2021.01.28
イグ・ノーベル賞研究者の音声教室 ~言葉と「コミュ力」まで~
こんにちは、「ザッツ・京大」編集部です。
今回ご紹介するのは、昨年、数々の快挙を成し遂げた京都大学硬式野球部(以下:京大野球部)。
実は、2019年の関西学生野球連盟秋季リーグ戦において、過去最高の順位である4位になりました。
同志社大学戦に勝利し、歓喜する選手たち。自力で秋季リーグ戦4位を確定させました。
この記録がどれほどすごいかというと、なんと、19年ぶりに最下位を脱出しての順位なんです! さらには、京大野球部史上最多の1シーズン5勝を挙げたというから、まさに大躍進です。
なにしろ、リーグ戦で対戦するのは、甲子園に出場経験のある選手を何人も抱える私立大学の強豪校ばかり……。ハイレベルな厳しい戦いの中で好成績を残した強さの秘訣に迫りました。
早速、取材に向かった先は、グラウンド……ではなく、パソコンの前。
今回はオンラインで取材敢行です(本取材は2020年6月11日に行われました)。
お話をうかがったのは現在主将を務める農学部4回生の北野嘉一さん。
昨秋のリーグ戦では驚異の打率4割5厘(!)をたたき出し、京大から9年ぶりのベストナインに選ばれるなど大活躍。
爽やかな笑顔を浮かべながら、はきはきとした口調で理路整然と話す姿は、まさに頼れるキャプテンというオーラにあふれていました。
――一昨年の秋季リーグ戦は大躍進でしたね。リーグ戦の開始前から「これは勝てそう」という目算があったのでしょうか?
「いえ、そんなことはありません(笑)。夏の練習試合から連敗が続き、『まだ令和になって勝ってないな』という話を部員同士でしていたほど状況が悪く、当初は秋季リーグ戦全敗もあり得ると思っていました」
――ええ、そうなんですか!? 何かものすごいスペシャルトレーニングでも導入して自信満々でシーズンに臨んだのかと思っていました。
「特別なことはしていないですね(笑)。例年にない取り組みといえば、当時の4回生の引退試合くらいです。でも、それによって、部員があらためて向き合って、自分自身がチームに貢献するんだという気持ちがみんなに浸透したように思います。試合に出ていない部員もスタンドから積極的に声を出して応援してくれました。打席に立ったとき、大きな声援が聞こえてきて心強かったことをよく覚えています。チームが一丸となって戦えたシーズンでしたね」
――なるほど、引退試合が躍進の鍵になったんですね。ところで現状はあらためておうかがいするとして、通常はどのように練習されているのですか。
「選手たちでトレーニングメニューを考え、連携面やチーム全体として足りていない部分の強化に力を入れて練習していますね。例えばノック中の動画を撮影して共有し、体の動作について改善できるポイントがないかなどを皆で確認します」
――コーチや監督の力を借りるのではなく、自分たちで考えているのですね! 特に意識している部分はありますか?
「一番重要視しているのは、練習する意味を考えることです。なぜ、チームで時間を共有するのか、どうしてそのメニューに今取り組む必要があるのか。一つひとつ意味を検討して、目標達成への最善の道を考えています。あと僕は、『チームワーク』といった言葉を使わないようにしています」
――それは意外! 団体競技には欠かせないキーワードかと思っていましたが、なぜ使わないのでしょうか。
「言葉として漠然とした印象があるからです。便利な言葉なのでなんとなく使ってしまいそうになるのですが、具体性がなく混乱を招く言い方はできるだけ避けるように心がけています」
オンラインでのトレーニングの様子。チーム一丸で勝利へのブリッジ!(マネージャーも参加することもあるそうです)
――なるほど。確かに曖昧なニュアンスの言葉によって、指示を受ける選手が困惑してしまう場合もありますよね。現在、新型コロナウイルスの影響でチーム練習などができない状況だと思いますが、どうしているんでしょうか。
「練習は各自が自宅で行っています。あとはオンラインで集まってストレッチしたり、ディスカッションする機会を設けています。最近、僕はチーム目標であるリーグ優勝の『意味』について考えていました。達成することで誰が喜ぶのか? 部員たちだけが喜ぶのでは、自己満足で終わるためもったいない。そこで、多くの人に喜んでもらえるような応援されるチームをつくりたい!と自分の想いをみんなに伝え、イメージを共有しました」
――目標は「優勝」ですか! しかし、その意味を自ら問い直すなんて、何だか哲学的ですね。それに実戦的な練習ができない状況でも工夫しているんですね。
「はい。また、他大学のピッチャーの分析も引き続き行っています。データを活かした野球は京大野球部の大きな特徴。チーム内にデータ班専任部員もいて、対戦相手の情報収集には余念がありません。例えば、1球1球、球種とコースを打ち込んでいき、解析ソフトを使って相手ピッチャーが投げる各球種の投球割合を算出しています。データを整理して事前に頭に入れることで、迷いなく打席に入れます。こういう状況だからこそ、『頭の準備』を徹底していますね」
打席に入る北野さん。相手ピッチャーの球種やコースについては試合前日までに予習し、バッターボックスでは無心になるそうです
――綿密なデータ分析や部員間での意識共有など野球部の特徴をうかがいましたが、北野さんが考える京大野球部のストロングポイントは何でしょうか?
「大きく2つあると思います。一つ目は部員一人ひとりがこだわりを強く持っているところです。ある選手は自身のスイングする動画を2000本ほど撮りためていました。自主的に毎日練習に打ち込んでいて、やると決めたときの継続力は本当に目を見張ります」
――2000本!? 気が遠くなるような動画本数ですね(笑)。残りのもう一つは?
「二つ目は、当然に聞こえるかもしれませんが、受験に合格したという『成功体験』をもっていることです。最初は思うように結果が出ないことが当たり前。その時間を成長期間として捉え、腐ることなく努力し続けられるかどうかが肝心で、受験と野球には共通する点があると思います。コツコツ努力を続けたことが、昨秋のリーグ戦の結果につながったと思っています」
――地道な努力の積み重ねから「結果」を出したことがあるのは確かに強い成功体験かもしれないですね。でも、私大のチームと違い、京大にはスポーツ推薦で入学する選手がいません。その点、不利だと感じることはありますか?
「全く思いませんね(笑)。だから、昨秋の成績で取材されることも増えて、とてもありがたい気持ちがある半面、『京大なのに』4位なんてすごい!と思われるのは悔しい気持ちもあります。私学には最初から完成された選手が入りがちですが、京大野球部は未完成でも成長の『伸びしろ』のある選手が多いです。確かに1回生で挑む新人戦では私大に手も足も出ません。でも、リーグ戦になる頃には太刀打ちできるようになっているので、大きな実力差はないと考えています」
今期の京大野球部の集合写真。新年に吉田神社前にて
――昨秋シーズンは北野さん個人としても大活躍のシーズンでしたね。この活躍は予想していましたか?
「いえいえ、それまでは壁の連続だったので意外でした。自信満々で入部したのに、試合に出るのもやっと。必死に練習を続けて、昨春のリーグ戦でついにレギュラーを取ることができたのですが、全く結果を出せませんでした。これが自分の限界かもしれないと、焦りが募りました」
――そんな挫折が……。でも、どのように乗り越えたのですか?
「どんな状況でも練習だけは絶対にやめないと考えていました。ただモチベーションがなかなか高まらなかったので、普段は左打ちですが自主練中は気晴らしに右打ちを試したりしていました。すると、右打ちのほうが力強くバットを振れていたんですね。それで動画でスイングを確認すると、右と左で腕の出し方に大きな違いがあると気づいたのです。左のスイングを右のスイングに近づけるようなイメージで練習したところ、『まだ成長できる』と実感しました。この発見が功を奏し、1割台だった打率が急上昇し始めたんです」
昨春のリーグ戦では1割7分程度だった打率が、なんと4割以上に……!
――ええ? 打率が1割台だったんですか?! でも、練習を続けたからこそ、自分の新たな可能性に気づけたんですね。
「目標は一定のスピードで近づいていく場合だけでなく、いきなり到達することもあるんです。ただ、それは天から自然に降ってきてはくれません。粘り強くバットを振ってきたからこそ、僕は大きく成長する『きっかけ』を掴むことができました」
首位打者賞を受賞する北野さん。努力が実を結んだ瞬間です!
――北野さんの野球に対する情熱は並々ならぬものがありますが、そもそもなぜ京都大学を目指したんですか?
「ずばり、京大野球部に入りたかったからです。高校選びの際も、進学校のチームで私学の強豪校を倒したいと思っていました。高3の夏に部活を引退するまで野球ばかりでしたが、その後は勉強漬けの毎日でした」
――強豪校に入るのではなく「倒すこと」が動機なんてカッコイイ! 実際に入学してみて、京都大学の魅力はどこにあると感じますか?
「なんといっても自由なところです。自主性を重んじる校風のもと、さまざまなフィールドで学生一人ひとりが自分の道を究めようとしています。だから、周りに尊敬できる人が多いです」
――ビジョンを持って行動する友人に囲まれていると刺激を受けそうですね。それでは最後に、読者へメッセージをお願いします。
「京大では自分次第で、とことん、自分のやりたいことができます。学生の夢や成長したい気持ちを後押ししてくれる環境が、ここにはあります。もし目標への力が『今』足りないように感じても、目標をぶらさず、あきらめないで続けてください! それこそが『結果』につながる道だと思います」
練習や目標が持つ意味を常に考え、ひたむきに努力を重ねること。
北野さんのチャレンジし続ける姿勢は、まさに京大野球部の強みを体現しています。
北野さん、どうもありがとうございました!