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No.175

update.2026.01.28

AI時代をチャンスに変える! 国際的に活躍する「ブリッジ人材」とは?

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地政学的リスクやパンデミック、AIをはじめとするテクノロジーの急速な進歩により、先行きが見えない「不確実な時代」といわれる現代。いまを生き抜くには、どのような能力を身につける必要があるのでしょうか。
今回は、国際的に活躍する人材などについて広く研究する経営管理研究部のLIU Ting(劉婷/リュウ テイ)先生にインタビュー。LIU先生から若い世代の人たちにエールをお届けします!

境界をクロスするのではなく「またぐ」能力が必要

――まず、LIU先生がどのような研究をされているのか教えてください。

「私が主に取り組んでいるのは、『国際人的資源管理』『組織行動論』の研究です。そのほか、生成AIと人との協働メカニズムや女性のリーダーシップ、日本企業における先輩・後輩の関係、リモートワークでのコミュニケーションなど、さまざまなテーマに興味を持っています。研究に境界線はないので、面白いと感じたら何でも取り組みます(笑)」

LIU Ting経営管理研究部准教授

――「人的資源管理」や「組織行動論」とは、どのような学問なのでしょうか。

「人的資源管理は、企業にとって一番重要な資源である『人』をどのように採用、育成、評価し、生かしていくかを研究する学問です。言い換えると、人が力を発揮できる制度や環境を科学的に探求する領域ですね。学問の名前は『人的資源管理』ですが、人は使うと減ってしまう資源ではなく、投資して育てる資本だという考え方が本質的です。

一方、組織行動論は組織の中で働く人の心理や行動を理解する学問です。職場での現在の活動を理解することで未来の活動を予測し、よりよいマネジメントを追究します」

高度人材とは…

先端分野の専門知識や高度な技術力を持ち、研究開発やデータ分析、国際ビジネスなどで高い付加価値を生み出す人材。日本では、こうした人材に対して「高度専門職」の在留資格が設けられている。

――どのようなきっかけでいまの研究分野に進まれたのでしょうか。

「海外で生活する自分の経験を通じて、異文化の中で働くことに興味を持ったのがきっかけです。その後、大阪大学の博士課程に在籍中の約一年間、ヨーロッパ各地を研究調査に訪れました。そこで日本企業の従業員の方々に数多くインタビューして、本社と現地をつなぐ『橋渡し役』の難しさに触れたのが、研究の第一歩となりました」

ヨーロッパ歴訪時、日独産業協会でインターンをされていたLIU先生(2017年)

――ヨーロッパでのインタビューで気づいたことはなんですか。

「同じ日本人社員でも、日本から派遣された駐在員と、現地採用の日本人社員では、会社への帰属意識や仕事での役割などが大きく異なることに気づきました。現地採用の日本人には、現地の大学を卒業した人や国際結婚をしている人など、日本と海外の両方の文化を理解できる人が多く、いわばブリッジの役割を果たしています。彼らは、身につけてきた日本文化と現地でのアイデンティティの間に葛藤を抱えていることも多く、その点に興味を惹かれました」

LIU先生の研究成果「海外駐在員のバウンダリー・スパニング活動は両刃の剣」。ヨーロッパで行ったインタビューから研究の着想を得たそうです。

――ブリッジ人材について、もう少し教えてください。

「私の研究は、多国籍企業とその海外子会社を対象としています。そのため、この文脈では、ブリッジ人材とは、本社と海外子会社の間、あるいは現地拠点における言語や文化の異なるグループの間をつなぐ架け橋となり、業務知識を共有したり、国際的な活動を調整したりする役割を担う人材を指します。より広く言えば、ブリッジ人材とは、複数の文化や言語を理解し、国境や組織をまたいで橋渡しをする人材のことです。海外駐在員や多国籍チームのリーダーなどが典型です」

――これからの時代はブリッジ人材の重要性が高くなるのでしょうか。

「いま、政治や経済などの様々な問題が世界中で起こっています。このような環境においては、いろいろなことを融合できる人材が重要になっていくでしょう。

例えば、文系の研究者もAIを使って理系と融合した研究に取り組むといったように、テクノロジーによってあいまいになっていく『境界』をブリッジできる人は、これからの時代に必要だと考えています」

――ブリッジ人材として異なる文化を持つ人たちと一緒に働くには、どのような能力が必要だと思いますか。

「クロスカルチャーという言葉がありますが、クロス(cross)は一つの文化から別の文化へ移る能力。ブリッジ人材に必要な力は、crossではなく複数の文化を同時にまたぐ(straddling)感覚です。crossしてしまうと、どちらの文化からも『外の人』だと見なされて、共感を得られません。

これに対してstraddlingは『内』として受け入れられやすく、信頼関係を築きやすい。私の場合、中国と日本、英語圏、そして夫がイタリア人なのでイタリアの4つの文化をstraddlingしています」

――すごい!4ヶ国をstraddlingするコツを教えてほしいです……(笑)

AIをうまく使える「指揮官」となれ

――リモートワークやバーチャルワークについても研究されていますが、これらの普及は社会にどのような変化をもたらしたのでしょうか。

「働く時間と場所の制約が少なくなったので、育児や介護と仕事の両立が難しかった人々にとってはプラスに働いていますね。また国境を越えた協働も容易になりました。

一方で、オンラインミーティングでは必要最低限の会話だけになりがちで、雑談のような何気ない会話が減り、信頼関係を作ることが難しくなったと思います。管理という面では上司が部下の状況を把握しにくく、従業員一人ひとりが自ら主体的に行動することが重要になってくるでしょう」

――それでは、AIの時代にはどのような能力が必要だと考えますか。

「重要なのは問いをつくる力だと思います。大学でもAIを使ってレポートを書く学生は少なからずいますが、禁止するともっと使いたくなりますから(笑)。禁止するのではなく、うまく質問する力や返ってきた答えを判断する力、そのうえでよりよい質問を出してAIを教育する力が重要なんですね。AIに使われるのではなくAIの指揮官とならなくてはなりません

――女性のリーダーシップについての研究はいかがでしょうか。

「京大の女性エグゼクティブ・リーダー育成プログラムにコーチとして参加しているので、女性管理職の方々と交流する機会があります。そこで感じるのは、女性のキャリアの壁は、個人の能力の問題ではなく、制度や慣習、文化が重なって生まれる構造的な問題だということ。

例えば、日本の大学や企業の人事評価の基準があいまいで、能力より就業年数によって昇進させるところは少なくありません。女性は能力があっても出産・育児などで男性に比べて就業年数が少なくなりがちです。女性を支援する制度が拡充される方向ではありますが、文化や意識が追いついていないのが実情です」

――どうしたら、こうした状況を変えられるのでしょうか。

評価基準の透明性を高めることや、アンコンシャス・バイアスを減らすこと、そして制度だけでなく、日常の関わり方や文化を変えていくことが大切だと思います。

例えば、家事を他者に頼ることへの抵抗や罪悪感がなくなり、それが自然な選択肢として受け入れられるようになれば、働き方や生き方はもっと楽になるはずです。こうした状況を変えていくためには、誰かがスポンサーとなって意識的に変革していくことも大事だと思います」

生きていればたいていの困難は何とかなる

――先生は京大でどのような人材を育成したいですか。

「『自由の学風』が特長の京大には、それぞれの個性を自分のペースで伸ばしていくことを許してくれる環境があり、本当にいい場所だと思います。京大生これから必要になるの『自信』と『勇気』、そして『果断さ』です。優秀な人材の中で差をつけるのは、一歩を踏み出すことができるかどうかなんです。

また、文系・理系の境界線はますますあいまいになっていくと思うので、自分の専門性という縦軸と広い視野の横軸を持ったハイブリッドな能力を持った人材をめざしてほしい。文理融合ができる広さと深さ、俯瞰力とともに、京大生としての自由なマインドセットを持ってほしいし、これらを身に付けてもらえるように指導したいです」

――これから研究職やグローバルな分野で活躍したいと考えている若い世代にアドバイスをお願いします。

「私は裕福な家庭の出身ではなく、子どもの頃は生きていけるのかという不安がありました。そうした経験から、若い人たちには『生きてさえいれば、ほかの問題は大したことない』と伝えたい。努力と、あと一歩踏み出すことができる判断力と勇気があれば、なんとでもなるものなんです。

もう一つ付け加えるとするなら、折れない心も大切です。AIがどれだけ進歩しても、人間の強みは生き物としてのしぶとさみたいなもの。逆境でも立ち上がり続けられる人は、前に進むことができます」

東ティモールでのフィールドスタディにて。泳げないLIU先生が海に挑戦。

――最後に、高校生や受験生にもメッセージをお願いします。

失敗を恐れないこと。挑戦した人にだけ次の道が拓けます。それから、身近にある小さなチャンスやご縁も大事にしてほしいです。私が京大に来る前についていたポストには任期がありませんでした。そのため、任期付きの京大のポストに応募しようとしたとき、前職の上司から止められました。

でも、『このチャンスを逃したら後悔する。もし京大に行ってうまくいかなかったら残念だけど、後悔より残念のほうがいい』と思って踏み切りました。このような選択を積み重ねて、いまの私がいるのだと思っています。だから若い人たちには困難も含めて、いろいろなことを体験してほしい。自分の力を信じ、一歩を踏み出してください!

複数の文化をまたいで活躍するLIU先生のお話は、普段日本で生活しているとわからないさまざまな気づきと、LIU先生のドラマチックな人生の経験に基づく言葉には、半端ない説得力がありました。

LIU先生、ありがとうございました!