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No.52

update.2020.06.25

人類史上初! 8重跳びに挑戦する「ギネス世界記録」保持者

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こんにちは。ザッツ京大編集部です。

突然ですが、みなさん、
「縄跳び」と聞くと、どんなことを思い浮かべますか?
体育で習ったあや跳び? それともクラスメイトと跳んだ大縄跳び?
遊びやトレーニングなど、実際にやったことがある人がほとんどなのではないのでしょうか。

それではさらにもう一つ質問です。
「8重跳び」って聞いたことがありますか?

1回のジャンプの間に、空中でロープを2回転させるのが2重跳び。
でも「8重跳び」となると、そもそも聞いたことがある人自体、少ないのでは?!
なにしろ、8重跳びはまだ人類が成し遂げていない記録なのですから。
しかし、なんとそんな「人類初」の領域にチャレンジする人物がいるとの情報が!

まずはこちらの動画をご覧ください。

キレのある動き、驚きのジャンプ力、見えないほど速く回転するロープ。
小学生の時に楽しんだ縄跳びとは似ても似つかない技の数々に圧倒されます!

今回取材してきたのは、本学卒業生の森口明利さん(工学部卒業・エネルギー科学研究科修了)。
大学在学中に縄跳びの面白さに気づきのめり込むと、さまざまな縄跳びの世界記録に挑戦しました。
卒業後は地元の会社に就職し、仕事の傍ら鍛錬を重ねて、5重跳びや6重跳びの連続回数のギネス世界記録を塗り替えます。
そして、2017年には7重跳びのギネス世界記録を樹立しました。

実は、この「7重跳び」を跳べるのは今も世界で、森口さんただ1人。現役の「ギネス世界記録」保持者です。
現在は、仕事を辞めて縄跳び一筋、「プロ」として活躍しています。

そんな森口さんのさらなる目標が、人類がまだ成し遂げていない「8重跳び」。
わが道をいく森口さんに、好きなものに突き進む人生の歩み方や、目標を達成するための工夫などなど、お話をうかがいました!

世界で僕にしかできないことに挑戦する

人類初の8重跳びを目指すくらいだから、アスリート気質でさぞかしストイックな方のはず……。
そんな予想とは裏腹に、インタビューが始まると屈託のない笑顔で話してくださいました。

身振りを交えながら気さくに語る森口さん

――縄跳びを本格的に始めようと思ったのはいつごろからですか?
「京都大学に入学してからですね。見学に行った縄跳びサークルで、それまで見たことのなかった技を目の当たりにして興味を持ちました。在学中はダブルダッチの大会に出たりしていました」

――5重跳びや6重跳びなどの記録に挑戦するようになったきっかけは?
「元々、ダブルダッチだけでなく黙々と縄を跳ぶのも好きでした。大学1回生の時から5重跳びなどに挑戦しようと思い始めて、練習を開始して。大学院生になって世界記録を目指すようになりました」

――5重跳びがスタートになるんですね。
「5重跳びからはじめて、それから徐々に目標を高く設定しました。大学院を卒業した後は、会社員として勤務しながら、トレーニングは欠かさず行っていましたね。社会人1年目で6重跳びのギネス世界記録を更新したんです。そこで、当時誰も成し遂げたことがなかった7重跳びに挑戦しようと思いました」

多重跳びは、高いジャンプや着地などのため、腰への負担がとても大きいとのことです。取材時は腰を痛めていながらも、軽やかに4重跳びを披露してくれました。

――会社員になってからも縄跳びを続けられていたとのことですが、なぜプロとして縄跳びに専念されることになったのですか?
「就職した後の大きな目標だった7重跳びを2017年に達成して、それを機にプロに転向しようと思いました。そのときに、ロープの回転数や滞空時間を計算して見積もったところ、『8重跳び』が十分に実現可能だと分かったんですね。年齢を重ねて筋力や基礎体力のピークが過ぎてしまうと達成できなくなるかもしれないし、中途半端に終わるのはもったいない。会社員を続けることで跳べなかった、と後悔するよりは8重跳びを目指して全力で挑みたいと決心しました」

――とはいえ大胆な決断ですよね……! 先行きに不安はなかったのでしょうか?
「7重跳びを達成できたことのほかに、奨学金を全額返済し終えたのもプロになる大きな後押しでした。経済的に自立できて、誰も到達できていない高みを目指せる。そして、8重跳びの成功は、世界で僕が一番近いところにいる。不安はもちろんありましたが、誰も成し遂げたことがない挑戦のほうが、魅力的でした

培った分析力を活かし、前人未到の偉業を目指す

――今のところ、8重跳びの達成度はどれくらいなのですか。
「実力が100%発揮できると、『7.7重跳び』ぐらいですね」

――「7.7」ですか! もうあとほんの少しのように感じますが、きっとこの0.3がすごく難しいんでしょうね。
「そうなんです(笑)。それでも昨年、2019年8月にギネス世界記録への公式な挑戦として跳んだ際には、『7.94重跳び』ぐらいまでコンディションを高めることができました。その日に照準を合わせてトレーニングをして、120%の力が発揮できた結果です」

――残り「0.06」まで迫ったんですね!! その「あともう少し」の壁を乗り越えるために、どんなトレーニングをされているんですか?
「基本的には週1でウェイトトレーニングをして、週3でロープを回す練習をしています。本気で跳ぶのは週に1回。ウェイトトレーニングではジャンプ力の要となる足とお尻まわりを重点的に鍛えています」

トレーナーの指導に従って、トレーニングに励む森口さん。
「ジャンプ力を鍛えるためには、お尻の筋肉が重要なんです」

――あのジャンプ力の鍵は「お尻」なんですか。でも、ロープを回すトレーニングの頻度が一番高いんですね。意外でした。
なるべく高く跳ばないで、5重跳びをどれだけの秒数で跳べるか計測をしています。できるだけ早く回せるようになるために、最初は少し重めのロープで練習して、最後に計測するときに本番用のロープで跳びます。跳ぶ前からの動作やロープの種類といった、回転数と関係が深そうなデータも記録しています。回転数が速くなった時の状況を分析し、目標達成のためのヒントにしています。今取り組んでいるのは、空中でロープを8回転、回し切る感覚を身体に覚え込ませることです。ジャンプ力が向上するジャンピングマットを活用しつつ、ジャンプ中に回し切る練習をしています」

2019年に8重跳びにチャレンジした際の様子。本当にもうあとほんのわずか!

8重跳びを達成するのに必要な「目標」の値を割り出し、実際の記録と比較した表。小数点第4位に至るまで細かくデータを確認し、目標達成にむけて着実に歩みを進めます。

スペシャリスト集団「八重SAKURA」で記録を伸ばす

――大記録達成への道は困難が多いと思いますが、森口さん独力で挑んでいるのですか?
「テレビ番組の出演を機に、8重跳び達成を目指してさまざまな分野のスペシャリストとチーム『八重SAKURA』を組みました。チームメンバーには多くの面でサポートしてもらっています。身体面では、パーソナルトレーナーの方にジャンプ力が向上するよう筋力トレーニングの指導を受けたり、カイロプラクティックの先生に身体のメンテナンスをしてもらったり。道具面では、縄跳び用のロープは、ワイヤロープでは日本で最もシェアを持つ東京製綱株式会社さんから、縄跳びのグリップは3Dプリンタなどの事業に取り組む株式会社RAKUDOさんから提供していただいています」

企業と共同開発した特注品であるワイヤロープとグリップ

――そんなチームがあるんですね! 特注のワイヤロープって、やっぱり普通のものとは違いますか?
「普通の競技用のロープは安価なステンレスが用いられていますが、僕の場合は速く回すことに特化するため、タングステンという金属でロープを作ってもらっています。今までの経験上、速く回転するための条件は、ある程度の重さがありながら、なるべく細いものであること。金属の剛性も必要です。試作品として作ってもらった何種類かのロープを実際に跳んで試します。その中から一番いいものを選び、また試作品を作ってもらってその中からさらに一番いいものを選ぶ。その繰り返しですね。この工程を3回行ってできたのが現在使用しているものです。もうこれ以上は誤差の範囲でしか変わらないのではないかというレベルまで到達しています」

――試作品を作るときには、森口さんはどこから関っているのですか?
「開発の段階から自分の意見を言いますね。東京製綱の研究員の方とここ1年間で6、7回ほどディスカッションしていますが、具体的な材質まで提案させていただくこともあります。例えば、白金。大学時代にカーボンナノチューブなど素材の研究をしていたので、金属の中では白金の密度がとても高く、安定していると知っていました。意外なところで大学時代の知識が役立っています

支えてくれる人と一緒に、ゴールを目指す幸せ

――縄跳びにどっぷりはまっている森口さんですが、その魅力は一体何でしょうか。
「自由度の高さが一番の魅力ですね。駆け足跳びや長縄8の字跳び、ダブルダッチなどいろんな種目があるので、自分の好きな種目を選べるところがいいです。やろうと思えば自分で縄跳びの種目を作ってギネス世界記録にチャレンジできます。自分のチャレンジとは別に縄跳び教室の講師もやっていますが、競技として取り組んでもいいし、友達と一緒に楽しみながらやってもいい。子どもたちはみんな笑顔で取り組んでくれています」

縄跳びの面白さや遊び方を広めたい。
そんな思いから、愛知県や福井県などで講師として活動しています。

――やりがいや喜びを感じるのはどんな時ですか。
できない技ができるようになった時の達成感はたまりません。僕はマラソンや100メートル走なんかを見るのも好きなのですが、人類が達したことのない記録を達成する瞬間に興奮してしまいます。縄跳びでもそういう感動を与えられたらいいなと思っています」

――まさに自分の好きなことで生活されているのですね。
「そうですね。8重跳びという人類未踏の記録を達成するために、チームの輪が広がり、さまざまな人が協力してくれます。一丸となって目標に向かって努力する今の日々は、本当に幸せです

「今の環境は幸せ」と語る森口さん。取材当日は八重SAKURAのTシャツを着ていました。同じ夢を追うチームの一体感が伝わってきます。

「なんでもありな大学」だからこそ、やりたいことにチャレンジできる

――回転数の分析や、道具の改良といったロジカルな思考を通してスポーツの高みを達成しようとされる姿勢は、森口さんならではの「強み」のように感じます。ちなみに、森口さんの思う「京大らしさ」って何でしょうか?
「そうですね。僕が考える『京大らしさ』は、自分のやりたいことにチャレンジできる『なんでもあり』な雰囲気です。大学で縄跳びに出会い、コツコツ努力を積み重ねて世界記録を目指すプロになりました。そのようなほとんどの人が選ばない道に進むと決められたのは、京都大学の『なんでもあり』な自由な校風が、本当に好きなことに出会えたならそれを突き詰めていけばいいと教えてくれたからだと思います

――高校生や後輩たち、そして読者のみなさんに何かメッセージをいただけますか?
「今、頑張っていることがあるなら、縄跳びでも研究でも、それをずっと続けていけば他の人が到達できない領域にたどり着けるかもしれません。せっかく自分のやりたいこと、好きなことがあるなら、突き詰めていってください。もし今はそういうものがない人は、いろんなものにチャレンジしてみて、自分が興味を持てるものを発見してください。大学院生時代に所属していた研究室の先生が、『数打ちゃ当たる』とおっしゃっていました。僕自身、数ある縄跳びの型のうち、いろいろチャレンジして今の形を見つけました。たくさん挑戦すれば、きっとどこかで成果が生まれるということです!

――それでは最後に、今後の目標をお願いします!
「もちろん、8重跳びの成功です! 前回挑戦したときは、数ヶ月前から挑戦当日に向けて、丁寧に調整を重ねました。次の挑戦時期はまだ確定していませんが、『その時』に向けて入念に準備を重ねて、多くの人の期待に応え、きっと夢を実現させたいと思います!」

人類史上初の8重跳びに挑戦する森口さんから今後も目が離せません!
森口さん、ありがとうございました!