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No.155

update.2024.07.24

触って、聞いて、楽しく学ぶ!「京都大学子ども博物館」へ行ってみよう!

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京都大学の吉田キャンパス内にある「京都大学総合博物館」をご存知ですか?京大が創立されて以来125年余りの間に、研究者たちが収集した貴重な資料がたくさん展示・所蔵されている施設です。
今回紹介するのは、その総合博物館が基本的に土曜日の10時から16時30分まで開催している「京都大学子ども博物館(以下、子ども博物館)」。どうやら、大学院生や研究者がブースを出し、それぞれの研究分野についてわかりやすく紹介してくれる対話型イベントで、何でも、子どもだけでなく、大人の好奇心もくすぐられるのだとか…。そんな魅力的なイベントが開催されていると聞き、編集部も参加してみました。もしかすると、夏休みの自由研究等に役立つヒントが見つかるかもしれません!

子どもから大人まで、誰もが学問に触れられる場所

お昼過ぎ、編集部が総合博物館に到着したときには、すでにたくさんの来館者の方々で賑わっていました。早く見て回りたい!という気持ちを抑えて、まずはじめに、子ども博物館とは何か?を、この企画の顧問をされている、京都大学総合博物館の竹之内惇志助教に聞いてみることにしました。

――とても盛況ですね!さっそくですが、子ども博物館の活動について教えてください。

「子ども博物館は、大学院生を中心とした学生や研究者たちと来館者による対話型の解説イベントです。毎回3〜4人のスタッフが各自で研究に使用している標本や資料を長机に並べてブースを設けます。来館者がブースに興味を持ってスタッフと会話が生まれたらイベントの開始です」

――会話が開始の合図とは、なんだかとても自由な感じですね。

「そうですね。このイベントは、もう20年近く続いていて、重要な活動だと感じています。大学博物館は、大学と社会との橋渡しをする場所。資料の保管や研究施設としての役割に加え、研究成果を社会に発信していくことも重要です。子ども博物館も、その一環として、日本の将来を担う子どもたちに、学問や研究のおもしろさを知ってもらおうという目的で開催しています」

総合博物館の竹之内惇志助教。

――20年ですか! これまでどんな出し物があったのでしょうか?

「たくさんの動物の骨格標本を並べて見せたり、鴨川にいるオオサンショウウオについて学んだり。昔の文字のクイズや、京都の古地図を見せていた学生もいます。長年続いているイベントなので、本当にさまざまですね。出し物の内容は学生におまかせしていて、研究している内容をわかりやすく伝える学生もいれば、同じ分野のなかで一般の人が興味のありそうなことを取り上げる学生もいます」

――なるほど。ちなみに、来館者はどのくらいの年齢なのでしょうか?

「小学生が多いですね。僕が出しているブースでは、今日は4歳から小学6年生くらいまでの子が来てくれています。もちろん、中高生や大人の方にも参加していただけますし、これまでの最高齢は92歳。それにお子さんよりも、お母さん、お父さんのほうが夢中になって話を聞いている、ということもけっこうあります(笑)」

――親御さんの方が夢中になってしまう気持ち、分かるような気がします!子どもだけでなく、誰でも自由に参加ができるイベントなのですね!

イベントの様子。各ブースに来場者がどんどん集まってきます!

一緒に体験!「子ども博物館」で生まれる、学びのきっかけ。

それではさっそく、ブースを回ってみることに!来館者のなかには未就学の小さなお子さんも多いようですが、みんな学生たちの説明を熱心に聞いている様子。竹之内先生が話していたとおり、保護者の方々も、お子さんに負けず劣らず興味津々のようです。

毎回、ブースの出し物が異なるようで、今日は一体どんなブースがあるのでしょか。ワクワク!

エントランスホールの入り口に、今日の出し物が書かれているホワイトボードがありました。

各ブースを担当する学生さんたちの直筆でしょうか??なんだか味がありますね~。

今日は5つのブースが並んでいて、どれも興味深い。どこから行こうかな。

②「VRであそんでみよう!」のブースをのぞいてみると・・・VRゴーグルを装着した少年がいました!北海道の沿岸の地層を高さ数十メートル、幅数百メートルに渡って見ることができるようです。

④「微?美?V?びせいぶつ!!!」、4つの「び」を掛け合わせたユニークなタイトルで興味がそそられるブースでは、何やら双眼鏡で紙の色を確認しているようです。一体何が見えるのかな?

②「VRであそんでみよう!」のブースにて。
VRゴーグルを装着すると・・・目の前には北海道の沿岸が!?
④「微?美?V?びせいぶつ!!!」のブースにて。
赤一色と思いきや、双眼鏡で紙をのぞいてみると、模様が!?

会場を見渡していると、子どもたちが大きな魚を手に取っているブースを発見!「わぁー!すごーい!」、「意外とかたいんだね!」と楽しそうに話す子どもの声が聞こえてきます。実際に触れるというのが好奇心を刺激するのか、子どもたちは椅子に座るなりさっそく手袋をつけて準備万端(笑)。

こちらのブースを担当する総合博物館研究員の松沼さんにちょこっとお話を聞いてみましょう。

⑤「さわって楽しむおいしい魚」にて。総合博物館の松沼瑞樹研究員。

――こちらではどのような出し物をされているんですか?

「ハモやアナゴ、ウナギなど、食卓でおなじみの魚の標本を実際に手に取って見てもらいながら、それぞれの生態を解説しています」

お魚の標本が沢山並んでいます。どれも一度は食べたことがあるあの魚たち・・・。

――エタノール漬けの標本って、触れられるものなんですね!

「そうなんです、手袋は必要ですが意外と大丈夫なんですよ(笑)。総合博物館にはたくさんの魚の標本があるのですが一般の方に見てもらう機会はなかなかないので、小さなお子さんたちに触ってもらえるのはうれしいです」

――子どもと話すときに心がけていることはありますか?

「専門的なことを説明するよりも、クイズ形式にしたりして興味を持ってもらえるように工夫しています。私は博物館に勤務していますが来館者の方と直接お話しする機会はあまりないので、子ども博物館はやりがいがありますね」

こっちがマグロで、こっちがカツオ!と
2匹の違いを見分ける子どももいたり・・・凄いな。
魚に触れられるので、小さなお子さんも興味津々!

――私たちの生活に身近な魚を実際に触れることで、楽しく学ぶことのできる素敵なブースでした。松沼さん、ありがとうございました。

続いて・・・子どもたちが続々と集まっているブースを発見!!水と土の入ったボトルを、外側から小さな拳でコンコンと叩いているようです。

何やら子どもたちと一緒に砂の実験をしているようなので、理学研究科博士課程3回生の長門さんにお話を伺ってみましょう。

③「砂(すな)のもようをつくろう!」にて。理学研究科博士課程の長門巧さん。

――こちらではどのような出し物をされているのですか?

「まず、ホースで繋げたペットボトルを使って、地層をつくる実験をしています。片方のボトルから砂と水を流すと、もう片方のボトルの底に砂がたまります。たまった砂をよく観察すると、下の方に粗い砂が集まり、上に向かって砂が細かくなっている様子が確認できるんです」

――わぁ、本当ですね!

「これは、実は、地層に見られる模様の一つである『級化(きゅうか)構造』ができる様子を再現しているんです。さらに、色の付いた砂を入れた別のボトルを使って、液状化現象の実験もしています。『級化』によって下側に青く粗い砂が、上側に白く細かい砂がたまっているボトルを使います。このボトルを叩くと、青い砂のすき間にある水が一気に上に移動して、青い砂も一緒に噴き上がる様子が観察できます。地震が起こったときに地面から水が吹き出したりするのは、これと同じような状況なんです」

液状化現象を実際に体験する親子。
コンコンと叩いた左のペットボトルの砂は、ひっくり返してもなかなか落ちてこないんですね!

――なるほど。「液状化現象」といわれると大人でも難しい気がしますが、こうして見るととてもわかりやすいです。参加者のお子さんたちも、みんな楽しそうですね。コミュニケーションを取るのが上手なんだなと感じます。

「コミュニケーションを取る力は、子ども博物館でかなり鍛えられました(笑)。一方的に情報を伝えるだけにならないように気をつけています。たくさんの人に、地学に興味を持ってもらえたらうれしいです」

地層をつくる実験のお手伝い!級化構造は見られるかな?

――「子ども博物館」が人気な理由が分かった気がします!実験も取り入れながら分かりやすく説明してくださり、ありがとうございました。

それでは最後に、冒頭でも紹介した竹之内先生のブースものぞいてみましょう。

小さな子どもから大人まで、たくさんの人がテーブルの上に並んだ鉱石を熱心に見ています。「この石なに?」と先生に質問している子どもの声が聞こえてきます。

①「誕生石をみてみよう!」にて。鉱石を持つ竹之内先生。

――竹之内先生のブースではどのような出し物をされているのでしょうか?

「誕生石を見てもらうのと、好きな石をひとつ選んで鉱物標本を作ってもらうのがメインです。うれしいことに、毎回のように来てくれる子もいるので、毎回見せる石を少しずつ変え、鉱物の仲間分けクイズをしたり、硬さの順番を調べてもらったりしています。できるだけみんなに楽しんでもらえるように、臨機応変に対応しています」

形もさまざま、色とりどりの石が沢山ありますね!

――リピーターがついてるんですか!そのお子さんは、さすがに詳しそうですね。ちなみに先生は宝石の研究をされているのですか?

「いえ、専門は隕石の鉱物学なんです。隕石って学術的にはおもしろいことがたくさんあるのですが、子ども博物館でそのおもしろさを伝えるのは難しいんですよね。というのも、隕石は基本的に見た目が地味なので、『駐車場の石みたい』と言われたり、お子さんの食いつきがとても悪くて(笑)。

でも、結局僕がここで難しい何かを教える必要はないと思っていて。石に興味さえ持ってもらえれば、あとは自分で知識を深めてくれるので、大切なのは最初のきっかけを作ること。それで入り口として、キラキラしていて子どもたちにも興味を持ってもらいやすい宝石をテーマに選びました。それでも学問の範囲からは出ないように、カットされる前の原石を見せるようにしています。」

竹之内先生の周りに子どもと大人が大集合!みんな先生に沢山質問をしています!

――宝石ですか!それは子どもたちが好きそうなテーマですね。この活動をしていて、やりがいを感じるのはどんなときですか?

「話の最初と最後で、お子さんの石に対する関心が変化したのを感じられるときですね。生き物が好きな子って多いんですが、最初から石が好きという子は稀なんです。でも見せていくうちにいろんな色があってきれいなことを知って、帰るときには標本を握りしめているということもあって。好きになってくれたんだなと感じます。

あとは『石が好きで研究している人がいる』と知ってもらえるのも大事かなと。人生にはそういう道もあるということを示すだけでもいいのかなと思っています」

持参したノートにメモをとる子も!とても熱心に聞いています。
誕生石は見つかるかな??竹之内先生と一緒に探しましょう!

――竹之内先生のブースに参加する子どもたちの目が、宝石と同じくらいキラキラしていて眩しかったです。先生、子ども博物館にますます興味がわいてきました!もう少し教えてください!

子どもたちの吸収力や想像力の豊かさに驚かされる

――子どもたちを見ていると、小さいときに学問に興味を持つきっかけを得られるのは素敵だなと思いました。ただ、専門的な内容を子どもにもわかりやすく伝えるのは難しいと思うのですが。

「はい、難しいです(笑)。石の説明って難しいことが多くて、『元素』を知らない子たちに、どうすればうまく伝えられるのかと頭をひねったりして。例えば、『アルミホイルと同じものからできているんだよ』など、なるべく身近なもので説明したりもしています」

――なるほど、どんな言葉を使うかで伝わることも、興味も代わりますよね。そのほかに、子どもたちとコミュニケーションをとるうえで心がけていることはありますか?

「そうですね。『どんな特徴が見られる?』、『この石とこの石にはどこが似てる?』というように、聞き取り形式で進めるようにしています。子どもたちに発見する喜びを味わってもらいたいのに、こちらから教えてしまっては意味がないので。

そうしてコミュニケーションをとっていると、鋭い質問をしてくる子もいるんです。僕が『ダイヤモンドは地球の深いところでできて、マグマに運ばれて地上にやってくるんだよ』と話すと、『マグマで溶けないの?』と聞いてきたり。この想像する力は地学ではとても重要で、まさにダイヤモンドの表面が溶けるんですよ!最初は説明するつもりがなかったことまで、子どもたちが引き出してくれるんです。子どもの想像力のすごさを感じますし、質問する力も大切にしたいと思います」

――子どもが逆に引き出してくる、なんだかうれしいですね!これまで活動されてきたなかで、印象に残っていることはありますか?

「この活動をしていると、お子さんと親御さんの関係性がよく見えるんです。子ども博物館にきて、初めて、自分の子がすごく石に詳しいということを知って、親御さんがとてもびっくりされていたり。子どもの知らない一面が現れる瞬間は、いつ見ても印象深いですね。子どもたちっていろんなところでいろんなことを自分自身で吸収していっているんだなと実感します」

学生たちの熱意と子どもたちの純粋な興味が重なり合う

――どのような出し物をするかは学生たちに一任されているとのことですが、竹之内先生からリクエストされていることなどはありますか?

「学生たちに伝えているのは、『一方的に教えるのではなく、来館者の方と双方向のやりとりができるようにしてください』ということですね。子ども博物館はそもそも、『研究者のタマゴ』が持つ熱意と、子どもたちが持つ純粋な興味や疑問が重なり合うことで、お互いに何かを得られるようにと企画されていて。だから、学生たちにとってもとても貴重な機会なんです」

――なるほど。お互いが何かを得る場所なのですね!ブースを出している学生たちに期待することはありますか?

「出展しているのは学芸員をめざす学生が多いのですが、伝える力は学芸員に限らず、どんな道に進んでも必ず必要になりますよね。何も知らない人に、自分がやっていることを伝える難しさを体験して、今後に役立ててほしいと思います。

研究室や学会にだけ閉じこもっていると、だんだんその中でしか通じ合えなくなってくるんですよ(笑)。外の世界とコミュニケーションをとる場として、子ども博物館をうまく役立ててもらえたらいいな、と」

――先生ご自身も、研究分野に閉じこもっている感覚はありましたか?

「そうですね。以前は研究所にいて、外の人と関わる機会が全然ありませんでした。そんな環境から、いきなり子ども博物館を任されることになったので、最初は『できるかな』と不安もありました。ただ、子どもは好きなので、難しさは感じつつも楽しんでいます。まだ誰に対しても丁寧語になっちゃったりはするんですが(笑)」

――そうなんですね(笑)。それでは最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

「大学博物館というと固いイメージを持たれがちですが、ほかの博物館では見られないおもしろい資料がたくさん展示されています。子ども博物館に遊びにきていただいたときには、ぜひ当館の展示もご覧ください。

子ども博物館の参加費は無料です。総合博物館への入館料が必要となりますが、高校生までは無料で入館できるので、時間潰しがてらでも大歓迎!子どもたちはきっと自分でおもしろいものを見つけて、たくさんのことを吸収してくれると思います」

みなさんもぜひ、「子ども博物館」に参加してみてください!

子ども博物館では、子どもたちの探究心が芽生えるきっかけづくりをするだけでなく、研究者のみなさんにとっても刺激になっているということが参加してみてよくわかりました。竹之内先生、協力してくださったみなさん、ありがとうございました!

※当イベントの開催日程や詳しい情報については、子ども博物館のHPをご覧ください。

\おまけコーナー/

竹之内先生オススメの一押しイベント☆彡

2024年度企画展「宇宙からの手紙 隕石の発見からはやぶさ2の探査まで」が2024年7月24(水)から2024年11月3日(日)まで開催中とのことです!!

展示だけでなく、対話型のミニレクチャーや体験会も企画されているようですので、みなさん、ぜひ足を運んでみてください。詳細は、こちらから!

イベントのポスター。