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No.20

update.2017.03.10

京大の「知」を支える、大学附属図書館を探検〜前編

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こんにちは、ザッツ・京大編集部です。
今回フィーチャーするのは、京大が日本、いやいや世界に誇る図書館です。蔵書数は2016年度現在全国3番目の規模で、重要文化財や国宝も眠っているというのですから、ただの図書館ではありません。さらに吉田山や大文字山を一望できるメディアシアターでは、DVDなどの映像作品を観賞できるという充実ぶり。
また聞くところによると、図書館職員でさえも滅多に入ることができないシークレットゾーン「貴重金庫」もあるというウワサ。
今回は前編・後編に分け、前編の今号では施設内部を、後編ではサービスや活用法を紹介します。どんな本や資料がどのように保管され、どんな人が活用しているのか? 果たして貴重金庫は実在するのか? 多くの謎が今、解き明かされます。

大学附属図書館ってどんなところ?

図書館コレクションには、国宝をはじめとした貴重な資料も!
京都大学には附属図書館をはじめとして、約50の図書館・図書室があり、合わせて約680万冊の蔵書は、日本の図書館では第3位の規模を誇ります(2016年度現在)。
中でも附属図書館は、1899年に設置され、約90万冊の図書をはじめ、多くの学術雑誌やデータベースを備え、本学の学生や研究者の学習・研究活動を支えています。附属図書館が所有するコレクションには、国宝「今昔物語集(鈴鹿本)」など、貴重な資料も多く含まれます。
地下3層、地上4階建ての建物には、快適な閲覧席、情報端末群や豊富なDVDやCDを備えたメディア・コモンズ、さまざまな学習室などを設置しており、1日平均約3,500人が訪れています。
また、インターネットで貴重資料画像や大学で日々創造される研究・教育成果(学術情報リポジトリ)を広く社会に公開し、京都大学からの学術情報の発信にも力を入れています。


附属図書館外観

京大の図書館マスターの案内つき!
京都大学附属図書館の内部を徹底紹介!


マスター赤澤さん(左)と井上さん(右)。大の仲良しでもあるお二人です。

「附属図書館のことを、とことん知りたい!」という強引な広報Bのために、
今回は特別に、図書館内部をくまなく案内していただきました。
案内していただいたのは、京大の図書館マスターこと赤澤久弥さん(情報サービス課課長補佐(兼)特殊資料掛掛長)と井上敏宏さん(総務課課長補佐)。(※所属、職名は取材当時)
お二人とも、数々の図書館で専門業務に携わってきたという、まさに図書館の達人です。
さあ! マスターによる図書館ツアー、スタート!

1階
エントランスを通ると、高い天井とゆったりした開放的な空間が広がります。自然光をうまく取り入れた館内は、とても明るい雰囲気。
1階、2階の書架は学内者だけでなく、学外の方でも閲覧可能です(但し、貸し出しは不可)。

(左)高い天井で開放感抜群のエントランス。入館には学生証(職員証)が必要。(中央)メインカウンター。わからないことや知りたいことは、まずはこちらで相談!(右)検索コーナー。広い図書館でご希望の書籍・資料をすばやくチェック。

【学習室24】、【参考図書コーナー】【雑誌閲覧コーナー】ほか
エントランス左手に入口があるのが、「学習室24」です。勉強熱心な京大生には嬉しい、
ほぼ24時間利用可能な学習スペース(清掃時間を省く) 。
時間を忘れて勉強したい学生にも、夜型の学生にも嬉しいスペースです。
1階には、その他さまざまな書架や、新聞コーナー、雑誌コーナーなどがあり、
ゆったりととられた閲覧スペースも充実しています。

(左)学習室24。91席の「自学24」(上)と41席の「なごみ」(下)があります。「なごみ」は図書館内で唯一、飲食・談話も可能。 (中央)参考図書コーナー。(右)雑誌コーナーには、学術系から芸術系まで幅広い雑誌が揃っています。バックナンバーも充実。

【ラーニング・コモンズ】
正面突き当たりにあるスペースが、「ラーニング・コモンズ」。空間デザインから什器の選定、
サイン制作まで、学生、教員、図書館職員が協働して創り上げました。
「ラーニング・コモンズ」とは、図書館にあるさまざまな書籍や資料を活用しながら、グループワークやディスカッションができるなど、学生たちが主体的に作り上げる「学びの実験室」。活発な知的交流を可能にするための環境が整っています。
デスクも椅子も、自由に動かせる可動式。あるデスクで議論をしていたら、いつのまにかお隣グループと一緒になって盛り上がり、新しい発想が生まれたり・・・などなど、予想外のつながりや広がりを生む、無限の可能性に満ちた知的創造空間です。

(左)ラーニング・コモンズは、防音対策もバッチリ。(中央)中央の木造物はクスノキをモチーフにしたデザイン。人との出会いと創発の場を象徴しています。(右)エリア内には、学習サポートデスクも。京大生スタッフが日替わりで常駐しています。図書館利用法から学習に関する相談まで、気軽に応対してくれる強い味方! すべてのスタッフが日英どちらの言語も対応できます!

2階
【新分類和・洋図書、片田文庫、閲覧席、学習スペース、ほか】
さまざまな開架図書のほか、広く明るい閲覧席、学習席が贅沢にとられています。

(左)書架は図書館職員が常に整理してくださっているから、いつもキレイ。(中央)ずらりと並ぶ「片田文庫」。本の収集が趣味だったという京大卒業生、片田清氏の個人寄贈。その数ナント14,000冊! 片田さん、これ全部読んだのかな・・・。(右)広くて開放的な学習スペース。この日も多くの学生が勉強に集中していました。

3階
【メディア・コモンズ】
音楽や映画鑑賞、語学学習などができるスペース。総ガラス張りで、吉田山・大文字山が一望できる明るく快適な空間です。防音設備を施したメディア・シアターも完備しています。

(左)明るく、ゆったりしたスペース。(取材時は工事中につき、絶景が望めず・・・。残念!)(中央)自由に鑑賞できるDVD、ラインナップも充実です。(右)メディア・シアターでは、貸切映画鑑賞会もできちゃいますよ! 京大生、うらやましい~。

【情報端末エリア】【サイレントエリア】
【共同研究室/研究個室】【講習会室】ほか

学生のニーズに合わせたさまざまな学習スペースが完備されています。ここを活用しないのはもったいない!


(左)情報端末エリアには、約100台のパソコンを設置。(中央)サイレントエリアは、パソコン不可・電卓不可・会話不可、とにかく徹底的に静かな環境で集中したい! という学生のための特別な空間です。こりゃ、おなかの音まで響き渡りそう・・・。(右)「著者目録カード」。もとは1階に設置されていましたが、今ではほとんど使われなくなったためここに置かれているそう。中には手書きのカードもあり、時代を感じるアンティークな雰囲気。


(左)研究個室。一人で使えるスペースは集中するのにうってつけ。(中央)グループで利用できる共同研究室もあります。(右)パソコンも完備された講習会室では、学生や教職員向けに、図書館の効果的な活用法等のさまざまな講習会が行われています。

【地下(B1M、B1、B2)】
続いて、地下に潜入。地下のスペースには、貴重な資料や書籍が数多く保管されています。

(左・中央)新聞各紙もこうして一定期間ストックされ、保存期間が過ぎると縮刷版やデータベースでの利用に切り替えます。(右)デジタル化が進み、今ではほとんど見られなくなったマイクロフィルムも。「これ、すっぱいニオイがするんですよ」と赤澤さん。どれどれ・・・と匂ってみると、確かに独特の酸っぱいにおい・・・。劣化により出るにおいだそう。こうした劣化を食い止め、利用できる状態を保つのが課題とのこと。


(左から)「あ、これこれ!」と、いたってナチュラルに井上さんが手にした古い書。表紙を見ると・・・「解体新書」って! あの有名な解体新書じゃないですか・・・! こんな貴重な資料も申請すれば閲覧できるそう。中を開くと、見たことのある扉絵が。


(左)準貴重書書庫に入る前には、靴裏の汚れをとるための粘着シートが。貴重な資料を守るため、環境美化も徹底。(中央・右)準貴重書書庫には、歴代の京大卒業生の博士論文が保管してあります。中には、あの「野口英世」の論文も! こんな有名人の論文も見れてしまうなんて、やっぱり京大ってすごい・・・。

ついに! 関係者でも滅多に入れないヒミツの部屋、「貴重書庫」に潜入!

そして、今回の目玉の一つ、「貴重書庫」へ。
図書館職員でも入れる人はごくわずかという、そのヒミツの部屋に、今回は特別に入らせていただきました!
厳重な3重扉の、その先にあるのは・・・

貴重書庫へ入るには、厳重な3枚の扉を開かねばなりません。もちろん土足厳禁。まるで金庫のような分厚い扉を開くと、ひんやりした静謐な空間が広がります。長い歴史を纏った貴重な書籍や資料たちが、今なおここで息づいています。


(左から)一枚目の扉を開き、スリッパに履き替えて中に入ると、中スペースが。さらにそこから厳重な分厚い二つの扉を開きます。(右)すっきりした貴重書庫の内部。温度・湿度管理などの環境維持も入念に行われています。人間が入ることで上昇する微妙な温度差にも反応するらしく、警報器が鳴ってしまったこともあるそう。


(左)かなり古い貴重な書籍もたくさん。(中央・右)歴史的価値の高い特殊文庫も多数コレクションされています。「清家文庫」は重要文化財にも指定されています。


(左)重厚な木箱に入った巻物の数々。(左から2枚目)国宝「今昔物語集 鈴鹿本」!中身は見られませんが、こんな身近で国宝に出会えるなんて感動。現物は貴重資料画像集から閲覧可能。(左から3枚目)箱に書かれた「重要文化財」が、それだけで威厳を放ちます・・・。(右)長い箱は、「中井家絵図・書類」の「洛中絵図」。京都の宮大工の棟梁中井家のもの。


左: 附属図書館の本の分類法は、国立国会図書館と同じ。
附属図書館の図書の分類法は1983年を境に異なっています。1982年までは、「旧分類」と呼ばれる 「京都帝国大学図書館和漢書分類法/洋書分類法」という独自の分類法を使っていました。 1983年以降は、「新分類」と呼んでいる「国立国会図書館分類法(NDLC)」により整理しています。
中央: 2階にある「静脩館」の額。これってなーに?
これは、京都帝国大学の創設に寄与した西園寺公望公の書。もともと、附属図書館には「静脩館」という西園寺公望公より贈られた館名がありました。現在発行されている図書館機構の広報誌「静脩」の名称は、ここからきていたんですね。
右: 梅雨入り前の風物詩、「扇風機の一斉掃除!」
毎年、夏を向かえる前の休館日に職員総出で行うのが、館内の扇風機の一斉掃除。こうした裏方さん(職員)の活動があるからこそ、快適に図書館で過ごすことができるんですね!

取材を終えて

いやぁ、深い! 図書館って、単に本棚に本を保管しているだけじゃないんですね。本や資料だけでなく、管理技術やノウハウも含めて“知の宝庫”。職員さんの図書館愛とプロとしてのこだわり・喜びなども伝わってきて、未知の世界を巡っている感覚になりました。
次号の後編では、図書館のサービス、意外と知られていない活用法や取り組みに迫ります。お楽しみに!