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No.51

update.2020.04.30

特別リレー企画!おもろい先輩に聞いてみた ~おもろい大学にようこそ!~ #04

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File#04:人との出会いで自由になる。欧州バイオリン3大国で突撃調査!

みなさんこんにちは。
『ザッツ・京大編集部』です。

これまで3回にわたり、京都大学独自の海外渡航制度「おもろチャレンジ」に挑戦した先輩を紹介してきました。

オランダに渡った片所杏野さん、イタリアに向かった森田壮一郎さん、ギリシャ、トルコとエーゲ海を1周した阿部由奈さん……。
今回がそのリレー記事の最終回となります。

登場していただくのは、工学部3回生の山内景介さん。
おもろチャレンジャーとして、1回生のときにイタリア、フランス、ドイツの3カ国を巡り、各地の工房を巡ってバイオリン製作について調査しました。


【今回の取材場所はココ!:工学部工業化学科図書室】

山内さんがよく勉強しているという工学部工業化学科図書室。窓際の自習スペースは見晴らし抜群で、大きな空の下に平安神宮の朱い鳥居も見えます。


「好き」を隠さなくていい。鴨川での運命的な出会いとは?

――さっそくですが、京大に入ろうと思ったきっかけは何ですか?

「そうですね、オープンキャンパスに参加したことや、先生の勧めなど、今思えばいろいろ理由があったんですけど。特に工学部の工業化学科を目指したのは、高校の課題研究で、酸化アルミニウムを使って人工宝石をつくったことがきっかけですね。いろんな材料を扱うのがおもしろかったし、材料についてもっと研究してみたいと思うようになりました」

――工学部というのは最初から決めていたんですね。

「そうですね。実家がバネ屋さんで、小さい頃からものづくりが身近な環境だったことも関係していると思います。入学してから『何で工学部しか見てなかったんだろう?』って思ったくらいです(笑)」

――京都大学に入学して感じたことは?

人との出会いがすごくおもしろいです。芯をもった学生が多いというか。落語だったりヨーデルだったり、変わったことが好きな人も多いんですけど、それを恥ずかしがったりせず、それぞれの個性として活かしているんですね。自分の『好き』を隠さなくていいというのが、京都大学の魅力だと思います。
これはおもろチャレンジにも関係しているんですけど、僕は4歳の頃からバイオリンを習っていたんですよ」

――バイオリンですか。

「そうなんです。4歳の頃ギターと勘違いしちゃって始めたんですけど(笑)、高校3年生まで続けていて。でも当時は冷やかされそうな気がして、あまり公にはしていませんでした。
でも京大に入って、鴨川沿いを歩いていると、4〜5人のグループがめちゃくちゃ楽しそうに河原で演奏しているのを見たんです。そのなかにバイオリンを弾いている人もいて。迷った末に声をかけてみたらみんな大学生で、京大の先輩もいたんです」

――まさかの出会いですね。

「はい。その先輩はアイリッシュ音楽が好きで、民族音楽について教えてくれました。
僕にとってのバイオリンって、クラシックで、いわゆる『音楽会』で発表するというイメージだったんです。それに対して、民族音楽はすごくゆるくて、バイオリンの弓の持ち方が適当だったりするんですね。でも、みんなで音楽のことを考えていて、その場の雰囲気で曲調やテンポを変化させていく。ミスしても、それも音楽の一部になるんですね。その寛容性や、みんなが笑顔で弾いているのがすごくおもしろくて。おもろチャレンジのことも、その先輩が教えてくれたんです

山内さんが語る「先輩」の酒向快さん。酒向さんのおもろチャレンジ動画はコチラでご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=5zadJB6SKT4

工房に飛び込みインタビュー! 職人が楽器にかける思い

――それで、おもろチャレンジでバイオリンをテーマに選んだんですね。

「ずっと身近にあった楽器がどうやってつくられているのか、ものづくりの視点から調べることにしました。僕の楽器はフランス産なんですが、イタリアやドイツでもたくさん製作されているので、それぞれの地域の違いを調べるのもおもしろいんじゃないかと。
行き先はお世話になっている楽器屋さんやバイヤーの方に聞いたり、本とネットで調べたりしながら決めました。20日間の滞在中に、バイオリン製作で有名な地域はほぼすべて回ることができたと思います

――現地ではどのような調査をしたんですか?

「楽器博物館や弦楽器製作工房を見学して、インタビューもしました。実は、出発前には1軒の工房にしかアポを取っていなくて(笑)

――え?!

「不安だったんですけど、行けばなんとかなるかなと。フランス語、イタリア語、ドイツ語は話せないので、自己紹介カードと、最低限聞きたいことの質問リストだけ用意していきました。
最初に行ったのはイタリアのクレモナという街なんですけど、いきなり工房を訪ねて行って、玄関のチャイムを鳴らして(笑)。自己紹介カードを見せつつ、英語で『日本人の学生で、悪い者じゃないから見学させてください。お願いします』と伝えたところ、快く中に入れてもらえました

――チャレンジ精神がすごい!

「クレモナはバイオリン発祥の地と言われていて、工房が100軒以上あるんです。渡航中に訪れたなかではいちばんバイオリン製作が盛んな都市なので、工房を見学させてほしいという観光客もけっこう多いようでした」

――なるほど、職人さんも慣れているんですね。

「クレモナでは、弦楽器製作を学ぶ学校も見つけたんです。中に入りたくて、30分くらいずっと窓の外から見ていたら、学生と目があって中に入れてもらえました(笑)。日本人の学生も紹介してくれて、じっくりお話を聞かせてもらうことができたんです」

クレモナ国際バイオリン製作学校の学生たち。

クレモナにて、日本人職人の菊田さん、高橋さんと一緒に。この「クレモナ」は、あの巨匠・ストラディヴァリが活躍した地としても有名。ちなみに、あの宮崎駿監督の映画『耳をすませば』でもその名が出てきます。

「フランスのミルクールでは、国際結婚で日本から移住した職人さんに出会いました。バイオリン製作や暮らしのことなど、いろいろとお話を聞かせてもらって、夕食までご馳走になっちゃいました」

フランス・ミルクールの街並みとマドン川。

職人さんに会って知った。都市を巡って気づいた。

――職人さんにインタビューしたことで、どんな発見がありましたか?

「バイオリンって、長ければ300年くらいはもつ楽器なんです。一方で、100年足らずで朽ちてしまうものもあって。職人の方はみんな、長く残ってほしいという思いをもって製作しています。
そのなかで彼らが大切にしていることが、楽器をつくっているときの状況。不調なときにつくった楽器はどこか歪んでしまったり、調子がいいときにつくった楽器は出来がよかったりするそうなんです。
だからこそ、自分の生活状況や心の状態をすごく意識しながら、バイオリンづくりに魂を注ぐ。その姿がすごく印象的でした。
これって、バイオリンに限らずいろんなものづくりに共通することだと思うんですよ。長く残るものには、それだけつくり手の心意気や感情が反映されているんじゃないでしょうか」

ドイツ・ミッテンヴァルドでの、職人さんの製作風景。

――バイオリン製作以外での発見はありましたか?

「都市のつながりや歴史を知れたのも、勉強になりました。ドイツのミッテンヴァルドという都市は、かつてバイオリンの製作が盛んで、今はだいぶ減少してしまっているんですけど。
もともとはベネチアとドイツの主要都市を結ぶ中継地点として栄えていたそうです。そこでいろんな産業が生まれるなかで、楽器製作も行われるようになったという歴史があるんですね。
ベネチアは仮面が有名ですが、ミッテンヴァルドでも仮面づくりが盛んだったんです。貿易を通して、楽器以外にもいろんな文化が根付いたということを実感しました」

ドイツ・ブーベンロイトにて。この地域で作られた、ポール・マッカートニーが使用したベース。

思ったよりも世界は狭い。悩んで立ち止まるより、踏み出してみよう。

――おもろチャレンジを通して、自分が成長したと感じることはありますか?

頭のなかだけで考えるとなんでも難しそうな気がしますが、一歩踏み出してみれば意外と大丈夫だということがわかりました。おもろチャレンジがひとつのステップになって、気になることにはとりあえずチャレンジできるようになったと思います」

フランス・パリのバイオリンショップにて。

フランス・パリで出会ったコントラバス職人の方との1枚。

――海外へ行くことへのハードルも下がりましたか?

「そうですね。いい意味で、世界を狭く捉えられるようになりました。時間的な意味だけでなく『遠い場所』じゃないというか。現地の人も同じ人間で、いろんなものを食べたり、つくったりしながら生活している、そういう当たり前のことを実感できました。あとはいろんな人と出会うなかで、『もっと聞きたい、話したい』と思う経験をしたので、大学受験のときとはまた別の、能動的に英語を学びたいという気持ちが強くなりましたね」

自分にも世界にも、いい影響をもたらせる人になりたい

――山内さんの今後の目標を教えてください。

「少し前に、オーストラリアのジャングルに先輩を訪ねてきたんです(笑)」

――え?

「その先輩は、さっき話した酒向さんなんですけど、彼は今、オーストラリアの自給自足の村で生活していて(笑)。それで行ってみたら、そこにはすごく豊かな暮らしがあって、日本での日々や、本当にやりたいことは何なのかをあらためて考えるきっかけになりました。
そんな機会もあって、最近思うようになったのは、自分のため、人のため、そして地球に、いい影響をもたらすことのできるモノやサービスをつくりたいということ。再生可能エネルギーや新しいタイプの電池にも興味があります。まだ具体的に何をすればいいのかは見えていないんですけど」

――入学当初ほど、「ものづくり」だけにはこだわらなくなったんですね。

「そうですね、魂を込めて何かをつくることができれば、それは『モノ』という形がなくてもいいと思っています。だから、他の分野での大学院進学も視野に入れていて。就職も考えていましたが、勉強するにはとてもいい環境にいるので。先生にもいろいろと相談するんですけど、親身になってくださって『興味のあることがあればそれをやるべきだよ』と背中を押してくれました」

――なるほど。

「やっぱり、いろんな大人の話を聞くって大切です。自分の頭のなかだけじゃわからないことが多いので(笑)。その点、京大には面白い人や尖った多様な人たちがいるから最高です。そういった人との出会いで、思考が自由になりましたし、いろいろな『道』に進む人が多い環境は、自分にとって心強いです

大学では、自分で「掴む」ことが大切

吉田南構内の通称・総人広場にて、バイオリンを披露してくれました。高校時代はテニス部だった山内さんは、大学では民族音楽を研究・演奏するサークルで活動中。「一見マイナーでも自分の興味のあるサークルを見つけられてよかったです。人との出会いや世界が広がりました」

――ご自身の高校時代や入学当初のことを振り返って、これから入学してくる学生や未来の大学生にアドバイスをお願いします。

「高校生のときの僕は、自分のやるべきことが全然見えていませんでした。現役受験のときは、模試の結果とか周囲の意見で京大行けるかも、というくらいで。結果、不合格になって浪人。でも親は浪人反対だったので『自分で全部決めなさい』って言われたんです(笑)。だから、勉強方法、場所、お金……一切のことを自分で考えて、提案して、決定したんですね。そのときから、周りに流されるだけじゃいけないと思うようになりました。そして、自分に何が足りていないのか、何をやるべきなのかが見えてきたんです」

――そうなんですね。

「だからまずは、自分のやりたいことを決定すること。そのうえで、強い意志と覚悟をもって勉強することが大切だと思います。高校までは、与えられることに取り組んでできる成長があると思います。でもそこから先は、自分で掴んでいかなければならないのかなと。
もちろん、勉強のモチベーションが下がることがあります。『何のためにやっているんだろう?』と思ったり。でも、そんな風に思うのはたぶん、大きな目的が見えていないときです。
僕が思うのは、『やらされる』ことを続けるのは難しい、ということ。
だから、『これをやりたい』っていう何かをもっているほうが、きっと大学生活は充実するし、おもしろくなります!」

山内さん、ありがとうございました!

…………さて、4週に渡ってお送りしてきた特別リレー企画、いかがでしたか?

編集部も、卒業・入学と学生さんが入れ替わっていくなかで、京大には常に「おもろい」学生さんがいるものだなぁと感じました。

新たな人や環境に出会うと、人によっては少し照れたりすることもあると思います。
でも、自分が「おもろい」と思うことを見つけたとき、実はもうチャレンジの第一歩を踏み出しているのかもしれません。

今回のおもろチャレンジャーたちの声が、その一歩目をさらにグッと踏み込む、後押しになったらうれしいです。

それでは、はじまりの4月。
あらためて、おもろい大学にようこそ!