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No.143

update.2023.08.30

学力+意欲で勝負。「好き」の気持ちが合格につながる、京都大学特色入試

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京都大学には、「京都大学特色入試」という独自の選抜方式があります。学部や学科によって試験内容は異なりますが、学力に加えて、「学ぶ意欲」や「志」も評価する点は共通の特徴です。今回のザッツ・京大では、特色入試で入学した、理学部3回生の青沼はる香さんに、大学受験時のお話や現在の学生生活、iPS細胞研究所でのアルバイトなど、さまざまなお話をうかがいました!

生物以外は文系科目のほうが得意だった

――まずは高校時代のことから聞かせてください。青沼さんはどんな生徒でしたか。

「文化祭の実行委員や生徒会役員、学級代表など、運営に携わることが多かったです。中学生のときはそういうタイプではなかったのですが、お世話になっていた先生が『何か新しいことを始めてみたら?』と勧めてくださって。それで高校1年生のとき、文化祭実行委員に立候補してみたのですが、みんなでひとつのものを作り上げていくのが楽しくて、3年生まで続けました」

――積極的に過ごされていたんですね。学業面では、どんなことが得意でしたか。

「生物が好きでした!小学生くらいのころから生き物が好きで、中学・高校と学ぶにつれてどんどん楽しくなっていきました。

生物以外は社会や国語などの文系科目が得意でしたね。数学などはちょっと苦手だったので、大学進学では文理で迷ったのですが、先生に進路相談をしたときに、『生物学が好きなら理系を考えてもいいのでは』と言ってくださったんです。でもまだ迷いがあったので、親とも相談を重ねながら検討しました」

――文系科目のほうが得意だったんですね。理系の学部を受験するのは不安でしたか。

「数学が不安でしたね。受験でもいかに数学をカバーするか、最後まで考えていました。解答できそうな問題は絶対に落とさないようにして、解答しきれない問題は部分点を狙う。そういう戦法を取っていました。あとは、得意な生物と英語で点数を上乗せするという作戦でした」

高校2年生のときに、修学旅行で北海道に行ったときの様子

特色入試で始まった理学部生物科学入試に出願

――京都大学への進学を決めたきっかけは?

「高校の先輩でも進学する人が多かったですし有名な大学なので、ずっと意識はしていました。いろんな大学のオープンキャンパスに参加する中で、やっぱり京大が一番いいなと思って」

――どんなところが魅力的でしたか。

「農学部のオープンキャンパスに参加して館内を回ったのですが、すごく広くてびっくりしたんです。広大な敷地にたくさんの学部が集まっているのも魅力的で、いろいろなことが学べそうだと思いました」

――高校3年生のときは農学部を受験され、翌年に理学部を再受験されたと聞いています。学部を変更された理由はなんだったのでしょうか。

「最初に受験したときは理学部のことをリサーチできていなかったというのが正直なところです。『理系で生物をやるなら農学部』というイメージが強くて、自然と農学部を受験しました。 でも現役で落ちたときにもう一度進路を考え直して、京都大学のことも調べ直してみたところ、生物の基礎的な研究をするなら理学部の生物科学専攻のほうが向いているような気がしたんです。それで学生募集要項を見ていたら、理学部の特色入試で生物科学入試が始まることを知り、挑戦してみようと。ただ農学部にも魅力を感じていたので、農学部は一般入試(※)で出願しました」

今年度の特色入試ポスター

「特色入試」と「一般入試」の準備は、重なる部分が多かった

――なるほど、受験時にはまだ迷っているところがあったんですね。特色入試理学部生物科学入試では、1次選考で「学びの報告書」の執筆・提出、2次選考で口頭試問が行われたと思いますが、事前に何か準備はされましたか。

「生物科学入試が始まって1年目だったので全く情報がなくて、口頭試問はあまり対策ができなかったんです。その分、『学びの報告書』をしっかり考えようと決めて、力を入れました。『学びの報告書』に書いた内容のうち、特に伝えたいことは、口頭でもしっかり説明できるように準備したのを覚えています。

口頭試問については、特別なことはしていません。一般入試の生物は基本的に記述問題なので、それを口頭で説明する可能性を考え、少し意識していた程度ですね」

――一般入試と特色入試で、別の準備をしたというわけではなかったんですね。

「一般入試に向けて勉強しながら、『学びの報告書』も書かないといけないということはありましたが、そこまで負担には感じませんでした。早めに取り組んでいたのが良かったのかもしれません。なんとなく考えたことを書いてみて、それを書き直して…ということを繰り返していました」

――「学びの報告書」は受験生自身が興味を持っていることや、学生時代に熱心に取り組んだこと、大学入学後に学びたいことなどを書くものです。青沼さんはどんなことを書きましたか。

「生徒会で活動したことや、日本生物学オリンピックに出場したこと、アカハライモリに興味を持っていることについて書きました。入学後に学びたいことについては、文理問わず幅広い分野の授業を受けて、いろいろな知識を吸収したいという内容にしました。素直に、大袈裟にならないようにと意識していました」

――「学びの報告書」を書いてみて、いかがでしたか。

「高校時代はいろいろなことに取り組んでいましたが、経験が漠然と積み重なっていただけだったので、文章として整理できたことが良かったです。自分が何に力を入れてきたのか、改めて書き出してみたことで、いい振り返りになりました。

興味を持っていることについても、文章にすることで頭の中が整理されたと思います。入学後の目標も言葉にしたことで、『実現できるように頑張ろう』という気持ちになりましたし、このとき書いた内容は、今も心の中に残っています」

緊張しながらも、自分の興味・関心について熱弁

――「学びの報告書」に書いたことが、今の大学生活にもつながっているんですね。口頭試問はいかがでしたか。

「私が受験した時は、生物学の知識を問われるパートと、『学びの報告書』について話すパートに分かれていました。生物学についての試問は、教科書に載っているような現象・用語について口頭で説明するというものでしたね」

――青沼さんの得意分野なので、かなりスムーズだったのでは。

「それが緊張してしまって…先生方が5名ほどいらっしゃるし、タイマーも置いてあるしで、普段なら分かるような用語も出てこなくて、終わった後に思い出す始末でした。だから全く手応えはなかったです。一般入試よりも緊張しました」

――なるほど…、やはり緊張はしますよね。「学びの報告書」についての試問の方は、どうでしたか。

「こちらは、割とうまく話せた記憶があります。時間が限られているので、全ては話せませんでしたが、自分が興味をもっている生物や現象については、ほぼ全部伝えられました。雰囲気は生物学の試問のときと変わりませんでしたが、自分がしっかり分かっていることを聞いてもらえることに安心して、比較的リラックスして臨めました」

――自分の口で説明することを想定して、「学びの報告書」を準備されていたから、当日もしっかりお話できたのだと思います。具体的にはどんなことを話したんですか。

「主に、高校3年生のときに飼い始めたアカハライモリについて話しました。アカハライモリは日本の固有種なんですが、お腹の模様が生息地域によって異なっていて、まだ進化の過程にあるとも考えられるんです。身近な生物でありながら、遺伝的な進化の観点から形態の変化を見られるんですね。

また、再生能力の高さにも触れました。アカハライモリは組織に傷がつくと、そこを覆うようにして細胞が集まってきて未分化な状態に戻ったのち、再び分化して再生します。しかも、再生はがん化のリスクを伴うにもかかわらず、イモリはがんにならないと言われています。その理由を解き明かせば、将来的に再生医療やがん治療へ応用できるかもしれません。 お腹の模様のような生態学だけでなく、細胞・分子レベルでも考察できる、興味深い生物だと思っていることを説明しました」

青沼さんが飼っているアカハライモリの「ばーにょ」と「ななし」。計3匹を飼育しているそう。

高校教科書の一章が、何十章分にも展開する

――京都大学で学び始めてからの生活はいかがですか。生物学について関心が広がったり、イメージが変わったりしたことはあったでしょうか。

「高校の教科書に載っている生物学は、重要な点は押さえられていますが、それを深めるところまではいかないんですよね。でも大学で専門科目を受講すると、教科書では一つの章だったテーマが何十章分にも広がって、さらに分野が細分化されていくんです。それぞれの分野がすごくおもしろいので、自分が何を専門にするか絞り込んでいくのがとても難しい。できればいろいろなことをやりたいのですが…、3回生になって、徐々に興味のあることが絞り込めてきた気がします」

――今はどんな分野に興味をもっていますか。

「分子生物学系の研究です。これは私の理解ですが、生物学には生態学、動物行動学、系統分類学などのように、個体や集団をマクロな視点で研究する分野と、分子生物学、細胞生物学といった、細胞レベルの生命現象をミクロな視点で研究する分野の2つの系統が大きくあります。 入学前は両方に興味があって、生き物を捕まえて観察するのもいいなと考えていたんですが、学ぶうちに細胞内のDNAのように小さなところがおもしろくなってきました」

――分子生物学のどういったところに魅力を感じていますか。

「まだ分かっていないことがたくさんあるところですね。DNAから必要な情報だけがRNAにコピーされる『転写』と、RNAからたんぱく質が合成される『翻訳』のプロセスを解明したくて。一つの細胞の中にある遺伝子の情報はすごく小さいはずなのに、そこに全てが詰まっていて、私たちのこんなに大きな身体を動かしている。その不思議について、もっと解像度を上げていきたいです」

――細胞といえば、青沼さんは京都大学のiPS細胞研究所(CiRA)でアルバイトをされていると聞きました。

「はい、理学部の掲示板で新しいラボの研究アシスタントを募集しているという情報を見て。細胞を扱うラボですし、調べてみたところ自分の興味にも一致していたので応募しました」

――ラボでは具体的にどのようなことをしているのでしょうか。

「先生が研究されていることのお手伝いをさせていただいています。先生からヒントや課題をいただいて実験したり、関連する論文を読んだり、結果をスライドにまとめて発表したりしています。実験手法の練習もさせてもらえますし、研究分野の展望もうかがえるので、今後にすごく役立ちそうです」

iPS細胞研究所でアルバイトする青沼さん。

好きなことがあるなら、怖がらずに挑戦してほしい

――京都大学に入学して良かったと思うのは、どういったところですか。

「研究環境が充実していることと、周りの友達に恵まれていることです。みんな学問に理解があるので、講義で分からないことがあったとき、その分野が好きという友達に質問したら詳しく教えてもらえたり。生物が好きな者同士、話し合って考えを深めていけるのも楽しいです。先生をはじめ、自分の知りたいことについて答えてくれる人に囲まれているので、とても過ごしやすいです」

――大学でいい仲間に恵まれているのですね。これまでの学生生活で、特に印象に残っていることは?

「1回生のとき、約3週間のサマースクールに参加して、大学院の生命科学研究科にうかがい、研究の最先端の現場に触れたことです。アカデミアのトップである一流の研究室を学部生の身で見学できる、とても貴重な機会だったと思います。

このサマースクールに限らず、京都大学の先生は各分野のトップランナーばかりですよね。そんな先生が1回生の線形代数を教えていらっしゃったりする。それってすごいことですよね。京都大学は、滅多にできないようなことをたくさん体験できるチャンスに溢れた大学だと感じています」

――それも京都大学の魅力の一つですね。ちなみに、卒業後の進路はどうする予定ですか。

「大学院に進学して、専門性をさらに高めていきたいです。iPS細胞研究所でアルバイトを始めて1年ほど経ちますが、それで実感したのはあっという間に時間が過ぎること。成果が出るまで時間がかかる分野ということもあり、たった1年ではあまり進展が望めないんです。 学部生の期間だけでは不十分だと思うので、大学院でさらに興味のある分野を追求するつもりです」

――大学院では博士号を取得して、研究職に進むのでしょうか。

「研究に携わる仕事をしたいですし、大学院で博士号を取得することも視野に入れています。でも、組織運営も好きなんですよね。ビッグバンドジャズのサークルで代表を務めたとき、やっぱり運営もやりがいがあるなと実感したので、企業への就職も考えていて。将来については、また次の選択かなと思っています」

ビッグバンドジャズサークルのライブの様子。
青沼さんはアルトサックスを担当。2回生のときはバンドマスターも務め、コロナ禍で不安定な状況の中、スケジュール管理やライブ会場の手配を行っていたそう。

――最後に、特色入試を検討している受験生や京大への進学を目指している高校生にメッセージをお願いします。

「興味があるのなら、怖がらずに受けてみてほしいです。私自身は生物が好きでしたが、生物部だったわけでも、専門書を読んでいたわけでもありませんでした。教科書や資料集といった、高校で与えられる範囲でおもしろいと思っていただけです。また、日本生物学オリンピックには出場しましたが、メダルを獲ったわけでもありません。それでも、アカハライモリのように、おもしろいと思ったことについては自分なりに考察し、特色入試の口頭試問で語ることができました。審査される先生方も、高校生であることは十分承知したうえで熱意や可能性を見てくださるはずです。ぜひ挑戦してみてください」

――青沼さん、ありがとうございました!

(※「一般入試」は、令和3年度より「一般選抜」に名称変更しています)

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