2018.12.27
小説家・森見登美彦 ✕ 編集者・田岡洋祐 卒業生対談 みんな何かと戦っている(前...
SDGsというワード、最近よく耳にしませんか?SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたSustainable Development Goals (持続可能な開発目標)の略称で、2030年までに達成すべき17の目標と、169の具体的なターゲットが提示されています。
目標のなかには環境のことだけではなく「1. 貧困をなくそう」、「5. ジェンダー平等を実現しよう」といったものもあり、幅広くて難しい。
一体SDGsとは、何なのでしょうか。私たちはSDGsをどう捉え、どう関わってゆけば良いのでしょう。
「エコ~るど京大」、「京都超SDGsコンソーシアム」などSDGsに関する活動を推進している、地球環境学堂准教授の浅利美鈴先生にオンラインでお話を伺いました。
--先生、結局のところSDGsって何ですか?
「地球の状況を語るものに、エコロジカルフットプリントというものがあります。人間が地球環境の資源をどれくらい消費しているかを表す指標なのですが、それでいくと日本人は地球2個分くらいの暮らしをしているんです。世界の平均自体も1倍以上で、今もう2倍近くになっていると思うのですが、そういう暮らしをしていては、地球は持続可能ではありませんよね。最近では気候変動による自然災害が増え、危機感を抱いている方も多いと思います。
色んな意味で「このままみんなが思い思いに暮らしていては、地球は立ち行かなくなる」という問題意識がまずあって、それとともに世界が抱える社会課題も議論して解決していこうというのがSDGsです。私自身は「色んな人に配慮しながら、誰一人取り残されないように、世界がそこそこ幸せになるための最低限のルール」だと認識しています。
また、それと同時に、SDGsは複数の色んな顔を持つ社会的課題を可視化し、解決に向けて考えるための窓でもあると思います。「社会課題を網羅的に目配りするための17の入り口」なのです」
--実際の取り組みの成果は、どんな状況なのですか?
「SDGsは、国連にそれぞれの国が進捗状況をレポートすることになっていますので、個別の各国の目標達成度合いがわかります。世界で総合すると、少しずつ改善はされていますが、ほとんどの目標がまだまだ達成されていません。グラフは赤信号から青信号まで色で識別されていますが、赤が多い印象ですね。私が専門とするごみ問題に近い目標は「12. つくる責任、つかう責任」なのですが、それも赤色です。2030年なんてあっという間に来てしまうので、活動を加速していかねばなりませんね。
とはいえその一方で、確実に世の中が変わりつつあるのも感じています。まず企業の姿勢が変わってきました。ひと昔前は利益を社会に還元するCSRとして取り組んでいた社会貢献活動を、事業の柱に据えたり、連動させたりする形に置き換わってきています。
また、小学生から大学生までの世代の意識と行動の変容も、すごいものがあると思っています。小学生から環境問題に関する真剣な手紙が届いたりしますから。下の世代からの「つきあげ力」を感じています」
--SDGsは、じわじわと世界に影響を与えているのですね。先生の研究にも変化はありましたか?
「例えばごみ問題でいえば、17の窓が設定されたおかげで他の社会課題を紐付けながら研究を進めることがやりやすくなりました。ごみの問題は、貧困問題や差別などと関連がありますし、それらの同時解決を目指す視点が生まれるようにもなりました。
また、私の場合はアクションリサーチといって自ら行動し実践していく研究スタイルですので、研究が社会活動と直結します。その点からも、ごみ問題そのものだけではなく関係する社会課題にもアプローチできるのはとてもありがたいですね」
--先生の専門はごみ問題や環境教育だと思いますが、こうした分野に興味を持たれたきっかけは何ですか?
「何故だかわかりませんが、振り返ってみるとずっと世の中の役に立ちたいという思いを持っていたようです。最初にアクションを起こしたのは小学校4年生のときで、「水の作文コンクール」で節水をテーマに作文を書きました。それが入賞したのもあって、小学生で節水や省資源活動を始めていました。
その後もクラスのみんなに声をかけてごみ拾いをしたり、寄付してもらった古着でバザーをしたりなど、ボランティアやチャリティ活動を積極的にやっていました。
そんな感じでしたから、大学進学にあたっても「やはり地球環境問題の解決に向けて何かしたい」と思い、京大の工学部地球工学科に進んだのです」
--ごみ問題をテーマにしたきっかけは?
「大学で入った研究室が、ごみ問題を扱っていました。1980年から現在まで、京都市の家庭ごみを細かく分ける調査を40年以上にわたって実施しているところです。研究室には家庭ごみの基礎情報が蓄積していますし、長い年月のなか時代時代の色んな課題が出てきますので、それらを分析・研究していました。例えば最近の傾向でしたら、プラスチックごみのなかでも紙おむつや容器包装類が増えていますので、それらを減らすにはどうすればいいのかを研究するのです。
もともと工学部というのはどちらかというと、ごみであれば「よく燃える安全な焼却炉を開発して解決しよう」というような研究がベースだったと思います。でも最近はそれだけでは無くなってきています。そもそもごみが発生する背景を探り、まずごみを減らすことを考える。当然できるかぎりリサイクルにもまわす。それでも出てしまうものを適切に処理しましょう、という姿勢です。つまり、焼却炉などのハード面以外に、社会の仕組みの構築というソフト面も研究対象になるのです」
--在学中には「京大ゴミ部」も立ち上げましたね。
「環境問題を研究しようとすると、京大の環境負荷がすごく高いことを無視できなくなりました。ISO4001環境管理システムというのがあって、当時、日本の企業で取得が進んでいる時期でした。他大学でISO4001を取得するという記事を見て「うちの大学はどうなってるんだろう」と改めて見てみると、ごみの分別が行き届いていなかったり、研究室は夜な夜な電気がついていたりして改善点があると気づきました。そこで京大をエコキャンパスにしたいと決意し、ISO4001について勉強して導入のための提言書をまとめて総長のところに持っていきました。それをきっかけに、学内だけではなく学外にも目を向けて、子どもたちに環境教育を行ったり、市民の方々と勉強会をしたりと活動するようになりました」
--「ゴミ部」はその後「エコ~るど京大」の活動へと発展していきますね。
「「ゴミ部」や派生した取り組み「びっくり!エコ100選」などで学外の方と10年ほど活動したのをベースに、2013年に地域の方と一緒に持続可能なキャンパスを目指す「エコ~るど京大」を立ち上げました。
海外の大学や欧米、アジアの国々でサスティナビリティや環境問題などが活発に議論されているなかで、日本だけが、とくに京大がぜんぜん盛り上がってこないことに危機感を覚えたのがきっかけでした。学生さんたちのなかには、今までに学校で環境問題を学びすぎていて「ある意味解決した課題」と受け止めている人が意外と多いということも気になっていました。そうした人たちに環境問題について考えてもらえるきっかけを作りたいと思ったのも理由のひとつです。
「エコ~るど京大」の活動主体は学生さんたちです。SNSの発信はもちろん、オンライン番組なども自分たちで撮影して発信していますよ。最近の若者は、撮影や編集、発信などがみんな上手で感心します。ちょうどサークルとゼミの間のようなものなので、研究の一環として参加してくれている学生さんもいますね。
11月からはリサイクルではなく、捨てられそうなものを救出して今以上の製品に生まれ変わらせるアップサイクルの活動拠点を京北に作ろうとしています」
--先生が今いらっしゃるのも京北の拠点ですか?
「そうです、京都里山SDGsラボ「ことす」です。川沿いで景色がいいですよ。ちょっと行けば川遊びができるので、先ほどまで地元の方に教えてもらってゴリを獲っていました。「エコ~るど京大」の学生さんたちはこの拠点から「今日も明日もSDGs!」というYouTube番組を発信中なので、近所の古民家に泊まり込んだりしながら準備を進めています。
ここは2019年の6月からスタートした「京都超SDGsコンソーシアム」という産官学ネットワークの拠点でもあります。京都市、京都大学、企業が連携し、持続可能とは何かということについてしっかり議論して考え、場合によっては実践していきましょうということで始まりました。
今では参画企業が15社に増え、京北と都市をつなぐ仕組みをつくろうとしています。企業がビジネスをやり、それを行政はどうアシストするのか、大学は学術的な専門性でどう後押しするのか、を実践する場です。学生さんたちの存在も大きくて、若い世代が何を志向し、どう考えているのかというのを融合させながら活動しています」
--「京都超SDGsコンソーシアム」の具体的な取り組みは進んでいますか?
「環境省の委託事業として内定しているのですが、まずは典型的な資源の問題解決を目指しています。日本では生ごみの大半が焼却処分されているのですが、それを資源として循環することに取り組もうとしています。
まず京北の地域で生ごみを分別回収し、それをバイオガスと液肥や堆肥にして資源活用します。次に京北の生ごみだけでは足りないので市街地からも有機資源を回収しようと考えています。そしてその代わりに京北できた農作物を市街地で販売します。これは実は昔からあった京都市と里山の関係で、そういう循環をもう一度取り戻したいなと思っているのです。
SDGsのおかげで、里山や地方創生というものが今までとは違う文脈を持つようになってきたと思いますね。都市近郊で豊かな自然環境があり、エネルギーや食料にも結びつく農林地がある。こういう地域のことを改めて見直さざるを得なくなっていると思いますので、京北で事を起こしていこうと産学官連携で整備しているんです。ここが将来SDGsバレーのような形になるといいな、と思っているんですよ」
--SDGsを達成するために必要なものを、ひとつだけあげるとしたら何ですか?
「便利や快適だけを求めるだけではなく、社会課題も自分の問題として捉えることでしょうか。社会課題というと自分から遠く感じてしまうのですが、SDGsは17も窓口があり何かしら関心の持てるテーマがあると思いますので、ひとつでもわが事化して向き合ってもらいたいですね。それがSDGsの存在意義なのだと思いますから。
SDGsは「誰一人取り残されない」目標ですから、逆にいうと誰一人逃れられない。「だからせめて一人ひとつは向き合おうよ」という感じですね。17もあったらプラスのモチベーションで取り組める何かが見つかると思います」
--先生の未来の目標を教えてください
「菅政権が2050年に脱炭素社会の達成を掲げました。2030年はSDGsのゴール年ですし、近いところでは2025年に関西・大阪万博もあります。そうしたゴールに向けて今後色んな変革が社会に起こってくると思うのですが、それでも「皆がそこそこ幸せな暮らしができるようどのような絵を描けるか」を追究して行きたいですね。学術的にも描きたいし、実践もしてみたい。私たちを含めた産官学のステークホルダーがどういう風に動けば社会がスムーズに変わっていくのか、ここ京北でモデル化してみたいと考えています。きっと色んな障害が立ちはだかって大変だと思うのですが、それでも問題の本質を読み解いていけば解決の道はあるんじゃないかと信じていますので、それを研究的に示したいですね」
--若い世代に向けて伝えたいことはありますか?
「皆さんはこれから激動の時代を生きて行くことになるでしょう。迷いや不安がいろいろ出てくるでしょうし、コロナ禍よりも大変なことが起きるかもしれません。それでも「生で見ることができる」というのはその時代を生きる醍醐味ですから、しっかりつぶさに世界を見て欲しいと思います。そしてプレイヤーになって欲しい。私はSDGsや環境問題に意識を持つ若い人たちを、同志だと思っています。私たちとともにぜひ、地球社会の調和共存の担い手になってください」
--浅利先生ありがとうございました。