イヤー」(2018年を代表する「ヨット馬鹿」認定)に加え、京大の「総長賞」も受賞!

そんな京大ヨット部の躍進の秘密を探るため、琵琶湖西岸にある練習の拠点で密着取材をさせてもらいました!

本文に入る前に。「1分でわかる! ヨット競技 ミニ講座」

ヨット競技には多くの種目があり、大学の競技では「スナイプ級」と「470(よんななまる)級」が行われます。大きな違いは帆(セール)の数。スナイプは2枚で、470は3枚。スナイプは艇の構造がシンプルなため選手の身体性が大きな要素となり、オリンピックのセーリング競技の種目になっている470は操縦技術が大きな位置を占めます。どちらも2人乗りで、舵とメインセールの操作を担当するスキッパーと、残りの帆の操作とナビゲーションを行うクルーに分かれます。試合はレース形式。一斉にスタートし、設置されたマーク(ブイ)を周回してフィニッシュ。1位が1点、2位が2点というように、順位が高いほど少ない点数が与えられます。数日間に渡りレースを行い、総合ポイントの少ない方が上位となります。大学の試合は基本的に男女混合で行われることも特徴です!

左がスナイプで右が470です。帆の数の違いわかりますか?

 

主将が語る京大ヨット部の強さのワケとは?

“キューピーさん”の愛称で親しまれている主将の長浜さんに京大ヨット部の活動について聞いてみました。「練習は土日にヨットハーバーで行うのが基本で、春休みや夏休みには合宿をして集中的に練習をしています。実戦的な練習がメインで、練習メニューの立案やコーチングはスナイプ・470それぞれのリーダーが行い、監督やコーチ、マネージャーがサポートしてくれます。僕の役割は部の運営と部員をひとつにまとめることですね。」

 

部員はなんと約70名。準備で忙しい時にもかかわらず笑顔で対応してくれました

 

笑顔が素敵な長浜キャプテン、なんでも話してくれそう!早速、近年の躍進の謎を詳しく聞いていきましょう!

琵琶湖が近くにあることも関係あるでしょうか?

「いえ、琵琶湖は“鬼門の琵琶湖”といわれ、ヨット競技に適した環境とはいえません。波がなく、風がいきなり吹いたり止んだりするんです。淡水なので浮力が小さく、艇が沈みやすいのも厄介です。全国大会は海で行われるので、本番に近い環境で練習できないことは不利。試合の時には、少しでも環境に慣れるため、他校より早く現地入りしています。
交通費や宿泊費、ヨットの運送費がかかるので大変ですが、文句を言うだけでは勝てないので、いろいろな取り組みをしています。例えば、活動費を安定して確保するため、2017年から京大ヨット部活動支援基金を設立して、さらにヨットの帆をリユースして作ったペンケースなどの販売を始めました。」

 

これがヨットの帆だったなんて?! POPなカラーとデザインが目を惹きます。
京都大学の時計台ショップや生協で購入できます

 

そして、具体的な強化策として、京大ヨット部が掲げたテーマは、「効率化・メンタル強化・分析力アップ」。効率化のひとつがミーティング。以前は練習後の食事の後に行っていたのを、お腹が減っている食前に変更。これによって同じ議題を繰り返すことがなくなったそうです。練習直後に振り返りもでき、課題が理解しやすくなったという効果も。

メンタル強化については、どうしているのでしょうか?

「自然条件が変化していくヨット競技では、どんな状況でも冷静に判断する力が必要です。そのために普段から選手の自主性を重視し、「自分で考えて動く力」を身につけるようにしています。また部内に良い意味でのライバル環境を作ります。その他にも、アスリートとしての集中した状態――安定した「ゾーン」に入るためにルーティンを意識して、片付けなどの日常的な「習慣」を大事にしたり。外部の講師を招いてレクチャーを受けたりするなど、さまざまな試みをしています」

分析では動画を活用。撮影した動画をサーバーにアップして、部員全員で共有。時には承諾を得たうえで強豪校の練習を撮影させてもらうことも。

「自分たちの映像を見るだけでは短所・長所はなかなかわかりません。いろいろな映像やデータを照らし合わせることで精度の高い分析ができるんです」。

 

ドキュメンタリー番組の出演者のように熱く語り続ける長浜さん

 

“デキる人”感漂う長浜さんですが、3回生のインカレで思うような成績を残せず、ヨットが嫌いになりかけたとか。そんな苦しい時に支えてくれたのが同期の仲間。「今スナイプと470のリーダーを担当している2人が「技術的なことは自分たちが担当するから、チームをまとめるために主将になってほしい」と言ってくれたんです。この言葉を聞いたら、ふて腐れてなんかいられないですよね」と当時を振り返ります。

カッコ良すぎる感じになってきたのでこの辺りでインタビューは切り上げて、練習のレポートに移ります。

 

いよいよ出艇!スナイプの練習に密着

取材当日は今にも雨が降りだしそうな空模様。ヨットハーバーには京都・滋賀の大学ヨット部が集まり練習の準備をしています。

艇を準備する京大ヨット部のみなさん

 

円陣を組んだ後、次々に出艇していきます。

午前はスナイプチームの練習に密着。監督、コーチ、マネージャーと一緒にモーターボートに乗り込みます。操縦はマネージャーの役割で、1回生のうちに船舶免許2級を取るそうです。

風速は約2m/s。もっとも高いパフォーマンスを発揮できるのが5m/sくらいなので、少し軽風といったところ。15m/sを超えると試合や練習が中止になるそうです。安全第一!

気合いを入れ、いざ出艇!

 

続々と沖へ向かう部員たち

 

まずは上手く風をつかまえて素早くトップスピードにもっていく、帆走といわれる練習。スナイプ艇は最速30km/h(自転車でがんばってこいだくらいの速さ)くらい出るそうです。ヨットは風向きに対して45度の方向しか進むことができないため、舵や帆の向きを操作して方向転換しながら進み、強い風が吹いた時は艇から体を乗り出してバランスをとります。

横並びになってスピードを競うスナイプ艇

 

帆でうまく風をキャッチするのがポイント

 

続いてマークを周回する廻航練習。試合ではコース取りやコーナリングが勝敗を分けるポイントとなるため、本番に近い練習といえます。

近くで見て驚くのは、凄くタイトに方向転換すること。しかも密集しているのにぶつからない。流石ですッ!

試合ではコンパクトにターンするほど有利。コーナーが渋滞しても衝突しません

 

ヨットの凄さを知るため実際に乗ってみた!

座ってるだけでは、ヨットの凄さ、魅力を伝えることができない!よりリアルを求める取材班は、試乗させてもらうことに。運動不足がにじみ出ていますが、無事に体験できるのでしょうか。。

 

やさしく操作方法を教えてくれる長塚さん
アニキと呼ばせてください!

 

艇が走り出すと風圧で体が後方にもっていかれそうに。アニキ曰く「全然スピードは出てないですよ~」とのことですが、体感はかなり速い。帆の向きを変えると、まるで自転車のハンドルを切ったように、艇が素早く反応!

 

油断していると、帆の下を支えるバー(ブーム)が頭に当たりそうで怖い……(“ブーム・パンチ”と呼ぶそうです)。

 

水面が黒く見えるところは風が強く吹いている場所で、そこに近づくと帆に風を受けて艇が激しく傾きます。この時クルーとスキッパーは傾いた反対側に位置を変え、体を仰け反らせてバランスを取らなければなりません。湖に落ちてしまう恐怖と戦いながら体を乗り出し、水面に向けて反らせます。

体を反らせてバランスをとる
(これはお手本の写真)

 

ちゃんとできているかわかりませんが脳内では完璧です!
(でも、尻ポケットの財布はビショビショに……)

 

選手のみなさんはハードに体を動かしながらも、風や波の状態を読み、適切なジャッジをしているのだから驚きです。

なんでも、監督曰く、「ヨット競技は“海上のチェス”と呼ばれることもある頭脳のスポーツ」とのこと。ヨットレースには、ミクロの視点(艇と艇の駆け引き)とマクロの視点(盤上における位置取り)が必要なのだそう。

さて、なんとか無事に体験させてもらったところで、午前の練習は終了。艇庫に移動して昼食です!

艇庫の1階に艇や用具を収納

 

マネージャー特製のご飯(通称:マネ飯)。
この日は野菜もしっかり摂れる「ジャージャー飯」。美味しくいただきました!
ヨット部のインスタグラム(@kuyc_food)には他にもたくさんの「マネ飯」が!

 

仲間とワイワイ話しながら食事
何気ない一瞬が一生の思い出になるんだろうな

 

有言実行あるのみ!

 

午後は470の練習に密着 注目の女子ペアを発見!

午後の練習は、470チームの練習に同行。470は帆が3枚あり、効率よく風を受けることができるため、スナイプよりもスピードが出ます。またクルーはワイヤーで体を支え、艇から身を大きく乗り出してバランスを取るのが特徴です。

クルーが全身を乗り出して
バランスをとるのが470の特徴

最初は風上から風下に向かって走るジャイブ練習。帆をきれいに張ることがポイントで、監督とコーチが後ろから帆の張り具合をチェック。

 

青い帆がスピンと呼ばれる3枚目の帆
風下に向かって走る時だけ開きます

 

続いて帆走練習。スピードにのった470は、風に乗って湖面を駆け抜けます。「すごい! すごい!」と声をあげていると、コーチが「前を走っている女子ペアは、去年の全日本女子学生ヨット大会に出場した期待の星」と教えてくれました。

 

気になる女子ペアにいろいろ聞いてみた

注目の女子ペア、織田さん(スキッパー)と田中さん(クルー)に話を聞きたい!ということで、ヨット部に入ったきっかけやヨット競技の魅力、どのようにクラブ活動と勉強を両立させているのかなどを聞かせてもらいました。


陸に上がるとおしとやかな田中さん(左)と織田さん(右)。
なんと高校時代は茶道部と文芸部出身。

 

ヨット未経験だった2人がヨット部に入ったのは、「おもしろそう」と参加した新歓の試乗会がきっかけ。

「陸上では体験できないスピード感を味わえることに惹かれました」と織田さん。

一方、田中さんは「大学ではいろんなことにチャレンジしたいと思っていたので、練習が土日だけということも魅力でした。入部を迷っていた時、キューピーさんが「イヤだったら辞めていいから」と言ってくれて。楽な気持ちで入ることができました」と振り返ります。

2回生となった去年、全日本女子学生ヨット大会に出場。強いチームに挑戦することが目的だったものの、2日目の最初のレースでは、なんと1周目をトップ通過する展開に。「自分たちでも驚きましたが、全国大会で手応えをつかむことができて、大きな自信になりました」と織田さん。

ヨットの魅力について聞いてみると、

ジェンダーレス・スポーツであることが魅力です。男女が同じフィールドで競えるスポーツは実は少ないですよね。普段の生活や練習では男だから、女だから、と考えることはないですが、試合で勝つとやっぱり嬉しいですね」(田中さん)

「体力面など不利なところをどうカバーすれば勝てるのかを考え、実行できることが醍醐味です」(織田さん)

実際にヨット競技は女性選手が勝つチャンスがたくさんあり、活躍している選手も多いそうです。

元気にスパッと小気味いい田中さんと、おだやかに丁寧に言葉をつむぐ織田さん。
タイプは違う2人だけれどヨットへの想いは同じ

 

京大ヨット部躍進の要因を尋ねると、「先輩後輩を問わず意見を言い合える関係」、「練習とオフのメリハリがある」という答えが返ってきました。

「悩んだ時に相談できる仲間の存在は大きいですね。今まで先輩たちに支えてもらったので、今度は後輩の力になりたいと思っています」(織田さん)

「練習は真剣に取り組み、遊ぶ時は思いきり楽しむ姿勢が高いモチベーションにつながっています」(田中さん)

もうひとつ気になるのが学業との両立。田中さんは、「両立は自分次第。ヨット部の練習は週2日だけなので、フレキシブルに動けます。京大は、積極的に動く人間にはいろんなチャンスが降ってくる。うまくいかないこともありますが、必ず得られるものはあります」と、とことん前向き。

織田さんもヨット部の他に法学サークルに所属するなど学業にもアクティブ。「京大はまわりに意識が高い人が多く、自分もがんばろうという意欲が湧いてくるんです」

いやいや、頼もしい先輩たちです!

ヨット部と共に成長し、素晴らしい景色を見よう!

最後に、長浜さんにメッセージをもらいました。

「まず、京大を目指す人に伝えたいのは、京大の魅力の一つは歴史ある「京都」という場所にあること。入学したら、もう「京都」という町を堪能しつくしてほしいですね。」

自分も最後まで楽しみきりたいと語る長浜さん

 

「そして、ヨットの魅力は、僕は「ペア・スポーツ」だと思います。強くなるために互いにコミュニケーションをとって協力する。これって人として成長していくうえでも大切なこと。あとは、京大ヨット部の最終目標は、全日本インカレ総合優勝。僕たちは、その目標への大きな一歩になる「総合入賞(6位以上)」をまず目指して練習をしています。ヨット部は、今、まさに成長期を迎えて伸びている「おもしろい時期」。これから入部する人は部と一緒に成長して、4回生になった時には、きっと素晴らしい景色を見ることができると思うので、ぜひチャレンジしてください!」

灼熱の夏を越え、秋に最高の眺めを手にしてください!
ヨット部のみなさん、ありがとうございました!