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No.124

update.2022.02.24

北海道・利尻島で京大生が「昆布干し」!?クラウドファンディングで300万円の支援を得た、異色の取り組みに迫る!

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北海道の利尻島と聞いて「利尻昆布」をイメージされる方は多いでしょう。では、その生産工程である「昆布干し」を、京大生たちがアルバイトでサポートしていたことはご存知 でしょうか?実は2019年に始まったこの取り組み。すでに3年連続で実施されています。2021年に参加した工学部4回生の山内景介さんから「まさに『ザッツ・京大』」だと教えてもらいZoom取材を決行しました!このプロジェクトに関わりのある皆さんの声を交えつつご紹介します。

取材オファーをくれた山内さん。過去にも「ザッツ・京大」の取材に協力してくれました。山内さんが欧州で実施したバイオリン工房調査の記事はこちらから!

繁忙期の労働力不足を解消するべく、京大生が助っ人に!

利尻島は北海道の最北端、稚内西沖に位置する離島で、昆布漁やウニ漁などの水産業が基幹産業となっています。しかし人口減少や高齢化が著しく、漁繁期の労働力不足が長年の課題となっていました。そんななか、文学部の卒業生(2013年度)である大路幸宗さん(株式会社文継) が、2019年の春に島を訪問。ベンチャー企業で営業責任者を務めつつ地方創生事業をライフワークとする大路さんは、縁あって利尻町役場に勤める小坂勝哉さんと、その兄である漁師の小坂善一さん(株式会社膳)から相談を受けたといいます。

左から勝哉さん、善一さん、大路さん

大路さん「毎年おおむね6月下旬から8月上旬までの繁忙期に、干し子と呼ばれる昆布の干し手が足りず、このままだと利尻昆布の生産に甚大な影響があるかもしれないと聞き 、母校の学生と一緒に手伝えないかと考えました」 1人でも2人でも来てくれたらいいなとチラシをつくったところ、当時2回生だった総合人間学部の中垣太樹さんをはじめ、約10名もの参加希望者が。「しかも、いざ実施してみると参加学生たちの反応がいい。島側だけでなく、京大生にとっても需要のあるプロジェクトだと感じました」と語る大路さんに対し、中垣さんは「2週間ぐらいなら授業も大丈夫かなと軽い気持ちで参加したんですが、予想外にはまってしまいました」と笑顔で返します。 中垣さん「早朝の作業後に島の皆さんと一緒に朝ごはんを食べながら語らう時間もあり、とても楽しかったんですよね。ずっと都市で生活してきた僕が、自然に左右される仕事をして生きている人たちのところに飛び込んだことは、自分の人生を振り返るきっかけにもなりました」 「アルバイトで来てもらっている地元の人たちも、とても喜んでくれています」と、善一さんは周囲の反応を伝えます。「分担作業ができて効率も上がり、労働力としても非常に助かっています。だけどそれ以上に、人間的なつながりを得たことが大きかったんですよ。大学生と漁師、そして島民が心を寄せ合いながら、いろんな話ができる。私たちと接することが少しでも彼らの成長につながればと願っていますし、私自身も大学生から多くを学んでいます

昆布干しを行う中垣さん

継続するために行ったクラウドファンディングで300万もの支援が…

こうしてすぐに、翌年の継続が決定。ところが、 受け入れ体制が整っておらず、シャワー室もない公民館を宿泊先として活用しているという状況でした。 大路さん「地方創生事業で外部から人を連れて来ようとしたとき、必ずぶち当たるのが宿泊施設の問題です。それを空き家問題と掛け合わせて解決できないかと考え、空き家の引取費用や水回りなどの修繕費を集めるため、クラウドファンディングを実施することにしました」 利尻島の海産物や特産品などをリターン商品とし、2020年5月初旬にスタートさせると、京大OB/OGの支援も得ながらわずか5日間で目標としていた150万円を達成。最終的には300万円近い支援が集まり、宿泊施設の設備や備品、自転車なども用意できました。 善一さん「利尻島を応援してくれる人たちが全国にこれほどいるのかと、島の人たちもとても喜んでくれて。コロナ禍で暗くなっていた島に明るい光が差し込みました。今まで知らなかったクラウドファンディングというノウハウに、 周りの人も興味を示しているので、どんどん波及してほしいですね。さらに受け入れ体制が整えば、島全体が盛り上がっていくと思います」 この年から、空き家を改装した「京大荘」を拠点に活動することになり、シーズンになると10名前後の京大生が集結するように。コロナ禍によってオンライン授業が主流になったことでより参加しやすくなり、2021年には工学部の山内さん、総合人間学部5回生の赤尾奏音さんらも利尻島へとやって来ました。

こちらが京大荘

山内さん「せっかくの4回生の夏休みなので 、北海道へツーリングに行こう、でもお金がないなと思っていたところ、学内でチラシを見かけました。利尻島でアルバイトができ、時給が1,800円。体に電流が走ったような衝撃を受け、これは行くしかないと運命を感じました(笑)」 赤尾さん「以前、旅行で行った利尻の自然や人の優しさが気に入り、再び訪れたいぐらい島が好きになりました 。せっかくならもっと長く滞在してみたいと思っていたところ、たまたま学内の掲示板でバイト募集を見つけて即決しました。内定している就職先では、農林水産物の輸出など1次産業の人たちと関わる機会もあったため、学生のうちに働き方を見ておきたいという思いもありました」

左から山内さん、赤尾さん、経済学部4回生の中井拓海さん

自然に左右される仕事を経験することで、新しい価値観に触れられる

漁のある日は、午前2時半頃に善一さんから学生に昆布干しの実施について連絡。昆布干しに雨は大敵で、1日中晴れていないと干すことができません。天候に問題がなく実施されるとなれば、3時前には干し場へ集合します。そして、漁師さんたちが海から引き揚げてきた昆布を、男性陣がナイフでロープから引き剥がし、みんなで干していく作業を8セットほど繰り返します。昆布の量は多いときで5トン規模。学生を含めた約30人で3~4時間かけて干していきます。

砂利敷きの広場一面に昆布を広げ、その上からネットをかけて昆布を干す

「これが本当にしんどいんですよ。やはり時給1,800円にはそれなりの理由がある」と苦笑いする大路さん。しかし新しい価値観に触れられることが、とても貴重なのだと振り返ります。「常に合理化や論理性が求められる3次産業と違い、自然相手の仕事には非合理で論理の通じない世界がある。毎年1カ月間ですが、そこに触れられるのは自分にものすごくプラスの影響を与えてくれています」 それに頷く山内さんは「普段何気なく食べていた昆布が、大変な過程を経て食卓に並んでいるという事実を知りました。 食べ物をいただくということがどれほどありがたいかを実感できたことが、まず大きな学びでしたね」と回想し ました。 夢中で昆布を干していると、気づけば朝に。その後、 善一さんの奥さんや地元のお母さんたちがつくったおいしいごはんをいただきます。 カニ汁だったり、ウニおにぎりだったりが、毎朝食べられるんだとか。

この日の朝ごはんは、ほかほかの白ごはんの上にたらこといくら、そしてかに汁。

中垣さん「3年連続で参加しているのは、やはり大変さよりも魅力のほうが格段に勝っているから。1年のサイクルのなかで、夏は利尻に行くことが当たり前のように組み込まれています。今後どう生きていくのか、普段生活している京都から離れた自然あふれる利尻でじっくり考える時間をもてた意義は大きかったです」 学校の先生や医者など、本業がある人も朝の時間を利用して昆布干しを手伝うそうです。赤尾さんは「シーズンになると仕事に関係なく、島のみんなが一丸となって昆布のために働いている。普段接点を持てないような人たちと話ができたことも思い出深いです」と振り返ります。 朝食後は少し仮眠をとり、オンライン授業を受講。授業のない学生たちは、島の飲食店やウニの殻むきなどのアルバイトをしたり、釣りや観光へ行ったりと、各々で過ごします。12時頃からは昆布のよじれを直す手入れをし、15時頃に乾いた昆布を回収。17時頃から夕食の準備をして食事し、20時頃には眠る毎日です。 山内さん「自由に過ごせる時間も多かったので、島の自然に触れたり、人力で畑を耕したり、利尻島の歴史を調査したり、利尻の食材を活かした料理を開発したり…。それぞれ好奇心の赴くままに活動していました」

善一さんの企画により、週に1度はBBQを開催。おいしい魚介類を食べながら、島の皆さんや大路さんの他業種の友達など、さまざまな人たちと語り合えたのも印象深かったよう

直面した地方の課題に自分事として取り組む姿が、まさに「ザッツ・京大」

昆布干しの取り組みは京大生のなかでも徐々に認知度がアップしています。その影響もあって、島や海洋生物の研究をしている研究室の新たなフィールドとして利尻島が選ばれたり、地方創生や水産業に興味のある学生が興味をもち始めたりと、新たな展開を見せています。 善一さん「山がある地区なので、少しの予報のズレで一気に曇ることもあり、天気を読むのが毎日大変なんですが、気象を研究し、天気を予測してくれる学生さんもいて。島に来た京大生が何にでも興味をもってくれて、私たちのことも真剣に考えてくれるので本当に心強い。この取り組みは一言で表せないぐらい良いものだと改めて感じています」 勝哉さん「京大生と集落などが関わる機会をさらに増やして、地域コミュニティの活性化につなげたいですね。地域と多様に関わる『関係人口』の創出のモデル事業にできればと考えています。島の人口は、2040年には現在(約4,000人)の半分以下になると推計されています。そうなった場合、今の暮らしはどうなるのか。京大生のみなさんには、未来の利尻島を可視化し、島民にわかりやすく伝える方法についても、一緒に考えてもらえるとありがたいです」 参加した京大生への影響も絶大で、なかには自分の将来を見つめ直したいと、1年間休学して利尻島に移住する学生もいるのだとか。大学の授業をオンラインで受けながら、地方の労働人口不足を解決し、さらにその島でそれぞれの興味関心に従って個性を伸ばしたり、自分ごととして地方の課題に取り組んだり、新たな人生を歩み出したりする。「その様子がまさに『ザッツ・京大』だと感じた」と山内さんは言います。 さらに京大生たちは、京大荘の前に位置する利尻高校の生徒たちの交流企画にも取り組みました。アルバイトシーズン後の2021年11月には、修学旅行で京都へ来た利尻高校の生徒と、京都の東山高校の生徒との交流事業を実施。各班に1人の京大生がサポートする形で清水寺を案内しました。 山内さん「利尻島で生まれ育った高校生と仲良くなりたいと思い、その最初の手段として利尻島とは違う場所で暮らしてきた経験を伝えられるかもしれないと、何気ない会話や進路の相談から始めました。ちょうど知り合った先生が交流に熱心な方だったので、京都での企画がもちあがったんです。大路さんに相談し、つながりのあった東山高校を紹介してもらったことで高校生の交流企画が実現しました。違う地域の同年代同士のふれあいの機会はお互いにとって貴重だったようで、利尻高校の生徒たちからは、とても新鮮で刺激があったと喜ばれています」 一方、漠然と大学に進学するものだと思っていた東山高校の生徒たちにとっても、同い年の子が翌年から漁師になると聞いたときの衝撃は大きかったようです。今度は利尻に行ってみたいという生徒も現れ、また新たなつながりが生まれそうな予感がしています。 善一さん「利尻島の子どもたちは競い合うことが少なく、刺激を受ける機会もそうありません。そんななか京大生とふれあい、身近な存在になったことで、そもそも考えもしなかった一流大学への進学をめざす子も出てきました。自分にとって京都は、もともと昆布ではつながりがある地域でしたが、この昆布干しアルバイトをきっかけに、毎年訪れるようになり、より関係性が強まってきています」

ますます深刻になる労働者不足の問題を解決するための突破口に

過疎化や高齢化、労働力不足など、利尻島の課題は氷山の一角に過ぎず、あらゆる離島、地方で近しい問題が起こっている。漁業だけでなく農業や林業なども本質の問題は同じだと、皆さん口をそろえます。 勝哉さん「離島は日本の縮図と言われているとおり、利尻島にも未来の日本の課題が濃縮されています。これらの課題を一つでも解消できる成果が上げられれば、島固有の役割を果たすことにもつながるはずです。この利尻島での取り組みが将来に向けたものであることを内外で共有できれば、これからの活動も活発化していくと考えています」 このプロジェクトの社会にとっての価値は、新しい二つの「当たり前」をつくっていくことだと大路さんは分析します。「一つは大学生が地方から学ぶという当たり前、もう一つはワークシェアという当たり前です。 人口減少が加速度的に進む中、従来のような専業ではなく、いろんな人が兼業や副業していかないと、国自体が立ちゆかなくなります。こういった新しい当たり前をつくっていき、 利尻だけで終わらせず、全国にも広げていきたいですね」 一連の企画は、漁師の善一さんと役場の勝哉さん、民間の大路さんという、3人の存在があったからこそ形になったもの。地方創生にとって「人」は欠かせない要素だということが、山内さんにとっても重要な学びになりました。「地元の福井県が過疎化していることもあり危機感を抱いているので、自分も将来、大路さんのように福井を始め、いろんな地方創生に携わっていきたいと考えています」 課題解決に向けて真剣に考えながらも、楽しい時間も共有できることが「昆布干し」プロジェクトの良いところ。来年にはサウナをつくるという計画も浮上中なのだそう。学生のアイデアに対し、いいねと言ってくれる大人が多いので、きっと面白いことができるはずだと、参加者たちは語ります。 中垣さん「自分の興味をもったことに直進するような人に、ぜひ参加してほしいですね。新しい発見を得られるだろうし、その発見を共有してもらうことで、僕らが想像できないことが起きていくのではと思います」 赤尾さん「利尻はフレンドリーで温かい人が多いです。自分から飛び込むと、今まで関わりのなかった人とも濃密な関係が築ける。新しい関係性をつくることに積極的な人にはお勧めですよ」 「一時的ではない一生ものの人間関係を築けたことが、自分にとって財産です」と、善一さんもうれしそう。 2022年度もまだ若干名昆布干しアルバイトの空きがあるそうです。もう単位を取り切ってテストの心配がない上回生や休学中の学生を中心に募集するとのこと(滞在期間最低1ヶ月)。気になる方は、大路さんに連絡してみてください。 みんなを笑顔にするプロジェクトの今後に期待ですね。 京大昆布干しインターシップHP 利尻島京大昆布干し5周年記念動画 Short ver 利尻島京大昆布干し5周年記念動画 Long ver

■関連リンク

京大生、北海道・利尻で昆布干しバイト 地元は担い手確保 学生は島暮らし体験 北海道新聞(Yahoo!ニュース)