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No.21

update.2017.09.27

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京大はいくつか天文台を持っていますが、天文台は天体観測するだけのところと思っていませんか?

このたび、宇宙学についての新しい学生実習の場として天文台を活用する取り組みがスタート!

その実習、何と泊まり込みらしく・・・山の中にテントを張って、1週間サバイバル生活!?

一体どんな実習が行われているのか・・・広報Hが確かめてきました!

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実習の舞台は・・・理学研究科附属花山天文台
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「かざん」と読みますが「火山」ではありませんのでお間違えなく。

花山天文台へゴーゴー!

地下鉄東西線蹴上駅からタクシーで山道を登ること約10分。歩くとちょっとしたハイキングになるかも。

でも人気のない山道はちょっと怖い・・・

ただいま「京の夏の旅」で一般公開中!(※取材当時:2017年9月14日)

朝9時に天文台到着。まだ人の姿は見えません。

テント村を発見。

どうやら学生たちはここに泊まってるみたい。

ここから見る天文台本館はとってもキレイ。

実習部屋は・・・

えっ、図書室?図書室で実験しちゃうんですか?

「図書室は本を読むところ」という常識を覆し、実験室に有効活用!

実験器具が並んでいます。これ一体どんな実験なんだろ・・・宇宙と関係するのかな?

学生が集まり始めました。この実習は少人数科目群のILASセミナーという講座の一つ。参加者は1~3回生まで、学部も理学部、工学部、薬学部などとバラバラ。文系の学生もいます。

そして講師を務めるのは、宇宙飛行士の土井隆雄さん!(写真左から3人目)現在京大の宇宙総合学研究ユニットで、特定教授として教育・研究に携わっています。土井先生は日本人で初めて宇宙で船外活動を行った、宇宙飛行士や宇宙研究者志望の学生にとってもまさに憧れの存在!実習の応募倍率もすごく高かったそうです。

・・・ということでもうお察しかもしれませんが、この実習は「有人宇宙学実習」といって、天体観測実習、摸擬微小重力実験、閉鎖環境実習を通して有人宇宙学について学ぶ5泊6日のプログラムです。
斬新なのが、自然に囲まれた天文台=閉鎖空間で宇宙環境を模擬体験しようという点!現代っ子にはツライ、

「スマホ禁止」

という制限も。

最初に、実習4日目となる今日1日のスケジュールを土井先生が伝達。19時半~深夜1時半までは、3班が仮眠をとりながら交代で天体観測するそうです。
初日は雷雨のため全員避難し、天体観測どころではなくドタバタだったそう。今日晴れてホントに良かったですね。

今日の実験は「模擬微小重力実験」です。

昨日、重力が生物に与える影響について講義があり、今日は主に実験と解析を行います。この実験では「クリノスタット」という装置を使って、無重力状態で植物がどのように成長していくかを調べます。

早速下準備スタート!植物の培地作りのため、粉末寒天に水を加え、加熱します。温度を測りながらひたすらまぜまぜ・・・昨日もこの作業をしたそうで、みんなすっかり慣れた様子で仲良く共同作業。
一方、シャーレ(ペトリ皿)に線を引く人も。コレ、あとあととっても大事な役割を果たします!

火からおろしてもひたすらまぜまぜ・・・

シャーレに流し入れます。見よ、この真剣な表情!

次に、播種(はしゅ)という作業に移ります。ガーデンクレスのタネを培地に配置していきます。細かい!みんな真剣です。

配置できたら、パラフィルムというびよ~んと伸びるテープを用いて、シャーレを密閉します。
どこかから「あっ失敗した!」という声も(笑)

次に、実験の様子を撮影するカメラの準備。撮影した写真を後でPCに取り込んで、解析します。
クリノスタットの3つの台のうち、1つはくるくる回転させるので、鮮明に撮影するのが難しく・・・

悪戦苦闘。

どうしても画面が暗くなってしまったり、ブレてしまったりと、なかなかカメラの調整が上手くいきません。
うーん、広報Hもカメラ詳しくないので、良いアドバイスができず・・・(広報大丈夫か)
もちろんスマホに頼るのは禁止!マニュアルで解決法を調べ、なんとか3班とも調整できましたー。

それでは、今日の主役となるベストオブベスト・シャーレ品評会!(何だそれ)
さっき作った培地は明日の実験で使うので、昨日作っておいた培地から、イイ感じに根が伸びているものを3枚選びます。

選ばれし勇者たち(シャーレ)を超強力な両面テープでクリノスタットに固定。レベル(水平器)を使って、シャーレに引いておいた線が垂直になるようチェックします。ずれてしまうと重力のかかる方向が変わってしまうので、シャーレを保管するときもまっすぐ立てておくことが必須。

連続して回転させることで重力方向が分散し、微小重力環境を作り出すことができます。1分間の回転数(rpm)を3班で変えて、違いを比較します。

真ん中のシャーレはずっと固定したままで、下方向へ重力をかけ続けます。右は実験開始から1時間後に反時計回りに90度回転させ、重力のかかる方向を変えます。
根の伸び方が違うのが分かりますよね!

3種類の環境で、植物の応答にどんな変化があるか、根の長さと伸びる角度を専用のソフトで解析し調べていきます。この作業に正解はなく、班ごとにいろいろなやり方で解析します。(性格出そう。)
特に角度の測り方に、みんな頭を悩ませていました。

OA(オフィスアシスタント)の増田さん(左)と吉原さん(右)。増田さんは参加者と同年代の2回生!吉原さんは4月から京大の修士課程で学んでいます。こまめにみんなの様子を確認して、前へ進めるようにサポートするだけでなく、新しいアイデアを引き出そうとアドバイスする姿もさすがでした!

この実験、30分クリノスタット回転→写真撮影→PCで解析→30分回転→・・・と続いていくのですが、なんと6時間ぶっ通し!

まさに、この状況が閉鎖環境・・・

交代でとるお昼休憩の間も、どうしたら効率良く解析できるかなど、アレコレ議論していた学生たち。
さすがに最後の方は「疲れた~」という声も聞こえていましたが、糖分をとったりストレッチしたり回復の音楽(?)を流したりしながら、解析をやり抜きました。その集中力に、土井先生も感心していました!

地道な作業の繰り返しから、新しい発見が生まれます。研究とは本来こういうものなんだってこと、みんな実感したんじゃないかな。
「頑張ってるところ撮ってください!!!!」ええ、もちろんですとも!

明日は、もう少し伸びた根の先端を切って、顕微鏡で観察します。果たして解析結果はいかに?
ひとまず今日はお疲れさまでした!

・・・と言いたいところですが、今日のプログラムはまだ終わりではありません。

朝・昼食は用意されていますが、夕食は土井先生考案の推奨レシピに従って自分たちで作ります!今日のメニューはパエリア。

・・・パ、パエリア!?!?!?

レベルが高いですね・・・ちなみに昨日は絶品タコライスだったそう。
夕食担当の班はすぐに準備に入ります。がんばれ~!

一方、走り回りたい衝動に駆られた他の学生たちは鬼ごっこを始めたのでした・・・

土井先生に聞く!実習の誕生秘話

 

宇宙の閉鎖環境を地上で体験するという日本でも例を見ない実習を、1年前から構想していた先生。果たしてその目的は??

「天文台で、こういった宿泊実習をするのは日本初!宇宙では、24時間全てが新しい発見です。食べる、寝るという日常生活を支える行為ですら科学になる。また、閉鎖環境で自分の身体がどのように反応するのか知り、その中でも最高のパフォーマンスをする、ということを学んでほしかったんです。

あと、新しいことをやることに対し前向きであってほしい。有人宇宙ミッションでは、常に問題に柔軟に対応し最大効果を発揮することが求められます。今回の実習でも、初日は雷のため予定を変更して避難しましたし、今週末も台風の影響で(※取材当日は14日。16日に台風接近が予想されていた)プログラムを変更しないといけないかもしれない。人間は疲れた状態だと何かを変えることに抵抗を覚えますが、計画変更に前向きに対応できる人になってほしいという思いも込めています。」

広報H:「今回花山天文台で実習をしてみて、課題だと感じたことはありますか?」

土井先生:「この施設が宿泊を想定して作られていないところですね(だからテント泊なんです)。もっと設備を充実させれば天文台活用の幅が広がると思います。あと山の中にあってアクセスが不便なので、連絡バスなど是非欲しいですね。」

うーん、確かに老朽化している設備もあって、それも学生にとってはストレスになっていたかもしれませんねぇ。(良いのか悪いのか!?)

見せてください!実習ひみつ道具

★クルー・ノートブック

「宇宙飛行士は全員コレを持って行きます。実習でも全員に支給していて、気づいたことを書き留めてもらっています。自分にとっての大切なバイブルになると思います。」

学生のノートブックもびっしり書き込みが。これをいかに充実させるかで成績が決まる・・・!?

★アメ

実習では十分な食料が用意されていますが、宇宙では厳しく制限されているもの。でもアメならOKだそう。
「これは僕が宇宙に持って行っていたコーヒーアメです。」

★唾液アミラーゼモニター

毎朝唾液中に含まれるアミラーゼを測定し、自分のストレス状態をチェックします。広報Hは24、通常数値だそうで一安心。来たときは一桁でも、日が経つにつれ100、200と上がってきた人も・・・

土井先生を始めとする宇宙総合学研究ユニットのスタッフが、いろんなことを考えて練りに練った今回の実習。学生達は実験以外の時間でも、「JAXAに行きたい!」「火星移住は現実的?」など、積極的にスタッフと宇宙や研究の話をしていました。
同じ分野に興味を持ち志を一つにした仲間と、心ゆくまで語り合えること・・・これってまさに京大が大切にしている「対話」!じゃないでしょうか?
学部生の間にこういう経験ができたことは、すごく貴重で、そしてこれからもみんなの思い出に残ることだろうなと思います。

 

その目に映るのは、夢?希望?人類の未来?
みんながいつの日か宇宙に行ったとき、ふとこの実習のことを思い出すときが来るかもしれませんね。