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No.125

update.2022.03.30

新たな図書館像を示す「桂図書館」!~研究を支え、発信する新たな「場」~

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皆さん、京都大学桂キャンパスに図書館が開館したことはご存知でしょうか。その名も「桂図書館」。桂キャンパスで工学研究科の教育研究活動が開始した2003年から17年の時を経て、2020年春、キャンパスの中心であるBクラスターに誕生しました。図書館といえば「静かに学習する場所」というイメージがありますが、どうやら桂図書館は従来の図書館機能に加えて、新たな側面を持っているそうです。
開館が待ち望まれていた桂図書館とは一体どのような施設なのでしょうか。桂図書館の原竹課長補佐、助光専門職員、奥平掛長にお話をうかがいました!

開館までの道のり

桂図書館の設置は、2003年の桂キャンパス移転開始以前から計画されていたと原竹さんは話します。

原竹さん「予算要求を継続して行った結果、2016年度末に建設が決定しました。そこから2020年の開館に向けてフロアプランや必要な設備など、急ピッチで大小様々なことを決定し、作業を進めていきました。

最も時間をかけて行ったのは、資料の移転作業です。桂図書館開館以前は、桂キャンパスと吉田キャンパスそれぞれに工学の地球系、建築系、物理系、電気系および化学系の5系10図書室が点在していました。それらに収蔵している資料を集約する必要があったので、2017年から3年間かけて、各図書室の職員が協力し、重複している雑誌や書籍の調査や整理を実施しました。

系ごとに異なっていた資料の分類を統一する作業では、図書のデータ変更処置と図書の請求記号ラベルの張り替えなどが伴い、各図書室で約半年をかけて約12,000冊の処理をしました。

現在、桂図書館には桂5系図書室、吉田地区の5系図書室、そして附属図書館から集約された約33万冊の資料が収蔵されています。

桂図書館の設置は職員の業務効率化にもつながっています。例えば、これまでは各図書室で個別に雑誌や図書を発注していたのですが、桂図書館では1つの掛が担当しています。時間や人手にほんの少しでも余裕が生まれたことによって、これまでは開催が難しかった講習会など利用者への学術情報リテラシー教育の機会を増やすことができるのではないかと考えています」

もちろん移転作業中も各図書室の通常サービスは停滞することなく続けられていたとのこと。膨大な作業を経て、ようやく2020年4月7日に開館しました。

こちらは自動貸出返却機。桂図書館では、学内の図書館・室として初めて本の管理にICタグ を導入。1冊ずつバーコードを読み取る必要がないため、複数冊まとめて貸出・返却処理が可能に。ICタグの導入はこのようなサービスの迅速化だけでなく、蔵書管理業務の効率化も実現
2020年12月には盛大な開館記念式典が開催されました!

コンセプトは“世界最先端の高度で創造的な研究を推し進めるための「グローバルな情報収集・発信機能」を発揮できる図書館”

設置計画の段階から、研究発信や研究支援を重点的に行うことを目指していた桂図書館。そのコンセプトは、“世界最先端の高度で創造的な研究を推し進めるための「グローバルな情報収集・発信機能」を発揮できる図書館”。以下の4つの目標を掲げています。

1. エリア連携図書館の整備

桂図書館は工学研究科の専門図書館機能と、理工系資料の保存・提供拠点といった全学図書館機能を合わせ持つ「エリア連携図書館」です。桂図書館には附属図書館から移転された理工系雑誌のバックナンバーが収蔵されています。また、エリア連携図書館として研究成果のオープンアクセス、オープンサイエンスを推進していきます。

2. グローバル・イノベーション拠点の創出

学術研究支援室(KURA)と協働で、図書館を起点として工学研究科の研究シーズを可視化・発信する「テクノサイエンスヒル桂構想」に取り組んでいます。

具体的なプロジェクト

    • 桂の庭 〜京都大学桂図書館研究シーズ・カタログ
      館内での研究シーズの展示、ウェブサイトで研究者へのインタビュー動画を発信
    • 『桂の実(みのり)』
      研究シーズと企業との連携イベントを開催
    • 館内や桂キャンパス全体をフィールドとした実証実験

こちらが『桂の庭』の展示。研究内容を図や映像とともにわかりやすく紹介

(左)LIDAR(Light Detection and Ranging, Laser Imaging Detection and Ranging)の実証実験が進行中。反射光から対象の方向や距離を測定し、館内の混雑状況を検証しています(右)開館記念式典でも披露された職員の業務を手伝う支援ロボット 。物品の搬入や学内便の集配を行います。ロボットの動作だけでなく、ロボットに対する人間の反応を検証しているとのことです

3. 理工系・科学技術アーカイブの構築

近年、研究成果の発信だけでなく、成果に至るまでの研究データを蓄積し公開することの重要性が増しています。桂図書館では、実験ノート、学位論文など理工系独自の情報資源の収集・整理や、研究データ管理支援業務の検討が進められています。

4. 地域・社会への貢献と共生

近隣企業の研究者をはじめとする学外者が桂図書館を通じて必要な学術情報を入手できるよう、資料提供やレファレンスなどのサービスを行っています。

建物を見学!

桂図書館の開館までの経緯や、機能・役割について理解が深まったところで、実際に建物の見学へ!
地上2階、地下2階(書庫)の4階構造。桂キャンパスの他の建物と調和のとれたレンガを基調とした外観になっています。

正面玄関は2階に。ちなみに桂図書館正面入口の銘板は、桂キャンパスの銘板同様、附属図書館所蔵の国宝『今昔物語(鈴鹿本)』 から集字されています。

正面玄関を抜けると左手には1階へと続く緩やかな階段、右手にはインフォメーションカウンターがあります。トップライト(天窓)が空間の明るさを演出しています。

●1階

まずは階段をおりて1階へ。広々とした閲覧室が現れます。壁には理工学系の新着雑誌がずらりと並びます。桂図書館では理工学系の約4,000タイトルの雑誌を収蔵。長い歴史をもつ工学研究科では、創立当初から収集してきた貴重な雑誌も多く、電子ジャーナルだけでなく紙媒体も重要なコレクションの一つとなっています。

館内は、黒と柔らかい木目調で統一され、スタイリッシュな雰囲気になっています。什器の選定やデザインを担当したのは、工学研究科建築学専攻の平田晃久教授。実際に桂図書館の模型を作って、学生や職員と一緒に空間デザインを進めていったそうです。

そして最大の特徴は、東側一面のガラスウォールと吹き抜け天井。桂御陵の竹林の向こうに京都市内が一望できます。ガラスウォール前のソファは研究や勉強の合間にリラックスするのにぴったりの場所。景色を見ながらゆったりとした時間が過ごせそうです。天気の良い日はテラスにも出られるとのこと。「このガラスウォール付近は教職員や学生の憩いの場になっています。私もここから見える美しい景色がとても気に入っています。」と奥平さん。

建築デザインの監修は、図書館設置の計画段階から携わってきた岸和郎 名誉教授が担当。坂の上に広がる桂キャンパスの立地を活かして、館内のどこからでも景観を楽しめるような設計になっています。また、室内からも青空が望めるように設置されたトップライトも岸先生のこだわりとのことです。建物の東側は1・2階部分が斜面に飛び出したデザインになっています。

閲覧室には第23代総長である長尾真先生から寄贈された約5,000冊の図書を集めた「長尾文庫」も。長尾先生の専門である情報学・言語学から、趣味の書道、そして哲学や宗教といった教養全般を含む多彩なコレクションとなっています。学内外から注目を集める長尾文庫の目録は桂図書館のWebサイトで公開されているので、ぜひチェックしてみてください。

他にも個別学習室やグループ学習室や、4K対応85インチの大型テレビとスピーカーを備えたシアタールームも。桂図書館で所蔵している映像資料(Blu-ray・DVD)や持ち込みの資料を大迫力の映像で楽しめます。自動販売機が設置されているラウンジもあり、桂図書館オリジナルブレンドのコーヒーも販売されています。

●2階

続いては2階へ行ってみましょう。

メディアクリエーションルーム

「図書館としてはめずらしく本格的なスタジオを併設したメディアクリエーションルームも完備しています。研究・学習用の動画コンテンツの制作支援を目的として設置されました。動画編集やグラフィックス制作に対応したパソコンもあります」と助光さん。
動画コンテンツの需要が高まっている近頃、このメディアクリエーションルームは教育・研究の各方面で重要な役割を果たしていきそうです。「他キャンパスの学生や教職員、そして桂キャンパス周辺の企業の方にもぜひ利用してもらいたいです」と原竹さんは話します。

2階も東側がガラスウォールになっているので、1階とはまた違った眺望が楽しめます。

オープンラボ、リサーチコモンズ

研究者間の交流を活性化させ、学生の知的活動を促すとともに学外研究者との協働を促進することを目的としたエリア。オープンラボとリサーチコモンズは可動式の壁で区切られているため、最大110席の1つのフロアとして使用することも可能です。桂図書館主催の講習会や、『桂の実』のイベントもここで開催されています。現在、オープンラボは学習スペース、そしてリサーチコモンズは少人数のグループで対話しながら利用できるスペースとして活用されています。

工学研究科、そして京都大学の研究を推し進め、発信する「場」に

館内での研究成果展示や実証実験といった取組、メディアクリエーションルームの設置など、従来の図書館のイメージを大きく更新するような機能を備えている桂図書館。ただ、そういった新しい取り組みだけでなく、桂図書館という存在自体が利用者にとって大きな意味を持っていると原竹さんは話します。

原竹さん「開館から約2年。SNSでは好意的なコメントを多くいただいています。桂キャンパスの中で研究室以外にも居場所を提供するという役割を果たせているのではないかと感じています。特に留学生を含めた学生にとっては、自分ひとりの時間が持てるほっと一息つける空間になっているのではないでしょうか。
またコロナ禍においても、他キャンパスからの利用者も多くみられます。これは、図書館機構というネットワークによって、桂図書館が全学の図書館・室の窓口として機能し、充実した図書館サービスを提供できていることを示していると思います。」

最後に、桂図書館の今後の展望についてお聞きしました。
原竹さん「従来の図書館機能に加え、特に大学院生や研究者に重点を置いた研究活動サイクルの各場面で必要となる支援サービスを充実させ、学術情報のオープンアクセスやアーカイブ事業などで学内をリードする役割を果たしていきたいと考えています。『今、図書館として何ができるのか』ということを常に前向きに考え、他の部署やKURAと協働し、利用者のニーズに応えていきたいです。
また、学内外の研究者が世界中から集い、議論し、新たな研究を生み出す「場」となることを目指しています。さらに、図書館の内外が「実験場」として様々な実証実験が行われることによって、工学の発展に寄与できればと思います。現在、館内では複数の実験が行われています。図書館で最新の研究に出会えることは珍しいですし、図書館が研究発信の「場」となる新しい取り組みを今後も続けていきたいと考えています。」

工学研究科、さらには京都大学の研究発信・研究推進を支える「場」として、既存の枠にとらわれず、新たな図書館像を提示する桂図書館。これからの活動にも大注目ですね!原竹さん、助光さん、奥平さん、ありがとうございました!


関連リンク

桂図書館(利用についての詳細は、ウェブサイトをご確認ください。)
桂の庭