People

No.42

update.2019.11.28

「フランスパン」は「ごはん」? 本場フランスでパン研究!

この記事をシェアする

こんにちは。
ザッツ京大編集部です。

みなさん、パンは好きですか?

和食のイメージが強い京都ですが、実は、パン消費量が全国トップクラス!
京都大学の周りにも、有名なパン屋さんがいろいろあります。

食パンや菓子パンなど、その種類はさまざま。
そのなかでも、特に「フランスパン」はお馴染みですよね。
フランスでは「バゲット」と呼ばれています。

京都大学には、なんとフランスに渡り、「パン」の調査を行なった学生がいます。
それが、文学部地理学専修の岩松佳那さん。

2018年に体験型海外渡航支援制度「京大おもろチャレンジ」に採択され、1カ月間フランスに滞在して現地の人々の「本当によく食べているパン」を調べました。

岩松さんの興味は、強くシンプルでした。
「フランスパン」とは、なんなのだろう?
「バゲット」は、本当に「フランスパン」と呼ぶにふさわしい国を代表するパンなのか??

それでは、岩松さんにお話をうかがってみましょう!

理由は、パリが好きだから。自分の「好き」がはじめの一歩。

今回は、岩松さんが通うパン屋さん「喫茶とパンdo.」で、こだわりのパンとコーヒーとともに、取材スタートです。

――そもそも、なんでフランスで、しかもパンの研究をしようと思ったんですか?

「まず、フランスが好きで、行きたかったからです(笑)。小学生のときからずっと宝塚歌劇団が好きなんですが、タカラヅカの作品にはパリを舞台にしたものがすごく多くて、フランスには憧れがあって」

――「好き」がスタートなのですね(笑)。フランスへ行ったのは、今回の「おもろチャレンジ」が初めてだったんですか?

「いえ。2回生のとき、自費でパリに行って3週間滞在したんです。もう、目に入るものすべてがタカラヅカや映画の世界そのもので、ずっと興奮状態でした(笑)。ただ、パリは物価がすごく高くて。アルバイトで1年間かけて貯めたお金で行ったんですが、予算がギリギリでやりたいことを十分にやれなかったんです。
それで、またフランスに行くために何ができるかと調べていたときに、おもろチャレンジのことを知って。ちょうど地理学の研究室の先輩が、前年に採択されてパラオへ行っていたので、いろいろとアドバイスをもらいました」

岩松さんの所属する地理学の研究室では、それぞれの研究に応じて学生さんたちが世界各地に赴くとのこと。今どこに行っているか、研究室の扉に貼ってある世界地図にマグネットを置いて示すそうです。

パリで出会った、パンと街。パンと人。

――ちなみに、研究テーマに「パン」を選んだのはなぜですか? 初めて行ったときの経験が関係していたりとか?

「そうですね。パリの物価、例えばレストランってすごく高いんです。ランチでも2000円以上するのが普通で、なかなか行けませんでした。
そんななかで唯一、気軽に食べられたのが『パン』なんです。
日本よりも安くて、バゲットなら1本1ユーロくらいで買えて。乳製品や肉製品も安いので、スーパーでハムやチーズを買ってパンと一緒に食べたら、それだけですごくおいしくて」

――なるほど。実際に現地で「食」について感じるところがあったのですね。

「街を歩いていると、パリ市内にはパン屋さんが本当に驚くほどあるんですよ。それに、バゲットを裸のまま小脇に抱えて歩いている人もすごく多くて。それを見ていて、パンがフランス人の生活にすごく根ざしたものなのなのだなと実感したんです。もともと『食文化』には興味があったので、フランスとパンを絡めた研究をすることにしました」

パン屋はフランス語で「Boulangerie(ブランジュリー)」。バゲットや クロワッサンなど種類ごとのコンクールも盛んで、入賞したお店はそのエンブレムを店頭に飾ります。また、タルトや焼き菓子なども一緒に売られているのだとか。

――岩松さんは、もともとパンも好きだったんですね。

「いえいえ。私は圧倒的に、ごはん派でした(笑)

――えっ!まさかの答えですね。

「実家であまりパンを食べる習慣がなかったので。でも調べてみると奥が深いし、食べたらおいしいしで、フランスに行ってからすごく好きになったんです(笑)」

いちばん食べているのは本当にバゲット? 現地でアポなしインタビュー。

――現地ではどのような方法で、フランス人の生活とパンとの関係性を調べたのでしょうか?

「現地の人やパン屋さんにインタビュー調査をしました。
私のいちばんの疑問は、『もっともよく食べるパンは本当にバゲットなのか』ということだったんです。国の名前を冠して『フランスパン』と呼ばれるに値する存在なのか?と。なので、現地の人には主に『いちばん好きなパンは何ですか?』という質問をしながら、他にも、よく食べるパンの種類や、食べる頻度、量、タイミングなどを訊きました」

――パン屋さんにはどんな質問をしたのですか?

「仕事中は忙しいのであまりたくさんは質問できなかったんですけど、いちばん売れているパンは何かということを訊きました。1か月の間で30名ほどの人にインタビュー調査をしたんですが、その半数はパン屋さんでした」

――事前にアポイントを取ることもできない調査なので難しいですよね。それでも30名だと……1日に1人は答えてくれる人をつかまえたということですね。

「そうですね。積極的に声をかけて回りました。でも、反省点もいろいろあります。『調査』ということがうまく伝わっていない可能性もあって、お店や個人的なおすすめを答えられたものもあるのではないかとか……。ただ、早い段階でフィールド調査を経験できたことは大きいです。アンケートやインタビューといった調査方法を、あらためて勉強することができました」

「フランスパン」とは、「ごはん」である。

――インタビュー調査の結果、どんなことがわかったのでしょうか?

「結論から言うと、バゲットはやっぱり、フランスを代表するパンだと思います。
ただそれは、みんなが好きな味だからというわけではなくて『汎用性』が高いんですね。
日本の『ごはん』、つまり『白米』と同じように、いろんな料理に合わせやすいんです

――「白米と同じ」ですか!

「はい。ちなみに、フランスの人は焼きたてのパンに対するこだわりが強く、朝一番に買いにいくことが多いようです。仕事の都合などで朝に買えない人は、別の時間にパン屋さんに行くこともあるみたいですが。
買ってきたバゲットは、1日で1本食べきるという話も聞きました。パリでは3〜4本小脇に抱えている男性もよく見かけて『そんなに?!』ってびっくりしたんですけど(笑)、おそらく家族の分だったんですね。
私がインタビューしたなかでおもしろいなと思った食べ方は、朝はバゲットを縦にスライスして、ジャムとバターを塗って食べる。昼はバゲットサンドを作ってお弁当にする。夜はスープやワイン・チーズと一緒にといった食べ方ですね。3分の1ずつ、3回に分けて食べていくイメージです」

――なんだか、ますます「白米」ですね。理にかなったシンプルな食生活というか。

「そうですね。ただ、『毎日必ず一度は食べるけど、毎食ではない』という人も増えているそうです。これも日本人の白米離れと同じですが、フランス人のパン離れが起こっているということがわかりました。その背景には、食の国際化だったりグルテンフリーをはじめとする健康意識の高まりなどがあるようです。」

――外食の場合はどうなのでしょう?

「レストランなどでも、料理についてくるのは基本的にバゲットです。高級なレストランに行くと、料理ごとに合うパンを用意してくれる場合もありますけど。
もちろん、バゲット以外のパンとして、クロワッサンやパン・オ・ショコラのような甘いパンも人気は高いです。ただ、人によっては『子どもが食べるもの』という声もあって。他に『太る』、『値段が高い』といった理由でも、バゲットほど食べられないようでした」

バゲットはモーニングの代表格。生ハムとチーズをちょっと挟めばおいしいサンドイッチの出来上がり。レストランのディナーでも、名物エスカルゴにももちろんついてきます。

――家でもレストランでも、バゲットが一般的なんですね。ところで「バゲットは日本の白米のよう」とのことですが、日本では家でごはんを炊きますよね。フランスでは、家でパンを焼いたりはしないのですか?

「パン屋さんではバゲットを生地の状態で買うこともできるので、家で焼き上げる人もいますね」

――えっ! 生地だけでも売られているんですか?

「そうなんですよ。調べてみると、たいていのパン屋さんでは、店員さんにいえば生地の状態で売ってもらえるみたいです。それから、『ドゥミバゲット』と注文すれば、焼きあがったバゲットを半分にカットして買うこともできます。食生活に不可欠なものなだけあって、いろんな対応をしてくれるんだなと思いました」

フランスのホットドッグは、バンズがバゲット。「ドゥミバゲット」で切り分けられた残りの部分はホットドッグなどの総菜パンになるそうです。

地域ごとに特色あり。日本の食生活とも重なるパン事情

おもろチャレンジでは、パリを中心に、他にもリヨン、ニース、マルセイユ、ボルドー、ブルターニュといった主要都市も訪れたという岩松さん。

フランスには「TGV(テージェーベー)」という新幹線もありますが、長距離の移動は夜行バスが格安なのだそう。

――地域によって、食べられるパンに違いはあるのでしょうか?

「ありましたね。とくに際立っていたのは国境近くの地域です。イタリア寄りのニースでは、パン屋さんにフォカッチャやピザ生地のパンがたくさん並んでいました。
でも、もちろんバゲットも売っていて。パリよりは割合は少ないと思いますが、やっぱりいちばん食べられるのはバゲットのようです。例えるなら、香川県でも、うどんよりごはんのほうが食べられている、みたいな感じでしょうか

ニースは、イタリアとの国境に近いフランス南東部に位置しています。

ニースのパン屋さんのショーケース。ピザのようなパンが並んでいます。

――わかりやすい(笑)。日本のお米文化に置き換えやすいのが不思議ですね。ほかに印象に残っている地域はありますか?

「どの土地でもベースはバゲットなのですが、それぞれに特徴的なパンが食べられていました。リヨンではプラリネが入った甘いパンが名物でしたね。専門店もあって、行列ができていました。
それからドイツに近づくにつれて、ライ麦を混ぜ込んだパンが増えていくことに気がつきました。北へ進むにつれてだんだんとパンの色が黒くなっていく感じです。ブルターニュでは、バゲットのほかにカンパーニュというライ麦入りのパンがよく食べられていました」

リヨンは、フランス南東部のローヌ川とソーヌ川が合流するあたりに位置する歴史ある都市。

リヨンで人気だったプラリネ入りの甘いパン。プラリネは、煮詰めて焦がした砂糖にアーモンドやナッツなどを加えて冷やし、それを砕いてペースト状にしたもの。

人に出会って、助けられて。それもチャレンジ。

――ところで今さらの質問なのですが、フランス語は得意なんですか?

「勉強してはいますが、あまり得意ではなくて……。最初に観光で訪れたときは英語が通じたので、インタビュー調査も大丈夫かなと楽観的に考えていたんですけど。実際には、パン屋さんには中学校や高校を卒業してすぐに職人の道に進む方も多くて、英語がまったく通じない場合もありました」

――それは調査が大変だったのでは?! どうやって対応したのですか?

「たまたま現地で、フランス語を流暢に話せる日本からの留学生と知り合ったんです。その人が、通訳として私の調査に協力してくれることになりました。出会っていなければ調査自体が成立しなかったかもしれないので、本当に運がよかったです。
ただ、もし英語が通じたとしても、フランスだとネイティブスピーカーでない者同士が会話することになります。やっぱりより深い話を聞くためには、フランス語を学ぶことが不可欠だと痛感しました

――現地での出会いが窮地を救ったのですね。他にも印象的な出会いはありましたか?

「パリではドミトリーに滞在していたのですが、到着早々高熱を出してしまったんです。そのとき、そのドミトリーのオーナーが病院を紹介してくださって、ここでも助けていただきました。その他にも、ワーキングホリデーで来ている方に職場を見学させてもらったりもして。いろいろな人に出会って人脈が広がったのも、海外でひとりでチャレンジした財産かなと思います」

岩松さんがフランスに行った当時、オランダに交換留学をしていた京都大学の親友(写真左)。パリで合流し、彼女にも通訳を助けてもらったそう。写真は凱旋門の前での1枚。

卒業論文の調査で、三度フランスへ。

フランス革命の際には「革命広場」と呼ばれたコンコルド広場。

――岩松さんは現在4回生ですよね。卒業論文はどんなテーマにされるんですか?

「卒論のテーマは『タバコとジェンダー』にする予定です。そのために、またパリへ調査に行ってきます(笑)。最初は卒論も、パンから膨らませて食文化を扱おうと考えていたんですが、『嗜好品』もおもしろそうだと思うようになって。フランス人がよく吸っているタバコを取り上げることにしました。
『ジェンダー』というテーマにはここ最近で特に興味を持つようになったんです。フランスに行って、そこで暮らす女性たちを自分の目で見たことも大きなきっかけでした」

――「タバコ」と「ジェンダー」ですか。

「はい。『嗜好品』って生きるために絶対に必要なものではないですよね。でも暮らしの中に確かにある。そういった『嗜好品』としてのタバコと絡めてジェンダーを考えてみると、いろいろなことが見えてくると思うんです。例えば、日本では、女性がタバコを吸うことに対してネガティブなイメージがあるじゃないですか。それはデータにも現れていて、2019年にWHO(世界保健機関)が公表したデータによると、男性の喫煙率が33.7%であるのに対して女性の喫煙率は10.6%。20ポイント以上の開きがあります。
でも、フランスでは普通に女性も吸っていて。同じデータをみてみると、男性が29.8%、女性が25.6%で、男女の喫煙率に日本のような大きな差がありません。その背景には必ず、日本とフランスとの女性観の違いがあると思うんです

――確かに、喫煙する女性に対するイメージって国ごとに違いそうです。おもろチャレンジでの経験は、卒論にも活かせそうですか?

「初めて行く土地に比べて場所や位置関係などもわかっていることがあるので、調査に集中できるというのは大きいです。
それからおもろチャレンジの経験は、今回のアンケートやインタビュー調査に活きています。準備もしっかりできますし、自分が現地でどのように動くのかイメージしやすいです。
それに現地でできた知人にも協力してもらえそうなので、より深い話を聞くことができると思っています」

思いを行動に! 挑戦が可能性を広げてくれる。

――ちなみに地理学やジェンダーを学べる大学はほかにもあるとは思うのですが、そのなかでも京大でよかったと思うことはありますか?

「やりたいことがあれば、それを突き詰められる環境や制度が整っているのが京都大学だと思います。『私はこれがやりたい!』と真剣にいえば、それを一緒におもしろがってくれる人がいる。
おもろチャレンジもそういう制度ですよね。
京大だから、私のチャレンジを「おもろい!」と言ってくれたと思うんです。
個性を受け入れてもらえる大学なので、やりたいことがのびのびできる。『京大には変人が多い』といわれますが(笑)、それはみんなが個性に磨きをかけているからだと思います

――最後に、これから京都大学を目指す人へメッセージをお願いします。

「私は高校生のとき、自分なんかに京大なんて絶対無理だと思っていました。そんな風に最初から諦めてしまうのは簡単ですが、もったいない話です。
どんなことでも成し遂げるのに努力は必要。でもその先には、たくさんの可能性が広がっています。だから、受験でも、海外渡航でも、研究でも、興味を持っていることがあればぜひ挑戦してみてください。自分の力で何かをやり遂げるというのは、大変ですが本当にすごく楽しいですよ」

岩松さん、ありがとうございました!