Campuslife

No.29

update.2018.11.29

強き者良し、弱き者更に良し。京大・相撲部物語。

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こんにちは。

どうも。「ザッツ・京大」編集部です。

大学構内の木々の色も深まり、秋の終わりを感じます。

秋は、その色もですが、何かあれば「〇〇の秋」としていろんなものを包み込む懐の深い季節です。

代表的なものは、やっぱり、「スポーツの秋」、「食欲の秋」でしょうか。

さて。そのふたつを同時に満たす(?)、学生さんが、こちらです。

相撲部さんです。

いや、もちろん、「スポーツ」と「食欲」だけではないわけです。

実は、京都大学の相撲部は、70年を超える歴史があるのですが、近年、創部以来の記録を打ち立てています。

  • 2017年:創部以来初! 全国学生相撲選手権団体戦・優勝(Cクラス)
  • 2018年:国公立勢として史上初!  西日本学生相撲個人体重別選手権大会・準優勝(100kg以下)

(京都大学相撲部ホームページ:http://www.geocities.jp/kyodaisumo/

と言うわけで、うららかな秋の週末、取材におじゃましてきました。

 

うつくしい、土俵。長すぎる、まわし。部員、全員未経験。

 

「プレハブに入ると、そこは土俵だった」。

世が世なら、川端康成も、ツイートしたかもしれません。

目の前に広がる、初めての景色。なんだか……土俵って、きれいなものですね。。

おっと。取材の案内をお願いしていた主将の淺田(あさだ)さんを探します。

主将の淺田さん(経済学部・3回生)

あ。いらっしゃいました。本日はよろしくお願いしま…………すみません、これから、まわしを締めるところですね。。

ええと……写真撮っていいですか?

淺田さん「あ。いいですよ(笑)」


何はなくとも。HOW TO まわし。

①まわしをまたぎます 。
②前を大きく持って、あごで挟みます。
③後手でまわしを腰のあたりで右に折り、まわしが腰に回る形を作ります。
④そこから、長いまわしに向かって自ら回転&回転。
⑤くるくる回って、まわしを巻きました。
⑥最後に仕上げ。ギュッと締めてもらいます。
(注)安心してください。アマチュア相撲では、まわしの下にスパッツの着用も認められています。気になる人は、スパッツ着用で全く問題ありません。


 

淺田さん、いきなりなのに、ありがとうございます。

ちなみに、最後の仕上げ(⑥)を手伝っているのは、主務を務める大津さん(法学部・3回生)。なんと、まわしの全長は6メートルくらいあるらしいです。

バスケットボールのゴールの高さが約3メートルなので、縦にしたら2個分です。ぐーんと見上げちゃいます。

でも、これが実際に見ると、本当にかっこいいんです。

鍛えられた「戦うカラダ」。そこに、きりっと締めて、確かめるようにパンとはたく。

「様になっている」って、こういうことですね。きっと。

 

――淺田さん、相撲部のみなさんは、相撲経験者が多いんですか?

淺田さん「いや、みんな未経験者です。僕は、高校時代は野球部で。他には、柔道、テニス、将棋部、帰宅部……いろいろです

――なんと! ちなみに、部員は何人なんですか?

淺田さん「今は、3回生が3人。4回生が3人です。4回生がいなくなると、3人になっちゃうんです。なので常に新入部員を募集しています(笑)」

――ええっ。ピンチ、じゃないですか。。みなさんの魅力を伝えられるよう、取材、がんばります!

 

いちにのさんで、稽古スタートです。

稽古がはじまりました。

おいっちに、さんし。にいにっ、さんし。

まずは軽く、準備体操から。

窓から入る柔らかな秋の光が、土俵を照らします。

続いて、準備運動です。

まずは、四股をふみます。

ゆっくり、高く。確かめるように、深く。120回。

さすがに体にうっすらと汗が光ります。

その後は、腕立て伏せ100回。すり足と続きます。

……ええと、淺田さん、「準備運動」なんですか……これ。。

淺田さん「あ。もちろん、その人の経験や力に合わせて回数なんかは変えてますよ(笑)」

 

続いては「押し」。押して押して前に出る。相撲の基本です。

受ける側と押す側に分かれて、押す側が相手を土俵の端まで押し切ります。

まさに「胸を貸す」、「胸を借りる」稽古。

体勢を作って。呼吸を合わせて。

受け手が胸をポンと叩いたら、それを合図に。

ドンッ! 

ぐ、ぐぐぐぐぐーーーーっ。

土俵の直径は15尺。4メートル55センチです。

100kg近い人を、4メートル以上押していく。何本も全力で。

すごい足腰と体力です。

【動画で拝見! 逞しき「押し」& 高速「すり足」】

 

京大相撲部史上、最強の漢。

京都大学相撲部史上、最強との呼び声高いのが、こちらの山口さん(工学部・4回生)。

今年の第43回西日本学生相撲個人体重別選手権大会(100kg以下)で準優勝。これは国公立勢としては「史上初」の快挙です。なにしろ「100kg以下」ともなれば、相撲経験者=強豪私立の猛者がひしめく階級。山口さんは柔道経験者ですが、相撲は大学からはじめた「未経験者」だったんです。

――相撲は未経験者なんですね。しかし……なんでそんなに強いんですか?

山口さん「相撲ではよく「3年先の稽古をする」というんですけど、相撲は何かだけできれば強くなるものではなくて。受験勉強なんかと一緒で、大きなバケツに、毎日少しずつ、水を入れていくようなものです。僕は1回生の後期に入部したので、今、ようやく実ってきたという感じですね」

――なるほど。。その「実り」まで、大変だったことは何ですか?

山口さん「自分は、体重が簡単には増えない体質なんですよ。一日に5、6食くらい食べて、地道に筋トレをして。ようやく、安定した体が作れてきたところなんです」

――そうなんですね。ちなみに私立の選手はやはり強いんですか?

山口さん「もちろんです。私立大学に出稽古に行きますけど、自分より強い人はたくさんいますよ。でも、僕は、出稽古は稽古をしっかりと積んだ上で、「負け」に行くところだと思っています」

――「負け」にいくんですか。

山口さん「自分が勝てるようなところに、出稽古に行っても意味はないですよ(笑)。その時に負けても、1か月後、2か月後には勝てるようになると思っています。もちろん、何もしないで1か月過ごしても勝てませんよ。でも、負けた相手と何が違うのか、どうするべきなのかを考えて稽古をするんです」

……山口さんは、ひと言が、ぐぐっと濃いです。「真剣に向き合うと、すべきことはこうなる」という論理性を感じます。静かに揺るぎない。男前すぎます。

 

実戦稽古は、もちろん、相撲。とにかく、相撲。

さて。さらに稽古は熱を増してきます。

ここからは実戦形式の「申し合い」。いわゆる「相撲」です。

あの「見合って、見合って」です。

…………。

ッキヨイッ!!

稽古場に、するどく、声が響きます。

ドオォン!

バッッッチィィンンン!!

体と体が弾けます。

相撲以外で、聞いたことのない力強い音です。

みなさん、「ッキヨイ!」の一瞬でパワーを解き放ちます。

……さすがに、迫力あります。

一番取っても、またすぐに相撲。ひたすら相撲を取り続けます。

……ふと、振り返ると。

そこには、ちゃんこが。

この日は、副主将の堀野さんが中心になって、「塩ちゃんこ」を作っています。

堀野さんは夏にしたケガがまだ全快とはいかず、本日は見学です。

「見ていると……やっぱり、相撲をしたくなりますね」。

堀野さんはそう言いながら、鶏肉、白菜、えのき、豆腐などなど、ざくざくと切ります。

そして、大きな鍋で、ごろごろ、ぐつぐつ。

……左目に相撲、右目にちゃんこ。どちらも、目が離せません。

 

稽古のあとは、ほっこり、ちゃんこ。

さて、稽古が終わったら、部室で「ちゃんこ」です。

温かいちゃんこはなんだか、ほっとします。

みなさんにいろいろな話を聞きました。

炊飯ジャーの中はあっという間にカラです。ものすごい圧迫感があるように見えますが、実際、すごいです。

……大津さんの著しい成長の話。実は、入部当初は全く勝てなかったそうです。でも、今は勝率5割まで成長しているそうで、稽古の成果を実感しているそうです。

ちなみに大津さんは、高校時代はテニスプレイヤー。入学当時の体重は50kgで、京大入学後に第3次成長期を迎え75kgに。さらに、相撲部入部後には第4次成長期を迎え、現在は105kgだそうです。

「……自然に100kg超えられるのはひとつの才能だから。その暴力的な才能をこれからも活かしてくれ」。山口さんが静かに笑っています。

板倉さんのケガの話。目、足、肩、首とケガが続き、満身創痍の時期があったそうです。それでも続けた理由を聞くと、「とにかく、4年間やり切るって決めてたんです。それに、人よりも勝っているものを身につけたくて。将棋もできて相撲もできる……そんな奴、なかなかいないじゃないですか」と笑っています。

……あ。元将棋部って、板倉さんだったんですね。

板倉さん「そうです。高校時代は、全力で将棋を指してましたよ

……隣に座っている、堀野さんは?

堀野さん「僕も、全力で帰ってましたよ

……元帰宅部は、堀野さんでしたか。

相撲の魅力についても思い思いです。

淺田さん曰く「相撲の魅力は、一瞬の勝負。武道の中で一番早く決着するかもしれない」。

板倉さん曰く「相撲にはまぐれがある。「番狂わせ」は魅力ですよ。どんなに強くても、先に足が出ちゃえば負けです」。

山口さん曰く「相撲を取った後に仲良くなれること……かなと。どんなに強い人とでも。体と体をぶつけあって、お互いにわかることがあるんです」。

なるほど……。

本当に、話しは尽きません。

なんだか、相撲部は、みなさんの「居場所」なんだなあ。不思議とそんなことを思いました。

いろいろな場所で、それぞれの高校時代を過ごしてきて。相撲部で出会い、今は一緒に稽古をして、ちゃんこを食べて、笑っています。

稽古後に、トロフィーと盾をもっての一枚。上段左から、山口さん、佐藤監督、堀野さん、板倉さん。下段左から、大津さん、浅田さん、吉田さん。

 

インカレは、「出し切った」。新たな目標は……

取材から1週間後。相撲部は、相撲の聖地、東京にある両国国技館にいました。

そう、Cクラス2連覇をかけて、全国学生相撲選手権(インカレ)に臨んだのです。

これが、4回生にとっては、最後の大会。

……しかし、残念ながら、団体戦は、準々決勝で敗れ、2連覇はなりませんでした。


全国学生相撲選手権 Cクラス団体戦準々決勝(○勝ち・●負け)

京都大学1-4東京大学

吉田○(押し倒し)●須山

山口●(寄り倒し)○野口

淺田●(外がけ)○田辺

大津●(押し出し)○益田

板倉●(寄り倒し)○湯浅


 

大会から数日後、ふたたび、淺田さんに会いました。

もう11月ですが、この日も半袖がよく似合っています。

――淺田さん、インカレ、2連覇ならず、残念でした。みなさん、自分の力を出し切れましたか?

淺田さん「はい。「出し切った」と思います。特に先鋒の吉田さんは、立ち合いから一気に、きれいに相手を押し倒して。……ただ、僕自身としては、次鋒の山口さんが負けた後に、3番手として勝って流れを戻したかった。そこは、強く反省するところです」

【動画で拝見! 団体戦準々決勝 京大・淺田(左)VS  東大・田辺(右)】

 

――4回生が引退して、これからの淺田さんたちの目標は?

淺田さん「それは、もう、新たな部員の入部ですね(キリッ)

――ええと。大会的な話ではなくて、そこですか。

淺田さん「ああ。すみません(笑)。大会だと、来年5月の国公立大学の大会は、京大がホームになって開催するので、ぜひ団体戦で入賞したいです

――それでは、読者の方に何かメッセージみたいなものはありますか?

淺田さん「そうですね。相撲部に入ってください。高校生の方々は、京大はおもしろいところなので、まずは京都大学に入ってください。京大には、何かを「極める人」になれる「自由」があります。入学して……それで、よろしければ……相撲部に是非!

--やっぱり、そこなんですね(笑)。

 

ちなみに、淺田さんが教えてくれた相撲部のモットーが、私はとても好きです。

「強き者良し、弱き者更に良し。」

「弱さ」により大きな価値を認めてくれる。「弱い」ことにはより大きな可能性がある、今の「弱さ」は未来の「強さ」の源だと言ってくれているような、力強くてやさしい言葉です。

それに、最初に淺田さんに取材のお願いで会ったときに、聞いたんです。「強くなる人」ってどんな人ですかって。

淺田さんは、迷わずに答えてくれました。

「相撲に限らずだと思いますけど、「それが好き」な人ですね。好きだと稽古を頑張れる。稽古を頑張ると強くなる。強くなると勝てる。勝てると楽しくなる。楽しくなると、もっと好きになる。……それを続けられる人じゃないかと思います」。

みなさんの姿、確かに、それを物語っていました。来るべき新入部員とともに、これからも前に前に進んでください!