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No.42

update.2020.05.28

10周年! 知りたい! iPS細胞研究所 ~最先端研究のこれまで・これから~後編

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こんにちは、「ザッツ・京大」編集部です。
ようこそ後編へ! 前回に引き続き、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)をご紹介します。
前編はコチラ

CiRAの内部に潜入し、iPS細胞のイロハから基礎研究まで取材させていただいた前回。

今回もさらに広報担当や研究者の先生からお話をうかがっていきます!

iPS細胞研究の動向をさらに聞いてみた!

今回もナビゲーターとしてCiRAを案内してくれるCiRA国際広報室の和田濱裕之さんです。よろしくお願いします!

――前回お話を聞かせていただいた岩崎先生は、未来生命科学開拓部門に所属されていました。他にどんな部門があるんですか?
「CiRAには全部で5つの部門があります。未来生命科学開拓部門はiPS細胞を使った基礎研究を行うところで、所長の山中先生が部門長を兼任しています。より臨床に近い研究を行うのが、増殖分化機構研究部門や臨床応用研究部門。あとは、他の研究部門や研究施設を支える基盤技術研究部門、iPS細胞の倫理的な問題を扱う上廣倫理研究部門があります」

――実際に患者さんと関わる「臨床」に近い研究は、今どれくらい進んでいるんですか?
現在、いくつかの疾患に対して、iPS細胞から作った細胞が実際に患者さんの体に移植されています。2014年には、iPS細胞から作った網膜の細胞を移植する臨床研究が始まりました。2017年にはFOP(進行性骨化性線維異形成症)の治験が、2018年にはパーキンソン病の治験が始まっています

――着々と進んでいるんですね! 臨床研究のお話もくわしくお聞きしてみたいです。
「基礎から臨床まで扱う研究をしながら、臨床医として現場にも立っている先生がいますよ。お話を聞いてみましょう!」

再生医療の最前線。新たな治療法への道のりに迫る!

和田濱さんが紹介してくださったのは、増殖分化機構研究部門の長船健二教授です。
ここからは長船教授にお話をうかがっていきます!

――長船先生は、研究の傍ら臨床も続けているとお聞きしました。
「はい。週に1回、京大病院の内科で勤務しています。患者さんが今何に困っているのかを知るためです。それに、もともと患者さんと接するのが好きだというのもありますね」

――先生が所属している増殖分化機構研究部門というのは、どんな部門ですか?
「トランスレーショナルリサーチと言って、基礎研究から臨床現場への橋渡しをする部門です。Bench to Bedsideとも言います。ベンチ、つまり実験を行う台から、患者さんのベッドへと橋渡しをするという意味です」

――先生自身はどんなことを研究しているんですか?
「腎臓、膵臓、肝臓、この3つの臓器の病気の治療法を開発する研究です。慢性腎臓病や腎不全、糖尿病、肝硬変といった病気の治療法として、iPS細胞から各臓器の細胞を作って移植する再生医療の開発を行っています

――iPS細胞から臓器を作るんですか?
「iPS細胞から各臓器の細胞、さらに組織、最終的には臓器を作るのが目標ですが、それはなかなか難しい。各臓器の細胞や、細胞を2次元に並べたシート状のものは、すでに作ることが可能になっているんですが、複雑な3次元構造を持った臓器を作るのはまだまだ難しいんです。例えば腎臓には約30種類の細胞があって、それらを作ることはできる。でも、臓器にするにはそれを3次元に配置して、さらに血管や神経とも繋げないといけないんです

線維芽細胞から樹立したヒトiPS細胞のコロニー(集合体)。
コロニーの横幅は実寸約0.5ミリメートル。
(提供:京都大学教授 山中伸弥)

――なるほど! 壮大な話ですね。今はどんな段階まで来ているんでしょうか?
腎臓は、細胞と簡単な組織は作ることができていて、数年後には患者さんの体に細胞を移植する臨床試験を始めようとしています。そのために、昨年自分でベンチャー企業を立ち上げて、資金を集めています」

――先生が自ら資金集めまでするんですね。
「移植用の細胞を作るのには本当にお金がかかるんです。例えばネズミだと100万くらいの桁の細胞数ですけど、人間とネズミだと体重が2000倍くらい違うので、単純に言うと2000倍多くの細胞が必要になる。ものすごく大きなスケールで作らないといけないので、機械で作ることになります。だから資金を集めて、機器メーカーなどの企業と一緒に進めることが必要になってくるんです。そしてもちろんですが、人間の体に移植するためには安全面のブラッシュアップがとても大切です

――膵臓と肝臓はどうですか?
「膵臓は、企業と共同研究をしていて、数年後の臨床試験に向けて準備が進んでいます。肝臓は一番遅れているんですが、臨床試験に向けて進めようと決心しました。膵臓はスポンサーが見つかって、腎臓は自分で会社を立ち上げたので、次は肝臓だと思っています。できれば企業などスポンサーを探して、一緒に進めていきたいと考えています」

iPS細胞の誕生以降、加速してきた再生医療。

――先生はずっと再生医療の研究に携わってこられたんですか?
「そうですね。京大医学部を卒業して、最初の4年間は病院勤務。その後は2000年からずっと同じ研究をしています。専門は腎臓病。病気で壊れても修復したり再生したりする臓器もある中で、腎臓は壊れたら元に戻らない臓器なんです。だからこそ再生させて、患者さんを助けたいと思いました

――先生が研究を始めた頃は、まだiPS細胞はなかった時代ですよね?
「今みたいに再生医療が流行っていない時代で、iPS細胞ももちろんありませんでした。iPS細胞が発表された時は留学中で、1日中ニュースでiPS細胞の写真が流れていたのを覚えています」

――発表された時はどんな気持ちでしたか?
「ほんとかなー?って思ってました(笑)。2006年11月の発表より前に、山中先生がある学会で発表して、それを聞いた研究室のメンバーが、すごい発表だったと言っていたんですよ。でもみんな最初はすごすぎて、ほんとかなー?と半信半疑でした」

――その後、長船先生もiPS細胞を扱うようになったんですね。
「はい。もともとは、ES細胞を使って再生医療の研究をしていたのですが、iPS細胞を使って行うようになりました。CiRAの前身であるiPS細胞研究センターで研究を始めたのが、2008年5月です。実は私、CiRAの初期メンバーなんですよ」

――では所長の山中先生とも10年以上のお付き合いですね。長船先生から見た山中先生はどんな方ですか?
「初めてお会いしたのはある研究費に関する面接で、審査員のひとりが山中先生でした。黙っている時はちょっと怖かったですが(笑)、お話しするとユーモアのある方ですね。出会った当初に比べてCiRAの人数もかなり増えましたが、山中先生は部下思いでスタッフによく気を配られていますね」

――CiRAの研究者やスタッフはどんな方たちですか?
「みんなモチベーションが高いです。私もそうですが、患者さんを助けたいという思いが強い。研究者もスタッフも目的意識が高く、目指すベクトルが同じ。そんなメンバーを引っ張っているのが山中先生のリーダーシップですね。山中先生の『思い』に呼応する人たちが集まってくるのだと思います」

長船教授の研究室には現在20数名のメンバーが在籍。
同じ志を持つさまざまな研究者が集まっています。

患者さんを助けたい。その思いを実現するために。

――長く再生医療の研究に携わってきた長船先生ですが、やりがいや喜びを感じるのはどんな時ですか?
「『やりがい』や『喜び』を感じたことは、まだありません。腎臓病には治療法が少ないので、患者さんと『良くなりましたね』と一緒に喜ぶことができないんです。患者さんに言えるのは『悪くなっていません』か『悪くなっています』しかなくて、『良くなった』はない。だから、自分が治療法を作って、今まで治すことのできなかった人を治せる日が来たら、すごくうれしいです。そういう意味で、一番うれしかったことはまだなくて、これからです」

――いくつかの疾患で、すでに患者さんへの移植が始まっていると聞きました。腎臓はまさに「これから」ですね。
「これまでの10年でやってきたことが、やっと形になろうとしています。これからも研究を続けていくためには、世の中の人たち、特に若い人たちに興味を持ってもらうことが大事だと思っています。だから、患者さんの会や小中高生向けの講演会など、一般の方向けの広報活動には積極的に参加するようにしています」

――若い方たちに向けて、何かメッセージをいただけますか?
「私が再生医療の研究を始めた頃は、この分野は世の中からあまり注目されていませんでした。それ以前に、医学部生になった頃はバブル期で、医者や医療よりも、大企業への就職に近い学部を選ぶのが王道、みたいな時代でした。でも、自分が興味を持った道を選んで、ずっと続けているうちにiPS細胞が発見され、再生医療が注目される時代になった。

世の中は変わっていくものです。だから、自分がやりたいことをやったほうが良いと思います。自分の興味のあることを見つけて突き進んでください」

和やかな笑顔で、そして時には真剣なまなざしで、
再生医療への思いを語ってくださいました。

長年、腎臓病で苦しむ人たちと向き合ってきた長船教授。
取材を通して、患者さんを助けたいという強い信念が伝わってきました。
どうもありがとうございました!

もっとiPS細胞について知りたい!

前編・後編にわたって、iPS細胞研究に取り組む先生方にお話を伺ってきました。
最後にもう一度、ナビゲーターのCiRA国際広報室・和田濱裕之さんに登場していただきます。

――iPS細胞研究について、今まで知らなかったことばかりでした! CiRAでは普段から一般向けの発信もされているんですか?
「みなさまに興味を持っていただけるよう、さまざまな取り組みを行っています。例えば、学内外で開催しているサイエンス・カフェ『CiRAカフェ』では、研究者を身近に感じてもらえる機会になればと、参加者と研究者が直接対話する場を設けています。研究者にとっても、一般の方の考えを知る良い機会になっています。また、年に数回、今回の取材のように研究棟内に入っていただける『CiRAツアー』も開催していますよ」

――CiRAの内部に入れるチャンスもあるんですね! 他にもiPS細胞について学べる方法はありますか?
「山中研究室の一員となって、iPS細胞を発見した時の実験を追体験できる、『iPSマスター』というiPadアプリがあります。他にも、幹細胞の基本知識について遊びながら学べる『iPS細胞かるた』や、幹細胞から神経細胞や赤血球などの細胞がどのように生まれるか、また研究者が日頃どのような活動を行っているかを学べる『幹細胞すごろく』など、ゲーム感覚で楽しめる教材を開発しています」

「た:タンパク質 アミノ酸が じゅずつなぎ」など、
遊びながら専門用語が学べるiPS細胞かるた。
全国の書店でご購入いただけます。

――iPS細胞に興味を持って、自分もCiRAで働いてみたい!と思ったら、どうすればいいですか?
「見学に来られた人からも、どうすればCiRAで働けますか?とよく聞かれるんです。多くの人が、お医者さんにならないとダメですか?とおっしゃいますが、そんなことはないですよ。医学部だけでなく、農学部や理学部など他学部出身の研究者もたくさんいます。それに研究者以外にも、契約のサポートや知的財産の管理をする仕事、情報発信やイベント企画をする広報の仕事など、さまざまな分野のプロフェッショナルがいます。研究に関わるいろいろな道があることを知ってもらえたらうれしいです

――最後に、CiRAが10周年を迎えるにあたり、今後の抱負を聞かせてください。
「設立当初は、iPS細胞は医療に応用できるのかわからないところからスタートしました。でも、今は実際に患者さんへの移植も実現し始めています。これからは、いかに多くの患者さんが使えるようにするかという次のステージ。iPS細胞を使った医療をたくさんの方に届けられるよう、引き続き頑張っていきたいです

山中教授からのメッセージ。

2回にわたってナビゲーターとして登場してくださった和田濱さん、どうもありがとうございました!

それでは最後に、スペシャルコンテンツを。
所長の山中伸弥教授から読者のみなさまへ、特に若い方たちに向けてのメッセージをいただきました。

(提供:京都大学iPS細胞研究所)

「20歳前後の5年間というのは、何ものにも代えられない宝物のような時間です。この時間に、何をすれば正解というのはありません。どんなことでもいいので、『あのときはこんなことに夢中になっていたな』というのがあったなら、それがうまく行っても行かなくても自分自身の成長につながります。若い頃の失敗は無駄にはならず、むしろ財産になります。何でもいいから、何か打ち込めるものを見つけていただきたいなと思います

取材にご協力いただいたCiRAの先生方、スタッフのみなさま、そして山中先生、どうもありがとうございました!

10周年を迎え、新たなステージに向かって進み続けるCiRAから今後も目が離せません!
(▼前編はコチラ

10周年を経てさらに未来へ進む「iPS細胞研究所(CiRA)」のホームページはコチラ
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/