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No.41

update.2019.10.31

オーロラから「音」がする?! ―分野を超えてアラスカで挑む―

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こんにちは。
ザッツ京大編集部です。

みなさん、夜空を見上げることはありますか?
夜空を美しく彩るものといえば、月と星。極地地方ではさらに、神秘的なオーロラが現れることもあります。
残念ながら日本ではほとんどオーロラを見ることができませんが、一度は見てみたいという人も多いのではないでしょうか。

京都大学にも、そんなシンプルな気持ちから研究を始めた学生がいます。それが、理学部の藤田菜穂さん、司悠真さん、天羽将也さん、高冨士愛子さんの4人です。

彼らのプロジェクトは2017年には体験型海外渡航支援制度「京大おもろチャレンジ」に採択され、実証研究のためアラスカの地に3週間滞在。さらに帰国後は京大生チャレンジコンテスト「SPEC」にも選ばれ、助成金によって研究を続けています。

研究テーマは「オーロラの音」。

 

え?「音」??

そうなんです。
あの神秘のカーテンから、一体どのような音がするというのでしょうか?
研究チームのメンバーを代表して、藤田さんと司さんにお話をうかがいました。

 

「つぶやき」からはじまった。そして、集まった。

なんでも、研究チームが集まることになったのは、メンバーの1人である高冨士さんがTwitterで「オーロラ見に行きたい」とつぶやき、藤田さんが速攻で「いいね」したことがきっかけだったそう。

−−−最初からオーロラを研究しようと話していたんですか?
藤田さん「いえ(笑)、最初は高冨士さんと私の2人で観光としての旅行をしたいなと。でも、ツアー料金がめちゃくちゃ高いんですよ。しかも、天候によっては見られないこともあるらしくて。
それで、『おもろチャレンジ』に応募しよう、研究をしようということになって、もう1人誘うことにしたんです。それが天羽将也君です」

−−−メンバーが3人になったんですね。
藤田さん「3人とも物理系ではありますが、専門はバラバラ。オーロラが専門の人は誰もいませんでした」

−−−みなさん最初からオーロラに詳しかったわけではないんですね。では、「オーロラの音」という研究テーマは、どのように決めたのですか?
藤田さん「オーロラの研究をしようと決めてから、宇宙物理学の教授の柴田一成先生に相談したんです。そこで、『オーロラから音がする』という話を聞いて、すごく興味をそそられました。実際の音波であるという説と、オーロラからの電磁波を脳が音として錯覚しているという説がすでにあったので、これらを詳しく検証してみることにしたんです。
ただ、私たちは3人とも物理系なので、『脳』に関する知識が全然なかったんですね。それで、天羽君の友達である司君にも加わってもらうことにしました」

司さん「僕は生物系で、神経学が専門です。磁場と生体の関係にすごく興味があって、1回生のときからずっと勉強していました。」

藤田さん「最初はまったく興味なかったよね?」

司さん「うん(笑)。読みたい論文がたくさんあったし、オーロラなんか見に行っている暇はないと思って一度は断りました。でも、天羽の話をよくよく聞いてみると、本当に自分にドンピシャなテーマだった。それで行くことにしたんですけど、それが『おもろチャレンジ』の応募締め切りの前日だったんです」

−−−前日とはまた急ですね!
司さん「研究に参加すると決めた日の夜に、藤田さんから『アラスカに行くかどうか今決めて』って言われて(笑)。でも、これも何かの縁だと思って決断しました」

 

オーロラってそもそも何? 太陽フレアとの関係って?

高冨士さんと藤田さんがオーロラを見に行きたいと思ったのが4月。それからメンバーが集まって6月には「おもろチャレンジ」に応募し、9月にはアラスカにいたというから、なかなかのスピードです。

−−−さっそくアラスカでのお話を! とその前に。今さらなんですけど……そもそもオーロラってどういう現象なんですか?(汗)
藤田さん「太陽には『太陽フレア』という爆発現象があって、『プラズマ』が流れ出る『太陽風』が発生することがあるんですね。プラズマというのは、ざっくり言うと原子核から電子が離れた状態の粒子を含む気体のこと。それが地球の大気と反応して発光する現象がオーロラです」

オーロラの色は、プラズマが大気中の何と反応するかによって変わるそう。緑や赤は酸素で、ピンクは窒素とのこと。

 

藤田さん「オーロラ全体に電流が流れているとイメージすると、わかりやすいかもしれません。オーロラが現れるのは高度100kmくらいで、ものすごく高い。だから、実際に音を発していたとしても、出ているときと同時に私たちが音を聞くことはありえないんです」

−−−というと?
司さん「例えば、雷でも、ピカッと光った後にゴロゴロという音が聞こえるじゃないですか。それと同じでタイムラグがあるんです。計算すると、5分くらいは音が遅れるはずなんです」

藤田さん「そう。だから、オーロラが現れると同時に音がするという時点で、普通のメカニズムではないはず。実際の音波であると主張している研究者で、地上付近の『逆転層』という大気層が、オーロラからの電磁波を音波に変換することに関わっているという説を提唱している人もいます」

 

11年ぶりの太陽フレアに遭遇。速く、激しくオーロラは動く!

−−−それではいよいよ、アラスカのことなんですが、どこに滞在したんですか?
藤田さん「フェアバンクス市の郊外にあるロッジに泊まりました。市内からはタクシーで30〜40分。人間よりもムース(ヘラジカ)に会うことのほうが多かったくらいの田舎(笑)。でも、オーロラは、街の明かりがないほうがよく見えますし、音の研究なので静かな環境が大事でした」

 

 

−−−なるほど。オーロラはすぐに見られました?
司さん「フェアバンクスに到着したその日に見えました!」

藤田さん「それに、11年ぶりというレベルの太陽フレアが起こったんです。太陽フレアの数日後にはオーロラが激しくなるんですね。日本にいる柴田先生が連絡をくださって、毎日楽しみにしていました。太陽フレアは専門家でも予測が難しいので、すごく運がよかったです」

−−−11年ぶりの現象に遭遇するとはすごいですね! 見ていてどうでした?
司さん「普段のオーロラとは全然違いましたね。オーロラって動くんですけど、それがものすごい速さで。色も、たいていはうっすら緑色くらいにしか見えないんですが、緑・ピンクの濃淡が現れて、すごい迫力でした

藤田さん「最初は地平線近くの低い場所に出ていたんですけど、気づいたらどんどん真上に出始めていて。撮影している人が気づいていなかったので、『上!上!上!』って叫んでしまって、それが動画にも入っています(笑)」

すごい速さと色彩で空に展開する太陽フレア後のオーロラ(https://youtu.be/mMnC7jFyFDM

現在も研究継続中。謎に包まれたオーロラの音

−−−オーロラは無事に見えたということですが、肝心の「音」はどうでした?
藤田さん「1日だけ、もしかしたら…っていう音が何回か聞こえたことがありました」

−−−おおお! すごいですね! どんな音なんですか?
藤田さん「そもそもオーロラの音って、どんなものなのかはっきりわからないんですよ。昔から文献にはたくさん残っていて、パキパキ、サラサラ、シューというように表現されていることが多いんですけど。ラジオのノイズや、放電のような音ともいわれています。
それと、オーロラの音の録音に成功したと主張している研究者がいて、それはパーン、パーンというような音。発砲音を柔らかくしたような音が、一定間隔で聞こえてくるんです。私たちが聞いたのも、それによく似ていました

−−−はっきり聞こえた?
司さん「遠くから聞こえる感じではあったんですけど、その場にいた全員に聞こえました」

藤田さん「録音もできたので確実に音波なんですが、まだオーロラの音という確証を得ることはできていません。今はその『録音に成功した』という研究者と連絡を取っている状況です」

−−−なるほど。そうすると、もうひとつの「脳が電磁波を錯覚している説」もまだ否定されたわけではないんですね。
司さん「そうなんです。生物的な検証も続けています。渡り鳥が地磁気を感知するのに使っているというタンパク質があるんですが、人のタンパク質も磁場に反応するかどうかを調べているところです。
もともと、人が磁場を感知できるということを証明しようとしていたのですが、残念ながら他大学から先に論文が出てしまって……。そこで方向転換をして、今は磁場に反応する仕組みを明らかにしようとしています」

 

アラスカは寒い! でも、出会った研究者はあたたかい。

−−−アラスカでのことをもう少し聞かせてください。当たり前ですけど……寒いんですよね?
藤田さん「そうなんですよ、寒いんですよ! 9月なので一応夏だったんですけど、最低気温は0〜4℃くらい。夜10時頃から朝の5時くらいまで観測していたので、一番寒い時間帯に外にいました」

司さん「初日は全員でずっと外にいたんですけど、さすがに寒すぎて耐えられなくなって(笑)。これはもたないなって。シフトを組んで交代で見張りをすることにしました」

 

−−−夜に観測するということは、昼夜逆転の生活ですか?
藤田さん「それがそうでもなくて…。日中はアラスカ大学に行くことが多かったです。オーロラ研究がすごく盛んな大学ですし、赤祖父俊一先生という、日本人の先生がいらっしゃるんですね。オーロラ研究の権威なので、お話を聞きに行きました」

司さん「何度か訪ねて行くうちに、いろいろな研究者の方を紹介してくださって、議論させていただきました。すごくいい機会に恵まれたと思います」

 

−−−それはすごいですね! でも、いつ寝ていたんですか…?
藤田さん「夕方4時頃から4時間くらいですね。だいたい夜8時に起きてそれから食事をして、朝まで観測するという流れです」

−−−食事はどうしていたんですか?
藤田さん「ホテルで食べることもできたんですが、高いので自炊していました。週に1度、市内までタクシーで行って一週間分の食料を大量に買ってきて。巨大なサーモンを1本買ったこともあります。生物系の司君ならさばけるだろうと(笑)

司さん「切り身が売られていないんですよ。さばけますけど、あんなに大きいのは初めて。そのためにアラスカ行ったんじゃないんだけど(笑)

ロッジはキッチン付き。みなさん料理上手ですね。

なかなかハードな1ヶ月間だった模様。でも、楽しそうでうらやましいです!

 

だから、集まれた。異分野のクロスオーバー。

−−−研究チームは大きく分けると物理系、生物系とのことですが、専門分野はバラバラなんですよね。それでよかったと思うことはありますか?
司さん「全員が違う着眼点を持っているので、話していると『そういう見方もあったか』と気づくことが多くて楽しかったです。おかげで物理にも興味を持つようになって、講義を受けたりもしました」

藤田さん「それぞれに得意分野があって、役割分担ができたのもよかったです。これは京大理学部のすごくいいところだと思うんですけど、入学した時点では学科に分かれていないんですね。さっきから『物理系』、『生物系』と言っていますけど、実は2回生のときは各々がそっちの方向に行きたいと思っていただけ。ひとつのクラスにいろいろな関心を持った人がいたんです。もし入学したときから学科ごとに分かれていたら、このメンバーは集まらなかったと思います」

−−−なるほど。「京大理学部」だからこそ、みなさんが出会えたんですね。
藤田さん「それに、学部生のプロジェクトに対してお金を出してくれる大学というのも珍しいんじゃないでしょうか。学部生ってまだ知識はないし、成果が出るかどうかもわからないのに、『おもろい!』という点で評価してもらえる。やる気や好奇心を応援してくれるんだと思います」

司さん「実際、たくさんの先生方が力になってくださって。実験をさせてほしいとお願いした研究室も歓迎してくれました。2回生のときから受け入れてもらえるのは、本当にありがたかったです」

左から、司さん、天羽さん、藤田さん、高冨士さん。

 

好きなこと・やりたいことが見つかったら、ためらわなくていい

−−−自分の「興味」に思い切ってチャレンジしていたお二人。その経験を踏まえて、未来の後輩にメッセージをお願いします。
司さん「そうですね。もし、自分のやりたいことを運良く見つけたなら、没頭したらいいと思います。受験勉強も忙しいとは思いますが、中学・高校での趣味が、大学に入ると研究対象になるし、ゆくゆくは仕事にもなるので」

藤田さん「私の場合は大学に入るまで、やりたいことがはっきりしていませんでした。そういうタイプの人は、無理に関心を絞らなくてもいいと思う。ふわふわといろんなことに興味を持っていたおかげで、オーロラの研究もできたので」

司さん「確かに、興味自体は広く持っておいたほうがいいですね。複数の分野の知識があると、アイデアも生まれやすくなりますし」

藤田さん「それと、私たちが応募した『おもろチャレンジ』でもそうなんですけど、やる前に諦めてしまう人ってきっと多いと思うんですよね。でも、今までやったことがないからって諦めてしまうのはもったいないです。もしかしたら『もう高校生なのに今からこんなこと始めるなんて遅すぎる』って思う人がいるかもしれないけど、そんなことは全然ない! まだまだなんでもできるという気持ちを忘れないでほしいです」

藤田さん、司さん、ありがとうございました!