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No.130

update.2022.08.24

京大合格へのアナザー・チャンス。意欲と志が実を結ぶ「京都大学特色入試」

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夏休みもそろそろ終わり。受験シーズンが近づいてきて、受験生のみなさんは勉強に打ち込むのはもちろん、志望校の選抜方式についても調べ始めている時期ではないでしょうか?
そんなみなさんにぜひ知っていただきたいのが、京都大学独自の選抜方式である「京都大学特色入試」。学力だけでなく、学ぶ意欲や志まで総合的に評価するというもので、試験内容は学部や学科によって異なります。

今回インタビューしたのは、特色入試で工学部物理工学科に入学した東さくらさん(4回生)。
特色入試に挑戦しようと思ったきっかけや高校時代の過ごし方、現在の大学生活について、さまざまなお話を聞かせてもらいました。京都大学に関心のある中高生のみなさんはぜひご一読ください!

今回の取材はオンラインで行いました

3年生になっても、100%楽しんだ高校生活。

――まずは高校時代のことから聞かせてください。東さんはどんな生徒だったんでしょうか?

「中高一貫の学校に通っていて、勉強もがんばっていましたが課外活動にも力を入れていました。中学時代は英語のスピーチコンテストに参加したり、高校では文化祭の実行委員を務めたり。サイエンスに力を入れている学校で、授業外で好きな研究に取り組める時間があったので、その活動にも積極的に取り組んでいました」

「第13回鳳凰杯中学生英語スピーチコンテスト」のファイナリスト8名に中学2年生で選出。スマートフォンとの付き合い方について英語でスピーチしたという

――どんな研究をしていたんですか?

「国際問題への関心から発展途上国の水をキレイにする方法を見つけたいと思い、身近な食材の辛味・香り成分を使って、水の殺菌・除菌ができないか実験しました。11種類の食材を比較した結果、ショウガやニンニクの効果が高いことがわかったんです。そのうえで、アフリカなどの暑い地域でも栽培することができるか、水ににおいがつかないようにするにはどうすればいいかなど、実現可能性まで考えました」

――ただ試すだけでなく、発展途上国で実現できるかどうかまで考えたんですね。課外活動と勉強の両立は、大変ではありませんでしたか?

「忙しくはありましたが、高校1年生のときから受験を意識してコツコツ勉強を進めていたんです。計画を立てて時間管理もしていたので、高校3年生になっても文化祭などの学校生活を100%楽しむことができました」

――1年生のときから始めるのは早いですね!そのときから京都大学工学部を志望していたのでしょうか?

「はい、1年生の頃から第一志望でした。小学校の高学年から高校まで、現役の京大生・京大院生が運営する塾に通っていたんです。とくに工学部の方が多くて、授業や研究室のこと、教授のことなど、いろいろな話を聞かせてもらっていて。自由の校風に身を置いて、研究をしたりアルバイトをしたり、好きなことに力を注いで充実した毎日を送っている様子を間近で見ていて、京大工学部に憧れるようになったんです」

――身近に京大生がたくさんいたことが、受験のきっかけになったんですね。

「工学部を目指したのはモータースポーツ、とくにF1を見るのがすごく好きだったという理由もあります。両親の影響で小さいときから観戦していたのですが、成長するにつれて車の設計に興味をもつようになりました。空気抵抗の少ないデザインにすることによって、性能に差が出るのがおもしろくて。それでいろいろと調べているうちに、工学部に進めば気体などの流れについて扱う流体力学という分野を学べることがわかったんです」

小学5年生の時からF1ドライバー、セバスチャン・ベッテルの大ファン。グッズを身につけて鈴鹿サーキットやテレビの前で観戦!

特色入試のことを知って、自主研究をブラッシュアップ。

――モータースポーツへの興味から、工学部を志されたんですね。入試方式に、特色入試を選んだきっかけも教えてください。

「京大でおもしろい入試がはじまったらしいということは高校1年生のときから知っていたのですが、私が進みたかった物理工学科では実施していなかったんです。でも2年生のときに始まって、課外活動をがんばってきたということもあるので挑戦してみようと思いました。もともと一般入試(※)は受けるつもりだったので、特色入試は『合格のチャンスが1回増える』という感覚でしたね」

(※「一般入試」は、令和3年度より「一般選抜」に名称変更しています)

今年度の特色入試ポスター

――なるほど、特色入試を選んだというよりも機会が増えたという感じだったんですね。特色入試の準備はいつ頃から始めたのでしょうか?

「物理工学科では、出願にあたって出身高校からは『調査書』と『推薦書』、本人からは『学びの設計書』と『顕著な活動実績の概要』の提出が求められます。書類は3年生になってから書き始めましたが、2年生のとき、出願には顕著な活動実績が必要だと知った瞬間から研究活動により力を入れ始めました」

――先ほどお話してくださった、発展途上国の水を殺菌・除菌するための研究ですね。

「はい。はっきりした実績として出せるように受賞を狙い、論文をブラッシュアップして、いろいろな機関や組織が行っているコンテストに応募したんです。その結果、東京理科大学が主催する『第10回 坊っちゃん科学賞研究論文コンテスト』の高校部門で優良入賞することができました」

――見事受賞されたとはすごいですね!学びの設計書にはどのようなことを書かれましたか?

「志望動機では主体的な学びへの思いをアピールするために、研究活動のことや京都府の教育委員会の助成を受けて3週間のイギリス留学をしたこと、スタンフォード大学のオンライン授業に参加したことを中心にまとめました。注意したのは、高校の先生に書いていただく推薦書と内容がかぶってしまわないこと。自分の強みをまんべんなくアピールできるように、先生と相談しながらそれぞれの内容を詰めていきました」

――推薦書にはどのようなことを?

「実際に先生が書き上げたものを読むことはできないのですが、文化祭でリーダーシップをとったことなどを書いていただけるようにお願いしました」

――学校の先生とも密に相談しながら準備されていたんですね。学びの設計書を作成するにあたり、大変だったことはありましたか?

「思ったよりも記入スペースが小さかったことですね。志望動機も入学後にしたいこともたくさんあったのですが、A4サイズの紙1枚分しか書けないので、簡潔にまとめる必要がありました。試行錯誤を繰り返したので、書き上がるまでに2~3ヶ月はかかったと思います。担任の先生や進路指導の先生、実際に特色入試に合格した高校の先輩など、いろいろな方に読んでもらってアドバイスをいただきました」

――早めに準備を始められたからこそ、周りの方々に相談する時間の余裕もあったんですね。学びの設計書を作成したことで、東さんのなかで変化したことはありましたか?

「『設計書』なので、入学してからどのように学びたいか・過ごしたいかについて具体的に考える必要がありました。そのために研究室まで調べられたのはよかったですね。特色入試に出願しなければそこまで調べなかったと思いますし、受験勉強だけに必死になって合格がゴールになっていたかも。入学前から大学生活についてきちんと計画を立てられたのは、私にとって収穫でした」

――大学生活自体が変わっていたかもしれませんね。合格の決め手になったのは、どんなことだったと思われますか?

「まさか合格するとは思っていなかったので、一般入試の準備も並行して進めていたのですが…勉強だけでなく、ほかのことにも打ち込んでいたのが大きかったのかなと思います。勉強ができるだけなら、一般入試でも合格できますよね。特色入試ならではということを考えると、積極的に幅広く、いろいろなことにチャレンジしていた姿勢が評価されたのではないでしょうか」

文化祭実行委員長を務めた高校3年生時の文化祭では、クラスでステージパフォーマンスを実施。ダンスフルなパフォーマンスをクラス全員で作り上げ、金賞受賞!

大学に入ってから見つけた、新たな関心。

――現在は入学前に希望されていたように、流体力学について学んでいらっしゃるのでしょうか?

「実は学びの設計書の内容から少し変わっています。高校生のときは流体力学への興味だけだったのですが、実際に幅広い授業を受けるなかで関心が広がっていって。今は機械製品に使われるさまざまな材料の構造設計について、PCを使ってシミュレーションする研究室に所属しています」

――具体的にはどのような研究なのでしょうか?

「本格的な研究はこれから始まるのですが、簡単にいうと、さまざまな制約があるなかで求められる機能を最大限に発揮するための構造を考えるという研究です。たとえば先輩はある材料について、特定の位置に荷重しても壊れない形をシミュレーションしていました。根底には材料の力学があるのですが、流体力学をはじめほかの分野のことも絡めて研究できるところに魅力を感じています。自動車や飛行機の設計をするうえでも必要な考え方ですし、将来的には流体が関わる材料の設計をしてみたいですね」

――高校でも物理は勉強されていたと思いますが、大学での学びと違いを感じるところはありますか?

「高校までは本当に基本しか勉強していなかったんだなと実感しました。基礎的な計算式とにらめっこしていた感じです。でも大学の授業では、その基礎的な物理が日常の現象にどう関わっているのかを教えてもらいました。イメージしやすいからこそおもしろくて、もっと勉強したいという気持ちになります」

キャンパスのなかでも国際交流ができる。

――東さんは京大生と接する機会が多かったので学生生活についてもリアルに想像されていたのではないかと思いますが、実際に入学してみて意外だったことはありましたか?

「好奇心旺盛でフットワークの軽い人が多いというのはイメージ通りでした。意外だったのは、留学生がすごく多いこと。高校のときは国際的な交流をしたければ留学するしかないと思っていましたが、留学生向けの英語の授業を履修することで、いろいろな国から来た学生と仲良くなることができます」

――キャンパス内も国際色豊かなんですね。たとえばどんな国のお友達がいるんですか?

「カナダ、スペイン、ニュージーランド、オーストラリア、中国、イギリスなど、本当にいろいろですね。グループワーク中心の授業で、ディスカッションしたりポスター発表をしたりするのですが、英語を使うのがすごく楽しいです」

――英語の授業には、とくにハードルを感じなかったんですね。

「はい、中学生の頃から英語がいちばん好きな科目だったこともあり、英語での講義にもスムーズに参加できました。意外なところで努力が実を結ぶこともあるんだなと感じています」

授業で知り合って仲良くなった留学生たちに、京都のおすすめスポットを案内

日本代表に選ばれた、模擬国連の活動。

――授業以外で、力を入れていることはありますか?

「模擬国連会議全米大会日本代表団での活動です」

――「模擬国連」ってよく聞くのですが、具体的にはどのようなことをするのでしょうか。

「名前の通り、国連の会議を模擬的に行うという活動です。実際に過去の国連で扱われた議題からひとつ選び、そのトピックについて各自が下調べをするんですね。会議自体はひとりひとりがイギリス大使やフランス大使などの役になりきって行うので、それぞれ担当する国のスタンスについても調べます。会議が終わったら決議文を書くというのが、模擬国連の一連の流れです」

――なるほど、実際の議題について自分たちでも話し合ってみるという活動なんですね。「日本代表団」というのは?

「模擬国連にはさまざまな大会があるのですが、世界最大の大会が毎年ニューヨークで行われています。その大会に、日本のいろいろな大学の模擬国連サークルから選ばれた9人が『日本代表団』として出場するんです。私はもともとニューヨークに行きたくて京大の模擬国連サークルに入って、実際に参加できることになっていたのですが、大会自体がコロナ禍で中止になってしまって…。準備にも力を入れていたので、とても残念でした」

――それは悔しかったですね…でも、わずか9人のうちのひとりに選ばれたなんてすごいです!どのように選抜されるんですか?

「大会に出場するのは1回生で、2回生からは『日本代表団派遣事業運営局員』という、プロジェクトを運営する立場になるんです。運営側になった学生たちが自分たちで選考問題を作って、メンバーを選んでいます」

ニューヨーク大会に向け、自身が考えた政策を英語でプレゼンする練習をしている様子。東さんは、社会開発や人権問題を扱う国連総会第3委員会の会議にパナマ大使として出場予定でした

――学生が運営しているんですね。

「すべて学生だけで行っています。大会に向けての準備だけでも充実していましたが、1年間運営するというのも私にとってすごくプラスになりました。同期9人で大会出場の準備を手伝ったり、ノウハウを伝えたり、スケジュールを管理したり。私は会計と渉外補佐も担当していました」

――「渉外補佐」とは?

「ニューヨークへ行く資金は、財団や企業にお願いして助成していただいてるんです。その交渉を担当するのが『渉外』で、私はその補佐をしていました。また、それとは別に省庁やアメリカ大使館、国連機関の日本事務所などに事業の後援をお願いしていました。毎年後援していただけるところもあるのですが、私たちは新しく開拓もしたいと思って。活動内容をわかりやすくまとめたパンフレットを作成してお送りするなど、積極的にはたらきかけることで実際に後援していただくことができました。会計としてお金の管理をしたことも含めて、社会に出てからも役立つ体験ができたのではないかと思っています」

――模擬国連サークルや日本代表団の活動において、東さんはどんなところにやりがいを感じていますか?

「模擬国連を通して、国際問題のさまざまなトピックについて分け隔てなく調べ、理解できたことです。自分たちが大使になりきってみることで、国際問題を解決する難しさを体感できました。模擬国連に参加するまでは、画期的なアイデアを議場に上げればそれが採用されて、問題も解決できると思っていたんです。でも自分の考えではなく各国の立場で議論することで、一筋縄ではいかないということがわかりました」

いろいろなことに触れた経験が、いつか実を結ぶかもしれない。

――これからの大学生活をどのように過ごしていきたいとお考えですか?

「学業のことでいうと、これから自分の担当する研究が決まるので、先輩に教えてもらいながらその研究に専念したいと思っています。あとは大学院に進むつもりなので、その試験に向けた勉強にも引き続き力を入れるつもりです」

――大学院に進まれる予定なんですね。将来の目標も教えていただけるでしょうか?

「まだはっきりと決まっているわけではないのですが、大学・大学院で身につけた専門知識を活かしたいなと考えています。日本だけでなく、海外にも出ていきたいですね。あとは、やっぱり自動車の設計に関わる仕事がいいです。国内の自動車業界でキャリアを積んで、大好きなF1に少しでも関われたら…と思っています」

――やっぱり東さんの思いの中心にはF1があるんですね!最後に、これから特色入試にチャレンジしようと思っているみなさんへメッセージをお願いします。

「学科にもよるのかもしれませんが、私の場合は特色入試の受験対策はほとんどしませんでした。ですので学校の勉強以外にもいろいろなことにチャレンジしていて、アピールできることがあるという人には、ぜひ気軽な気持ちでトライしてみてほしいです。そのためにも受験勉強が本格化する前に、少しでも関心をもったことには積極的に触れてみてください。特色入試に限らず、意外なところで実を結ぶかもしれません」

――東さん、ありがとうございました!

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