2018.01.16
水族館だけじゃないぞ!実は歴史深い実験施設「瀬戸臨海実験所」にズームイン!
みなさんは、「京大ウィークス」をご存じですか? 京都大学は、北は北海道から南は九州まで、全国各地に数多くの教育研究施設を展開しています。そうした施設を毎年一定期間、集中的に一般公開するイベントが「京大ウィークス」です。
今回は、このうち「森の生態系を学べる北海道」、「住宅地でひっそりと世界レベルのコムギ研究が行われている京都」、そして、「阿蘇山をはじめ九州各地の火山を常にモニタリングしている熊本」の3施設をメインに、7ヶ所の教育研究施設を紹介します!!
「北海道にも京大の教育研究施設があるの?」と思われた方もいるかもしれません。実は、森・川・海のつながり、そして、人と自然のつながりを学び、研究するための施設「フィールド科学教育研究センター 北海道研究林」があるのです。
京都から1,000km以上も離れた北海道の地で何をしているのか、「自然観察会『秋の森の生態系』」に参加して紐解いてみましょう!
北海道研究林は、大学演習林として国内最「東」端に位置しており、農学部はもちろんのこと、広く学内や他大学の方からも利用されています。標茶区と白糠区の2ヶ所に拠点があり、総面積はなんと約2,300ヘクタール! 東京ドーム約490個分もの広さを誇ります。
今年の開催地である白糠区の研究林は、海岸から約12kmの場所にあり、針葉樹と広葉樹が混ざり合って生えている針広混交林。標茶区よりも樹の種類が多く、ミズナラなどの落葉広葉樹に混じって常緑針葉樹のトドマツが生えています。
まずは、集合場所の白糠管理棟で出迎えてくれた技術職員の古田さんに話を聞いてみることに。
――この研究林ではどのような研究が行われているのですか?
古田さん「フィールド科学教育研究センターでは、様々な研究が行われています。ここ、北海道研究林では、例えば、エゾシカの個体数の増減を把握するため、春と秋の日没後にライトを照らしながら林道を走行しライトの光に反射するシカの目を数えるエゾシカのライトセンサスや、林内の河川にいる魚の季節変動を把握するため、毎週川の水に含まれるDNAの遺伝子解析を行っています」
――本当にいろんな研究があるんですね。本日のイベント、とても楽しみです。どうぞよろしくお願いします!
この日は、午前中に研究林を散策しながら植物やキノコ、昆虫を観察。午後からは、虫のトラップを回収するというスケジュール。
北海道研究林長であるフィールド科学教育研究センター森林生態系部門の小林和也准教授と、同センターの杉山賢子助教が今年のベストルートで案内してくれます。
いよいよ白糠区の研究林に向けて、出発です!
林内に入ると、目の前に枝分かれした変わった形の木が現れました。
小林先生「ほんのり甘い香りがしませんか? このカツラの木は、黄葉すると甘い香りがするんです」
先生の言うとおり、黄色く色づいた丸い落ち葉を手に取って嗅いでみると、甘くて香ばしいカラメルのような香りがしました。
さらに林内を進むと…聞いたことのある植物や初めて見るキノコなどを沢山見つけました!
途中、浅い川も渡りながら道なき道を歩き、奥へ進みます。
林内にはエゾシカやキタキツネ、エゾユキウサギをはじめ、タンチョウのような希少生物も生息しているそうです。研究員が林内を散策していると、ヒグマの痕跡を見ることもあるのだとか。
そろそろ(ヒグマ以外の)動物に会えないかな~と思っていたとき、技術職員の方の「あそこに!」という声。指さすその先には…木に尻尾を巻きつけて上手に立っている「エゾシマリス」がいました!!
次に発見したのは、シカの骨と角。京都ではめったに見ないので編集部員は興味深々でしたが、参加者の方々の反応は薄め。道内では至る所にシカが生息しているため、みなさんにとっては珍しくなかったそうです。お恥ずかしい…。
――道内にはそんなにたくさんのシカが生息しているのですか?
小林先生「そうなんです。全国的にシカの増殖は問題となっていますが、北海道でも、シカの増殖により、若い木が折られたり、枝が食べられてしまったりする影響で森の高齢化が進んでいて…森林の生態系が崩れ、森林破壊がますます深刻化しているんです。こうした問題に対して本学では、シカの駆除や被害の防止策などについて、白糠町と一緒に考えています」
――なるほど。研究林は、学生や教員が研究するだけでなく、社会や地域の課題にも連携して取り組んでいるのですね。
次に見つけたのは、木に貼り付けられたタグ。それぞれに数字が書かれています。
このタグは、森の成長を調査するためのもの。学生の実習で木の太さや大きさを測り、このタグで記録をしているそうです。林内の木がどれくらい増えているのか、どんな種が多くなっているのかなどを調査できるのだとか。
ちなみに北海道研究林は、文部科学省教育関係共同利用拠点に指定されていて、北海道大学と協力し、森に降った雨が海にたどり着くまでの物質の流れが、生き物や人間活動とどのような関わりを持ったかについて学ぶ授業を行うなど、多様で高度な大学教育を展開しています。その一環として、こうした森の調査をはじめ、全国の大学生が参加できる公開実習を開講。そのほか、他大学からの実習の受け入れや卒業論文などのサポートも積極的に行っているそうです。
ここまでで午前中の部が終了。
たくさんの植物やキノコ、動物を見ながら自然を満喫することができ、編集部員も大満足です!
午後からは引き続き林内を散策しつつ、設置された虫のトラップを回収します。
歩いていると、早速それらしきものを発見!
小林先生「飛翔性の昆虫を捕獲する『マレーズトラップ』です。これにより、この辺りにどんな虫がどれくらいいるのかを調査することができます。このトラップは、7年前、私がここに着任してから設置し始めました。将来的には、どんな虫がいつ・どれほど発生するかなど、虫の発生予測に貢献したいと考えています」
さらに進むと、小林先生が大きな網の中をゴソゴソと漁っています。
――このトラップでは何の調査をしているんですか。
小林先生「リタートラップといって、この場所にどのくらい落ち葉や枯れ枝が落ちてくるのかを調べています。葉、枝、種などに分類し、乾燥させて重さを測るんです。その結果によって、炭素や窒素がどのくらいこの森の中で回っているのか、つまり森の生産性を数値化できるんですよ」
――落ち葉や枯れ枝を調査することで、この森がどれだけ成長しているかが分かるのですね。
先生たちや参加者の方々と会話を楽しみながら歩いていると、あっという間に午後の散策も終了してしまいました。白糠管理棟に戻って、参加者の方たちに本日の感想を伺ってみると……
「北海道研究林で見つかっているキノコが200種類以上もあると聞いて驚きました」、「先生たちの説明が丁寧でわかりやすくて、本当に楽しかったです」とみなさん大満足の様子。
編集部が感じたのは、少人数での開催なので、先生との距離がとても近いということ。参加者からの素朴な質問に、先生たちが一つひとつ丁寧に説明をされていたのが印象的でした。
散策するコースは事前に決まっていても、その日の環境や参加者によって見られるものや聞けることは異なります。北海道の大自然を舞台にした研究林ならではの、素敵なイベントでした。
次に紹介するのは、京都府にある農学研究科栽培植物起原学分野研究室での「圃場見学&ミニレクチャー」です。
この研究室は京都府の物集女(もずめ)町にあるのですが、足を運んでみたところ、あまりにも住宅街のなかに溶け込んでいるので驚かされました! いわゆる研究所のイメージとは異なる木造の建物と畑(圃場)は、うっかりすると見落としてしまいそうです。
しかし、なんとこの施設では、 膨大な数のコムギとその近縁野生種の種子を収集保存していて、特に近縁野生種の保存系統数が世界トップクラスのジーンバンク(種の保存施設)なのです。
今回のイベントでは30分程度のレクチャーの後、施設の見学ツアーが実施されました。
まずは、敷地内の畑へ。ここでは、京大の研究者がユーラシア各地、アフリカ、南米など世界各地に足を運んで収集してきた、さまざまな品種のコムギが栽培されています。草丈の高い・低いはあるものの、素人目には品種の違いがまったくわかりませんが、研究者や技術職員の方が種の品種ごとの特徴など、とてもわかりやすく説明してくれました。
外に出てコムギの穂を見てみると、袋がかけられています。これは、品種の異なるもの同士が交配しないようにするためなんだとか。野生種と異なり栽培種のコムギは、雨の影響を防いだり、鳥に食べられたりしないようにするため、温室も使用しながら育てられているそうです。この日、この袋がけの作業を体験させてもらうことに!
続いて、屋内の種子貯蔵庫へ。ここでは、収穫された種子が種ごとにまとめて樹脂製の保存瓶に入れて冷蔵保存されています。その数は、現時点で約1万系統種!冷蔵貯蔵の期限はおよそ30年で、それ以上経つと発芽能力が落ちてしまうため、古くなる前に畑に植えて育て直し、ふたたび種を収穫するとのこと。畑でたくさんのコムギが育てられているのはそのためなんですね。
また、ここに保存されている品種のなかには、現地で栽培が途絶えてしまったものもあるといいます。戦争によって存続の危機にさらされている品種もあるため、情勢が落ち着き次第、現地に再び戻す活動も積極的に行っていきたいということでした。
そして、栽培植物起原学分野研究室では、遺伝子の研究も行っています。
気候変動によって、世界中で植生が変化している近年。温暖化に伴い穀物の病気の分布も変わってきているため、各地で育てられている品種のなかから病気に強い遺伝子を探し出し、現在利用されているコムギ品種と掛け合わせ、より育てやすい品種を作り出す研究も進めているそうです。
コムギは、世界中で食べられている重要な穀物のひとつ。この落ち着いた住宅地で行われている研究が、実は世界中の食糧の安全保障にもつながっていることは、本当に驚き&感動でした!
そして、編集部は日本の南、九州にも飛びました! 熊本県にある理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センターでのイベント「一般見学会&文化財見学会」へ。南阿蘇村にあるこの施設は、阿蘇山と熊本の市街地を一望する場所に位置しています。
設立は1928年。それ以来、実に100年近く、阿蘇山をはじめとする九州各地の火山活動の観測・研究を行っています。2016年の熊本地震本震で大きな被害を受けましたが、現地の方々からの支援などもあり、2021年2月には本館の復旧工事が完了。翌月から、現地での活動を再開。
今年の京大ウィークスでは、3日間にわたりイベントを開催。編集部は、そのうちの2日間を体験してきました!
1日目に行われたのは、屋外に設置された球形のスクリーンに、地球や月などの姿を投影する「ダジック・アース(デジタル地球儀)」の展示です。
満点の星空のもと、暗闇のなかに現れた惑星はとても幻想的! 小田木洋子 研究支援推進員が、火山活動やプレートの動く方向などについて解説もしてくださったのですが、立体的なので予備知識なしでもとてもわかりやすかったです。
さらに、普段は見ることのできない月の裏側の様子をプロジェクタで投影して見せてくれました。参加者はみなさん興味津々で、なかにはスマホで撮影する方も。
続いて、施設長の大倉敬宏 理学研究科教授の講演がありました。屋外での講演は、今回が初めてとのことですが、本館の壁面をスクリーンにして、大きく映し出される火山の映像は、迫力満点!
「私たちは『火山のお医者さん』なんです。地震や空気振動の観測は、聴診器を当てたり心電図を取ること。地殻変動観測は身体測定です。問診はなかなかできませんが、身体検査や血液検査をする方と共同研究をしたり、CTスキャンのようなことも行っています」という大倉先生の話が印象的でした。
2日目の館内での一般見学会は、子どもから大人まで100人以上の参加者が集まって、とっても賑わっていました!
館内に設置された観測機器について職員がわかりやすく説明してくれたり、24時間リアルタイムで収集されたデータがどのように役立てられているのか教えてもらったり。
そして、この日の目玉イベントは、火山のメカニズムを体感するマグマ実験。なんと七輪のなかで砂と化学物質を熱することにより、マグマを再現することができるのです!
真っ赤にドロドロと煮えたぎったマグマの迫力は圧巻! そしてなんと、急激に冷やすことでキレイな緑色の結晶に変化してさらに驚きました。結晶は、参加者の子どもたちにプレゼント。うれしそうな子どもたちのなかから、未来の火山研究者が生まれるかもしれませんね。
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京大ウィークスのレポートは、いかがだったでしょうか?
今回紹介した施設以外にも、全国各地でさまざまな公開講座や見学会が開催され、最先端の研究などを一般の方向けにわかりやすく説明しています。
京大ウィークスは、研究者の話を直接聞いたり、知らない世界に触れることができたりと、貴重な体験ができるイベントです。みなさんの地域から、気軽にアクセスできる「京都大学の窓」として、この京大ウィークスが、各教育研究施設の取り組みを知るきっかけとなり、そして少しでも多くの方に興味を持ってもらえますように。
※京大ウィークス2024の詳細は、京都大学公式ホームページ「京大ウィークス2024」を是非ご覧ください。