10周年! 知りたい! iPS細胞研究所 ~最先端研究のこれまで・これから~前編

  • ザッツ (60)

こんにちは、「ザッツ・京大」編集部です。
今回フィーチャーするのは、京都大学が誇る「iPS細胞研究所」。通称「CiRA(サイラ)」とも呼ばれています。

iPS細胞と言えば……? そうです、あのノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授ですね!


山中伸弥教授。iPS細胞研究所の前にて。
(提供:京都大学iPS細胞研究所)

CiRAは、その山中教授が所長を務める研究所。iPS細胞の臨床応用を目指し、日夜研究が進められているのです。

今回は、CiRAが2020年に設立10周年を迎えるにあたり、研究所の内部の取材が実現!
そこで、前編・後編にわたって、広報担当者や研究者の先生たちにお話をうかがいます。
果たして、最先端の研究所の中では、どんな研究が行われているのでしょうか?!
さっそく、中へと入ってみましょう!

 

iPS細胞研究の最先端、CiRAへいざ潜入。

(提供:京都大学iPS細胞研究所)

CiRAの研究棟は、京大関係者でも足を踏み入れたことがある人は少ないかもしれません。
でも、メインの研究棟の1階フロアは誰でも自由に入れてオープンな雰囲気です。

1階正⾯⽞関の右⼿にギャラリースペースがあります。

 

1階フロアでは、一般の方に向けて、iPS細胞をイラストでわかりやすく解説する展示パネルやタッチパネルディスプレイ、自由に手に取って閲覧できる関連書籍も並んでいます。
むむむ……この大きな冷蔵庫のようなものは……?


ギャラリースペースに展示されてるCO2インキュベータ
取材のために特別に扉を開けていただいた……わけではなく、
自由に開けて中を見られるようになっています。

 

山中教授の研究グループが最初のiPS細胞を作った「CO2インキュベータ(細胞を培養するための装置)」と書かれていますよ…!
誰だ!冷蔵庫って言ったのは! ……ノーベル賞に輝いた研究はここから生まれたんですね。実物が見られるなんて感動です。

iPS細胞との距離が心なしか縮まったところで、今回私たちを案内してくれるナビゲーターにご登場いただきましょう!

 

教えてください! iPS細胞の基本。

今回、CiRAの内部を案内してくれるのは、CiRA国際広報室の和田濱裕之さん。
ここからはいよいよ、関係者以外立ち入り禁止の研究所内に潜入してお話をうかがっていきます!

――和田濱さん、よろしくお願いします! そもそもなのですが……iPS細胞って何ですか?
「そうですね。iPS細胞とは、もともと体内には存在しない、人工的に作り出された細胞です。無限に増える能力と、体中のあらゆる細胞に変化する能力を持っていて、再生医療や創薬の研究に使われています

――どうやって人工的な細胞を作るんですか?
「最初は、ヒトの皮膚の細胞を採取して、そこにたった4つの遺伝子を加えることで作られていました。ただ、この方法だと皮膚の一部を切り取り、後でひと針ほど縫わないといけませんでした。現在はもう少し負担の少ない血液を採取して作る方法が主流です。また、用いる遺伝子についてもさまざまな組み合わせが新たに発見され、最初に山中先生が作製した時よりもさらに安全性が高い方法が確立されています

(提供:京都大学iPS細胞研究所)

――iPS細胞が発見されたのは……確か2006年でしたよね?
「山中先生の研究グループが、世界で初めてマウスiPS細胞の作製を発表したのは2006年です。翌年の2007年には、ヒトのiPS細胞の作製を発表しました。その後、山中先生と共同研究者のジョン・ガードン先生がノーベル生理学・医学賞を受賞されたのが2012年ですね」

――ノーベル賞を受賞された時は、連日メディアで報道されていましたね! ところで今年はCiRAは10周年を迎えるんですよね!?
「はい。CiRAの前身であるiPS細胞研究センターが2008年に作られ、2010年に現在の建物ができて、「iPS細胞研究所」という名称になりました。今年でちょうど10周年を迎えます

――そうですよね、10周年おめでとうございます! そもそもCiRAはどんな目的で作られたんですか?
「当時はiPS細胞の作製技術がまだまだ広く普及していなかったので、『iPS細胞の標準化』、つまり誰もが使えるものにして普及させていくことが第一の目標でした。例えば、基盤技術に関する特許を京都大学が取得してオープンにすることで、どこかが技術を独占してしまわないような形を作ることです。そして、『iPS細胞ストック』というものを構築して、再生医療を進めるための基盤を作ることが一つの目標。さらに、iPS細胞を使った再生医療の研究や、新しい薬の開発。これらの目標を掲げていました」

――目標に向かって、今はどれくらい研究が進んでいるんでしょうか?
「実は、当初の目標はほぼ目途が立ちまして。2015年には、2030年までの目標としてさらに臨床応用に近い目標を掲げています。特にiPS細胞ストックについては、目標に掲げつつも実現するのかどうか当初はわからなかったのですが、今は実際にiPS細胞ストックができて、いろいろな研究機関や医療機関に提供する段階まで来ています

――着実に進んでいるんですね! iPS細胞の今について、もっと知りたいです。
「ではこれから、研究所の中をご案内しますね。ここがCiRAのオープンラボです。いくつもの研究室がフロアを共有する、文字通り開かれた環境の実験スペースです」

CiRAの建物は、「明るくて、透明感があり未来的」という
コンセプトに基づいてデザインされています。

――うわあ、広い! なんだか素敵な空間ですね。海外ドラマの世界みたいです!
「研究室の枠を超えた交流を促すオープンラボ方式は、現在は日本でも増えていますが、設立当時は珍しかったようです。オープンラボは、上下2つのフロアに渡っているのですが、らせん階段で行き来でき、研究者同士が活発に交流できる構造になっています。天井や床は、集中力を高めるためブルー系の色が採用されています」

――しかし、たくさんの研究者がいらっしゃいますね。みなさん、どんな研究をしているんですか?
「それでは実際に、研究者に話を聞いてみましょう!」

 

<コラム>もっと知りたい!CiRAのこと。「iPS細胞ストックって?」


再生医療用iPS細胞ストックプロジェクトで作製されたiPS細胞のストック。免疫拒絶反応が起きにくい細胞の型を持った健康なボランティアの方から提供された細胞を使って、医療用のiPS細胞を作製するというもの。安全性の高いiPS細胞を保存し、国内外の医療機関や研究機関に提供することを目的としています。
iPS細胞を医療の分野で活用するためには、コストを抑えることが課題の一つ。例えば、一つの細胞から増やした細胞を100人で使うことができれば、コストを100分の1に抑えることができます。患者さん自身の細胞を使う「自家移植」と比べると、時間も費用も格段に抑えられる方法なのだそうです。

(提供:京都大学iPS細胞研究所)

 

未知の分野を明らかに。科学の進歩を支える研究者魂。

さて、取材にご協力いただくのは、iPS細胞研究所特定助教を務める岩崎未央先生。

――お忙しいところ、すみません。いきなりですが……岩崎先生はどんな研究をしているんですか?
「私が所属している未来生命科学開拓部門は、名前の通り、将来重要となるような新しい研究をやろうじゃないかという部門です。私はここでタンパク質の研究を行っています

――「タンパク質」? というと、筋トレをする人が飲む、プロテインとかですか?
「いいえ(笑)。そういったものを連想するかもしれませんが、私が扱っているのは遺伝子ですね。かんたんに言うと、遺伝子とタンパク質は同じものなんです。DNAから遺伝情報を写し取ったmRNAという物質から、タンパク質が作られる。遺伝子が現れるメカニズムの最終産物がタンパク質です。mRNAは解析しやすいのですが、タンパク質は解析しづらい。解析しづらいと、解析したくなるじゃないですか? 私は今そこをやろうとしているんです」

――おお! まさに研究者魂ですね! ちなみに、タンパク質の研究は、私たちの身近なところではどんなふうに役立つのでしょうか?
「一番わかりやすい応用例がバイオマーカー。例えば、血液検査や尿検査からガンを見つけられるような特異的なタンパク質が見つかれば、病気の早期発見につながります。他にも、タンパク質は病気の原因解明においてもとても重要です。例えばパーキンソン病やアルツハイマー病は、タンパク質が細胞の中で分解されずに異常な状態になってしまうことが原因で起こると考えられています。タンパク質の研究は、こういった病気のメカニズム解明に役立つ可能性もあります

――なるほど。先生の研究ではどんなことを調べているんですか?
「mRNAからタンパク質が作られる時、その量は生物学的に制御されているんですね。例えばmRNAが10あったら、そこからタンパク質が10できるわけではなく、10から1だったり、0だったり、1万だったりする。なぜ量が違うのか、どんな仕組みが働いているのか、それを明らかにするための研究です。特にiPS細胞をはじめとする幹細胞ではそういった制御が起きていることが多いので、その仕組みを明らかにしたいと思っています。制御の仕組みを解明するなかで、例えばiPS細胞を作りやすくするようなタンパク質が見つかれば、医療応用や製薬などの分野に発展させることができます

――どんなふうに進めているんですか?
「まずオープンラボや研究室で実験をして、試料(分析や検査の対象として使うサンプル)を作ります。それを測定して、結果を解析して、それを元にまた実験して、の繰り返しです。

あとは、目で観察することも重要なんですけど、1万種類以上の遺伝子の情報を扱うので、あまりに多過ぎて全部見ていられない。なので、自分でプログラムを作って必要なところだけを抜き出したり、コンピュータで計算して結果を見たりもします」

オープンラボで実験をする岩崎先生。
おしゃれなCiRAオリジナル白衣は数パターンあるのだとか。

研究室には大きな機械が何台も並んでいて、
ものものしい雰囲気です……!

――扱う遺伝子の情報って、1万種類以上もあるんですか?! しかし、この部屋にもたくさんの機械やコンピュータがありますね。
「ここにあるのは全部、質量分析の機械です。私、機械が大好きなんです(笑)。2~3ヶ月前に新しい機械が入ったので、今はこれを使い倒したいです。今までの機械よりも感度が10倍くらい良いもので、さらに良くなるように自分でチューニングしているところです」

――機械の話になると目がキラキラしますね(笑)。ところで、研究をしていて、どんな時に楽しさや喜びを感じますか?
小さな発見の積み重ねが喜びですね。例えば、実験がうまくいって、すごくきれいなグラフができた時なんて、このグラフきれいでしょ?って世界中の人に見てもらいたい気持ちになります(笑)。自分で新しいことを考えてやってみて、ちゃんと結果が出て、それを世に発表できるのが何よりうれしいです」

――今後はどんなことを目指していますか?
「昨年は解析手法についての論文を出したので、今年はその手法を使って解析をして、生物学的な理由付けもして論文にするのが目標です。早く論文としていろいろな人に見てもらいたいですね。あとは、今は少人数で研究に取り組んでいますが、もっと研究室の外にも出て行きたいし、海外の方とも一緒にやってみたいですね。日本だけに留まらないようにしたいです」

 

意外と体育会系? 研究者ってどんな人たち?

――ちなみに岩崎先生は、どういった経緯で京大に?
「もともとは他の大学で、コンピュータを使って解析をする情報学的な方法を学び、学部生の時にタンパク質の解析を始めました。実験も解析もできる研究室だったので、そこで現在行っているような研究手法を身に付けました。博士課程の時に、研究室の先生が京大に移ったので、一緒に付いてきました」

――CiRAって医学部卒の方ばかりなのかと思っていました。
「確かに、CiRAの研究者はお医者さんが多いですけど、理学部や理工学部、薬学部出身の方もいますよ。個人的には、今の時代に情報を扱うスキルを身に付けておいたのは良かったなと思っています

――いろいろな経歴の方がいるんですね。
「あと、意外と運動ができる人も多いです。私は昔からサッカーをやっていましたが、周りには陸上部やラグビー部、水泳部など、体育会系で育ってきた人がけっこういます。山中先生もラグビー部出身ですし、今はマラソンもかなりストイックにされていますよね」

――体育会系な方も多いんですね! 意外でした。最後に、読者の方、特に学生など若い方に向けて、何かメッセージをいただけますか?
「やりたいことがあれば、やっちゃう。それがすごく重要だと思います。興味のあるところに飛び込んで行って、真剣にやっていれば、周りの大人はちゃんと見守ってくれる。だから思い切って飛び込んでほしいなと思います。やってみて無駄になることはなくて、すべてネタになるか、糧になります(笑)」

中学生の頃から研究者になりたかったという岩崎先生。大好きな機械のお話をされる時の笑顔がひときわ輝いていました!

どうもありがとうございました。

 

さて、次はどんな研究者の先生に出会えるのでしょうか?!
後編に続きます!(▼後編はコチラ

10周年を迎えた「iPS細胞研究所(CiRA)」のホームページはコチラ!
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/

 

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