2022.05.25
科学と社会をつなぐ新しい学問「計量サステナビリティ学」とは?元・国連職員の武田秀...
みなさん、「京都大学特色入試」をご存じですか?学力に加え、学ぶ意欲や志も総合的に評価するという京都大学独自の選抜方式で、全学部・全学科で実施しています。
「特色入試、気になってはいるけど、身近に合格者もいないし、よくわからない」、「特色入試の受験って何を準備したらいいの?」・・・と困っている、そこのあなた!!今回は、特色入試で教育学部に入学した會澤凪さん(4回生)に、受験期の準備~現在の大学生活まで、幅広くインタビューをしましたので、ぜひお見逃しなく!
――まずは高校時代のことから聞かせてください。どんな生徒でしたか?
「良くも悪くも、『バランスがとれた生徒』と言われていました。ただ、負けず嫌いな性格ということもあり、何事にも興味を持って、できる限りのことをしたいと思っていましたね。弓道部で部長を務めたり、文化祭の実行委員長になったり、アメリカに短期留学をしたり。世界の水問題を解決するための課題研究として、カンボジアに設置するバイオトイレの研究にも取り組みました」
――すごいバイタリティですね。
「小さい頃から、たいていのことが『そこそこ』できるタイプだったんです。5段階評価をするなら全部3。だからこそ、『自分にはこれができる』というキャッチコピーのようなものを見つけたくて、いろんなことにチャレンジすることにしたんです。なかでも弓道は、型を極めていく過程が私には向いていたようです。『特技』として思い浮かべられるものができて、よかったと思っています」
――なるほど、「バランス型」だからこその悩みがあったんですね。ところで、進学先に教育学部を選んだのは、先生になりたかったからですか?
「いえ、もともと先生になりたいとは思っていませんでした。11歳年下に弟がいるので、最初は子どもの成長のプロセスに興味を持ったんです。そこから教育が及ぼす影響や、教育が進んでいく原理なども気になってきて、教育学を学びたいと思うようになりました」
――なるほど。ちなみに出身は仙台とのことですが、京都大学を受験しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
「高校の先生が、特色入試のことを教えてくださったのがきっかけです。ずっと自分の特技を探す旅をしてきたからこそ、高校生活でチャレンジしてきた取り組みの成果やその意欲を評価してもらえる特色入試であれば、自分の良さを生かすこともできるんじゃないかと思いました。
それと、仙台から関西圏に進学するのは珍しいということもあって、自分のキャッチコピーを作りたかった当時の私には、『変わり者が集まるところ』のイメージがあった京都大学に心惹かれるものがありました(笑)」
――教育学部の特色入試では1次選考で調査書と「学びの報告書」、「学びの設計書」と呼ばれる書類を提出し、2次選考で課題と口頭試問を受けることになると思うのですが、準備はいつ頃からどのように進めていきましたか?
「志望校は京大一本に絞っていたので、特色入試がダメだったら一般入試(※)を受けるつもりで、コツコツ受験勉強をしていました。特色入試に向けた準備を始めたのは、3年生の春から。まずは自己分析から始めました。自分の得意なことや嫌なこと、その理由などをひたすらノートに書き出しながら、どんどん深堀りしていったんです。
ちょうどコロナ禍で家にいないといけなかったので、逆にしっかり自分と向き合うことができました。その自己分析を踏まえて、「学びの報告書」と「学びの設計書」を書き始めたのが8月頃でしたね。大変ではあったのですが、かえって受験勉強の息抜きにもなっていた気がします」
――まず、自己分析にしっかり時間をかけたんですね。すでに学んできたことを書く「学びの報告書」には、どのようなことを盛り込みましたか?
「文化祭の実行委員長を務めたとき、適材適所に人を配置するにはどうすればいいのか考えたことや、アメリカへの短期留学中、中学生くらいでも大学のように自由なカリキュラムで学んでいることを知り、学校という場所への興味が増したことなどについて書きました。あとは、弓道を通して自分をコントロールする方法を学んだことも」
――「自分をコントロールする」ですか。どんな方法を学んだんですか?
「私の場合は、『ルーティン』を作ることです。先ほどもお話しましたが、高校時代は弓道部に所属しており、試合となると、いろんな環境のなかで成果を出すことが求められます。そんなとき、いつもしていることと同じことを試合のときにすると『自分は変わっていないから大丈夫』と安心できるんです。そのため、普段の練習のときから頭の中でかける音楽を決めておいたり、道場に入るときは必ず左足から歩き始めたりと、小さなルーティンをいくつも決めていました。もちろん、特色入試の受験のときもルーティンを取り入れ、落ち着いて受験に挑めました!」
――高校生のうちからメンタルコントロールの方法を心得ているなんてすごいですね。大学でどのように学びたいかを問われる「学びの設計書」には、どのようなことを書きましたか?
「教育の評価に興味があるということについて書きました。私はずっと国語が苦手だと思っていたのですが、その理由を考えているうちに、文章を書くことが好きだったからだと気づいたんです。」
――え?文章を書くことが好きだから「苦手」、ですか?
「はい。書いたものに対する先生の評価に違和感があって、そこから苦手意識を持つようになっていたんだと思います。それに気づいたときに、同じような生徒はほかにもたくさんいるのではないかと思って、教育における『正しい評価』の方法を見つけたいと考えたんです」
――なるほど。好きだからこそ苦手の意味がわかりました。苦手なものに向き合ったことで、研究したいテーマが見つかったんですね。
「そうなんです。「学びの報告書」と「学びの設計書」を添削してくださった高校の先生が、『自分が弱いと思って避けている部分に光を当ててみたら、新しい可能性が見つかるのでは?』とアドバイスしてくださったのがきっかけでした。今、ゼミでお世話になっている教育学研究科の西岡加名恵教授のことも、その高校の先生に教えていただいて。西岡先生の著作も拝読し、とても感銘を受けました。京大の教育方法学研究室で学びたいと思い、「学びの設計書」に反映させたんです」
――2次選考の課題はどのような内容だったのでしょうか?
「受験科目は、英語と現代文です。課題の対策を始めたのは受験の1ヶ月ほど前からで、最初は全然解けなかったのですが(笑)、一般入試(※)に向けてコツコツ京大対策をしていたのが役立ちました」
――口頭試問はいかがでしたか?
「主に、「学びの報告書」と、「学びの設計書」に書いたことについて聞かれました。ただ、一方的に質問されて答えるという感じではなく、先生方との会話のキャッチボールがありました。その『対話』によって、私の考えを掘り下げていただいたような気がします。緊張はしましたが、おかげで自分の思っていることをしっかり話せました」
――試験が学びの場にもなったんですね。ちなみに、會澤さんが特色入試に合格したポイントは、何だったと思いますか?
「そうですね……あえて言うなら、『自分自身をよく知っていた』ことかなと思います。苦しみながらも自分と向き合う時間をもって、自分は将来どんなことをしたいのかということから、どうすれば気持ちが落ち着くかといった目の前のことも含めて、自分自身に対して理解を深めていたことが、結果につながったのだと思います」
――ちなみに、受験時も先ほどおっしゃっていた「ルーティン」を実行されたとのことでしたが、どのようなことをされたのですか?
「私は、とにかく『自分に有利な入試にしよう』と決めていました。なので、「ルーティン」の話で言うと、模試を受けるときから、朝ごはんのメニューや、決まった筆記用具を持っていくことなどを習慣として続けていたので、本番でもいつも通り、同じようにしました。そして、試験中に水分を取っていいかや、空調のこと、ブランケットを使っていいかなど、受験会場で気になることは遠慮なく質問したんです。入学後、それを見ていた同期に『この人は絶対受かるわって思った』と言われたくらい、堂々としていたらしいです(笑)。ただ、そういった、自分のペースで過ごせる環境の整え方も、自己分析を通して知りました」
――現在の学生生活についても聞かせてください。「学びの設計書」に書かれた通り、教育評価についての研究をされているのでしょうか?
「はい。教育方法学という、子どもたちが効果的に学びを深めていくにはどうすればいいのか、実践的な方法を考える学問を中心に学んでいます。そのなかで、評価についても勉強しつつ、卒業論文では国語教育における自己形成をテーマにしています。
特色入試の「学びの報告書」と「学びの設計書」もそうですが、自分を知るための手法として、文章を書くことってすごく有効だと思うんですよ。書くことで思考が整理されたり、バラバラだった興味がひとつにつながったり、新しい考えが生まれたり。国語教育を通して、子どもたちにそうした経験をしてもらうにはどうすればいいかを考えています」
――特色入試に向けて自己分析された経験が、研究内容にも反映されているのでしょうか?
「はい、「学びの報告書」と「学びの設計書」を書いたことが卒業論文のベースになっていますし、学生生活全般にも役立っていますね 。自分の問題意識を深めることは、論文執筆をするときに必ず必要になってきます。自分の興味や問題意識を常に認識しながら授業を受けてきたので、論文のテーマを決めるときにも、やってみたい方向性の候補をすでにたくさん持った状態で、スタートすることができました。もし書いていなかったら、書くために自分ときちんと向き合っていなかったら、きっと『将来どうしたらいいんだろう…』という思いにもっと苛まれていたと思います」
――卒業後の進路はもう決まっていますか?
「大学院に進学して、修士課程を修了して、それから可能であれば、地元の仙台で教員になりたいと考えています」
――そうなんですね!入学当初は先生になりたいと思ってなかったとのことでしたが、どのような心境の変化があったのでしょう?
「少しずつ就職活動が始まりだした3回生のとき、企業に就職して教育に携わるか、それとも教員として現場で仕事をするか考えたんです。ずいぶん悩みましたが、目の前の子どもたちと関わるなかで自分も成長していきたいと思い、教員をめざすことに決めました。研究室には教員経験のある先輩方が多くいらっしゃって、いったん現場に出てから研究に戻る道があると知ったことも後押しになりました」
――身近にそういった先輩がいるのは心強いですね。ところで、国語科の教員免許を取得される予定ですか?
「はい、中学・高校の免許をとるつもりです。国語が苦手だった自分がまさか、という感じですね(笑)。もし仙台に戻ることになったら、進学先は東北や関東のほかにもたくさんあるし、東北との地域差を乗り越えてでも行ってみたいところに行って学ぶ価値はある、ということを自らの経験から伝えたいです。そして、子どもたち一人ひとりに目を向ける教員になりたいと考えています」
――自らの経験、そして自分に向き合ってくれる先生は素敵ですね!……私も會澤さんの生徒になりたかったです(笑)。
――入学前は、京大に「変わった人が集まるところ」というイメージを持っていたとのことですが、実際に入学してみていかがですか?
「そうですね、感じているのは、チャレンジすることに対して、誰も笑わない場所ということです。高校のときはあまり自覚していませんでしたが、『人と同じようにしなければならない』という暗黙の了解みたいなものがあって・・・『今まで自分で自分を制限していたのかも?』と入学してから気が付いたんです。
京大では、みんながそれぞれやりたいことに、まっすぐ向き合っているから、ほかの人がしていることも素直に応援できるような気がします。たとえば、京大のシンボルの時計台、クスノキの前で延々と皿回しをしている学生もいますが、京大ではそれが『変』ではなくて、普通の風景になっていて。それって、すごく恵まれた環境だなと感じます」
――確かに、キャンパス内を歩くだけでもみんな伸び伸びやりたいことをやっているのが伝わってきますよね。會澤さん自身は、学業のほかにチャレンジしていることはありますか?
「ボート部のマネージャーをしています。最初はサポート的な役割を想定していたのですが、実際は大会の企画・運営も大事な仕事で。2、3回生のときに70年以上続いている京大・東大の対抗試合である東大戦(ボート双青戦)の運営委員長を務めました。どうやら、こういう仕事が性に合っているみたいで(笑)、緻密なスケジュールを立てたり、学内外のいろんな人と関わりながら調整したりするのがすごく楽しいです」
――マネージャーというと裏方のイメージもありますが、全然そんなことはないんですね。大学生活を通してご自身の成長を感じることはありますか?
「もともとは自分でなんでもやろうとするタイプだったのですが、ボート部の活動を通して人を頼れるようになりました。団体や大会の規模が大きくなると、ひとりじゃできないことのほうが多いので。先輩はもちろん、後輩にも尊敬できる仲間がたくさんいて、安心して託すことができるのも京大ならではだと思います」
――最後に、京大を目指しているみなさんへメッセージをお願いします。
「特色入試の『特色』とは、突飛な能力や実績を求められるわけではないと私は感じています。重要なのは、自分自身のよさをいかに出すか、伝えるかということ。そのために、まずは自分を見つめる時間を持ってみてください。きっと、いいところやありたい姿が見えてくるはず。それは入試だけでなく、これからの人生にもきっと生きてくると思います」
自分自身をしっかりと見つめ、特色入試で京都大学への合格切符を手にした會澤さん。京都大学での学びの中でも、たくさん自分と向き合った今の彼女が見つめる先には、「学びの設計書」で描いた、「子どもたち一人ひとりに目を向ける」會澤さんの姿が映っているようでした。素敵な先生になってくださいね。會澤さん、ありがとうございました!
(※「一般入試」は、令和3年度より「一般選抜」に名称変更しています)