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No.135

update.2022.12.23

ドイツからの贈り物!研究者との対話を促す写真展

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2022年ももうすぐ終わり。すっかり寒くなりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。この冬はできるだけ室内で過ごそうと思っていたところ、「ザッツ・京大」編集部に1枚のポスターが届きました。本学の森重文 高等研究院特別教授(フィールズ賞受賞者)や山中伸弥 iPS細胞研究所教授(ノーベル賞受賞者)らが何やら手に描いている…。こ、これはいったい…!?室内でじっとしている場合ではない、ということで、関係者に取材してきました。

「ザッツ・京大」編集部に届いたポスター

ドイツ人写真家の作品を日本へ

まずは今回の写真展の主催者としてご尽力されたドイツ科学・イノベーションフォーラム東京(DWIH東京)のラウラ・ブレーケンさんと、写真展の構成を担当されたドイツ東洋文化研究協会(OAG)のシュテファン・シュパイデルさんにインタビューを行いました。

お話を伺ったシュテファン・シュパイデルさん(左)とラウラ・ブレーケンさん(右)

――学術交流写真展「世界を変えた研究の原動力‐FASCINATION OF SCIENCE」というタイトルですが、どのような写真展なのでしょうか?

ブレーケンさん
「ドイツには、功労十字小綬章など数多くの賞を受賞されているヘアリンデ・ケルブルさんという有名な写真家がいます。今回、ケルブルさんは、世界各国をまわり著名な研究者や期待の若手研究者などに、自身の研究の原動力となった大切な言葉や特徴的なモチーフを手に描いてもらい、その手と一緒に撮影したポートレート作品を創りました。研究と人間を1枚の写真のなかで同時に見ることができ、科学の魅力を伝えることができると感じましたので、日本のみなさまにも是非見ていただきたいと思ったのです。そこで、ドイツ科学・イノベーションフォーラム東京(DWIH東京)とドイツ東洋文化研究協会(OAG)が協力し、日本でこの写真展を開催することにしました」

シュパイデルさん
「日本で開催するにあたり、学生や若手研究者が多く訪れる場所での展示を目指していましたので、京都大学総合博物館に受け入れていただき、とても嬉しく思っています」

――今回の写真展では、日本人の研究者が3名含まれていますが、そのうち2名が京都大学の教員ですよね。

ブレーケンさん
「当初の作品では、日本人はフィールズ賞を受賞された森重文 特別教授お一人だけだったのですが、日本で写真展を開催するということで、ノーベル賞を受賞された山中伸弥 教授、輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)を受賞された坂井南美 理化学研究所主任研究員のポートレートを今年の10月に撮影しました。坂井 主任研究員は、優秀な研究者というだけでなく、結婚、育児といったライフイベントを経験されたうえで成果を挙げています。ロールモデルとしてご紹介することで、研究を断念する女性研究者が少しでも減っていけばと思っています」

シュパイデルさん
「写真展では、ポートレートの下にQRコードを掲示しており、アクセスするとインタビュー記事が読めるようになっています。坂井 主任研究員は研究と育児の両立という視点でもお話しいただいていますし、山中 教授は日本とアメリカの研究環境の違いについてもお話されています。

科学の裏側には研究者という人間がいて、その人間は、どういうモチベーションで、どんな努力をして、どのような苦労を乗り越え、結果を出したのか。ケルブルさんはインタビューも非常に上手で、研究者の話をうまく引き出せていると思いますので、是非インタビュー記事もご覧いただきたいです」

――ポートレートに写る表情や手のひらメッセージだけでなく、インタビュー記事も充実しているのですね。写真展にはどのような方に来ていただきたいですか。

シュパイデルさん
「これから研究者を目指す方など多くの方にご覧いただき、この研究者のようになりたい、この研究者のいる研究室で一緒に働きたいというように、目標の解像度が上がれば嬉しいですね」

ブレーケンさん
「科学の広さ、研究の魅力も感じてもらいたいですね。コロナ禍もようやく収まりつつあり、国際交流や留学も再開する動きが出てきているので、この写真展をきっかけに世界へと視野を広げていただきたいですね」

――ラウラ・ブレーケンさん、シュテファン・シュパイデルさん、貴重なお話をありがとうございました。

いざ、写真展の会場へ!

写真展の会場は、貴重な学術標本資料が収蔵されている京都大学総合博物館。文化史、自然史、技術史の幅広い分野を紹介する常設展とともに、今回の写真展も鑑賞することができます。

写真展の入り口
リチャード・ゼア氏のポートレート

試しに、取材で伺ったQRコードからウェブページを表示させると、研究者のエピソードが画面上に!

Q.子供の頃によく化学実験をしていたそうですね。
A.最初の実験は3歳か4歳の頃でした。計画していたわけではない偶然の実験だったのです。それで父に叱られてお尻を叩かれましてね、私は悲しくて、父が持っていた水槽におしっこをしたのです。その結果熱帯魚が死んでしまい、私はさらに叩かれてしまったわけですが。しかし、化学の力に私は感心しました。私は尿がそれほどまでに魚を弱らせてしまうとは全く知らなかったのです。私はあれを、私が行った最初の化学実験のひとつだったと思っています。私が好きだったのは、マグネシウムを燃やすことでした。ひどい臭いがしましてね、おまけに地下室が燃え出しました。それが私の評判を悪くしたわけですが、その悪評も私はお気に入りでした。

上記は、ウルフ賞を受賞されたリチャード・ゼア氏のエピソード。これは確かに、研究者の個性が出ていて科学の魅力が伝わる気がします。

総合博物館での写真展開催はめずらしい

写真展の受け入れを担当された竹之内惇志 総合博物館助教にもお話を伺いました。

――ポートレートが飾られている企画展示室は、常設展とは少し雰囲気が異なりますね。

竹之内先生
「普段は、いかに空間を広く取りながら資料をわかりやすく配置するかという視点で、壁を動かしながら調整をしているのですが、今回のシュパイデルさんによる、展示室を広く贅沢に使う配置は斬新で、これまでの総合博物館の展示とは一味違った雰囲気になっています。落ち着いた空間でゆっくりと、研究者と対話することができると思います」

写真展の一部
森 特別教授、山中 教授も写っています

――そういえば、総合博物館で写真展が開催されているのをあまり見たことがない気がしますが。

竹之内先生
「研究成果の発信に繋がるかが重要なので、総合博物館では、一般的な写真展の受け入れはしていません。今回は、京都大学には世界中の著名な研究者と肩を並べる素晴らしい研究をしている人がいる、という発信に繋がると考え、受け入れを決断しました。それに、普段は研究に用いた『物』を展示することが多く、あまり研究をする『者』にフォーカスすることはなかったので、新たな視点での展示になっておもしろそうかな、という考えもありました」

――総合博物館は、普通の博物館とは違い、大学の博物館ですものね。

竹之内先生
「そうなんです。そのため様々な役割が求められているのですが、主に3つに分類できると思っています。一つは、研究の証拠としての資料を未来永劫管理する収蔵施設としての側面。次に、資料の研究利用を促進し、学術的価値を高める研究機関としての側面。そして最後に、得られた成果を広く社会へ発信する社会の教育機関としての側面です。

また、学内の各部局とそれぞれ繋がりがある文化史・自然史・技術史という異なる部門がこの総合博物館に共存していることで、新たな知の創造の場にもなっています。今回の写真展も、芸術を通して研究者の考えや熱意を伝えるという、ある意味では芸術と研究の複合した素晴らしいプロジェクトなので、その発信の場として協力できたのは光栄なことだと思っています」

――来館者に研究者の想いが伝わり、科学をもっと身近に感じてもらえると嬉しいですね。

竹之内先生、お話ありがとうございました。

■関連リンク

京都大学欧州拠点×ドイツ科学イノベーションフォーラム東京(DWIH東京)学術交流写真展「世界を変えた研究の原動力‐FASCINATION OF SCIENCE」
開催期間:2022年12月21日(水)~2023年1月15日(日)

ドイツ科学・イノベーションフォーラム東京(DWIH東京)
ドイツ科学・イノベーションフォーラム東京(DWIH東京)は、ドイツの大学、研究機関、研究開発を重視する企業を包括し、学術、研究、およびイノベーションの拠点としてのドイツを日本で紹介するとともにドイツと日本の研究者のネットワークを構築するためのプラットフォームを提供しています。また、3か国語のウェブサイトおよびソーシャルメディアを通じて、最新のイベント、奨学金や助成プログラム、共同研究等に関する情報も提供しています。DWIH東京の活動にご興味のある方は、誰でもニュースレター(日本語または英語)にご登録いただけます。ニュースレターはこちらからご登録ください。
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