Campuslife

No.41

update.2020.02.27

就活って何だ? キャリアって何だ? ~今こそ知りたい、就職のミカタ~

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こんにちは。
『ザッツ・京大』編集部です。

もうすぐ就職活動が本格化する3月。
みなさんは、「就活」というとどんなイメージがありますか?

独り立ちする機会として前向きに捉える人もいれば、大変そう…と少し重荷に感じる人もいるかもしれません。
我々編集部も、学生時代には喜びも、苦労も……思い出がいろいろ……(遠い目)。

でも京都大学には、そんな就職活動の強い味方が!
今回登場するのは、学生総合支援センター特定准教授の松尾寛子先生です。

日本の新卒採用の制度や慣習と社会への影響について研究しながら、キャリアサポートルームで学生の就職活動を支援しています。

先生曰く、学生の多くは就職活動に対して、いろいろと誤った見方をしているのだとか。

「就活の誤解」……これはぜひ詳しく聞かなければ!

就職活動は、大学から社会に出るときだけでなく、長い人生で何度か行う可能性もあります。
大学生のみなさんはもちろん、進路を考えている中高生、そして社会人の方々にとっても、きっとお役立ちのお話です!

就活を「両サイド」から見てみると。

――先生は大学院の修士課程を修了してから、新卒で株式会社リクルートに就職して、その後京都大学に転職したそうですね。転職のきっかけはなんだったのでしょうか?

「ご存知かもしれませんが、リクルートでは、新卒の学生に向けてさまざまな就職情報サービスを展開しています。でもそれって、採用する企業の側に立った商品だったり、サービスだったりします。仕事を続けているうちに、そういった商品やサービスが学生にはどのように受け取られていて、どんな効果をもたらしているのかを学生の側に立って見てみたいと思ったのがきっかけです

――なるほど。立場が変わったことで気づかれたことはありましたか?

「就職に関する情報を発信する仕事は、社会貢献という面ももちろんありますが、やはりビジネスであるということを強く感じました。ナビサイトは掲載する企業から収益を得るシステムなので、できるだけたくさんの企業の求人情報を掲載しています。それが学生のためにもなると、リクルート時代は考えていました。自分の知っている数少ない選択肢の中からではなく、日本中・世界中の企業から選べるってすごく大事なことだと思っていたんですね。
そうした面は確かにあるのですが、学生の側からすると、選ぶ力がなければ膨大な情報を使いきれないんです。
『情報が多ければ多いほどいい』という考え方は、ちょっと見直したほうがいいと思うようになりました」

リクルートでは人事システムの構築やSPIの開発、人材育成コンサルティングに携わっていたという松尾先生。昔から目の前のことに一生懸命取り組む中で次の目標を見つけてきたそうです。

世の中に「正解」は落ちていない!

――確かに、就職活動に関する情報はナビサイトに限らず世の中に溢れていますよね。学生と実際に接していて感じることはありますか?

「溢れかえるほどの情報を鵜呑みにして不安になったり、落ち込んだり、焦ったりする学生が多いですね。でもそれって実はあまり意味のないことだと思うんです。
例えば2018年9月に、当時の経団連の会長が就活ルールの廃止に言及するということがありました。そういうニュースって、『就活ルール撤廃?!』みたいなセンセーショナルなタイトルをつけられちゃうので、そのタイトルだけを読んで不安になる学生もいます。
でも記事をちゃんと読めば、ルールは撤廃されないし、企業も大学も一定のルールを持って採用・就職活動をやっていきたいという意向があることはすぐにわかるし、それだけの能力は十分に備えているはずなのですが……」

――どうして鵜呑みにしてしまうんでしょう?

「就職活動を、何か特殊な活動だと誤解しているんじゃないかな、と思う節はあります。
例えば、インターネットで情報を集めるときでも、普段はタイトルや情報源を見て、信頼できる情報かどうかの取捨選択をしていると思うんですけれど、なぜか就職活動となると、全部鵜呑みにしちゃう

――特殊な活動だと思うあまり、いつもできていることを忘れてしまうのはもったいないですね。

「本当にそうです。それに、これも誤解している学生が多いのですが、インターネットや本に載っている『エントリーシートの書き方』みたいな情報って、誰にでも当てはまるものではないんですよ

――そうなんですか?

「はい。そういった情報や本は、基本的には世の中で一番多い層をターゲットに書かれているものです。就職活動生で言えば、『私立大学文系の学生』が、そのボリュームゾーンになります。そこに自分が当てはまるのかどうか、自分の今の状況とマッチするのか、はよく考えてほしいところ。当てはまらない学生が『一般的なエントリーシート例』の真似をすると、的外れなエントリーシートが出来上がってしまいます。これはすごくもったいない。
エントリーシートは、自分のことを説明する文章です。本やインターネットに載っている例や先輩の作成したものを『参考』にするのはいいのですが、世の中に自分のことを語ってくれる『正解』は落ちていません。自分で考えて、語るしかないんです

松尾先生はキャリアサポートルームが開催するガイダンスやセミナーを担当しています。編集部が取材したセミナーでは、日本での一般的な選考採用システムを踏まえたうえで、エントリーシートや面接に向けてどのような準備が必要なのかを具体的に紹介しました。

「就活」は「試験」ではない!

――なるほど。ほかにも、就活をする学生さんが誤解しがちなことってありますか?

「そうですね。京大生を支援していて感じるのは――ちなみに『京大生』とひと言でいっても毎年約3000人が就職します。本当にいろいろな学生がいるので、あくまでも印象ですが、『100点』を目指そうとする学生が多いような気はしますね

――100点?

「はい。良い成績を取る、試験に合格するということが成功体験としてあるからなのか、エントリーシートや面接の受け答えでも『満点』を目指してしまうようです。
でも先ほどもいったように、就活には正解がないんです。自分が100点だと思えば100点なのに、『足りないところはどこか』ということを非常に気にする学生がいます

――試験で点数が取れなかった問題があったら、その部分を見直すみたいなことでしょうか。

「そうです。見直して、その足りなかった部分をなんとしてでも埋めたいという……。でも本当に、就活って『試験』じゃないんです。
もちろん、改善したり高みを目指したりするのは、働くうえですごい強みでもあります。ただ、エントリーシートや面接は自分の率直な思いや意見を表現する場なので、『正解』や『合格』にこだわりすぎると、だんだん自分自身から遠ざかってしまう。そうなると自分でも何を言っているのか、何をやっているのかわからないような状態になって、どんどん就活がしんどくなってしまいます」

就活は「対等」。 自分も企業も「お互いを知る」機会。

――「自分のことを率直に話す」ですか。でもそれってなかなか難しい気がします……私も就職活動中、自己分析には苦労しました。

「そうですねえ、何が難しいんだろう……なんで難しかったんだと思います?(笑)」

――えっ?! うーん……「自分をよく見せないといけない」って思っていたような気がします。企業の人に、「君は見込みあるね」、「ほかの学生とは違うね」みたいに思われないといけないのかなって。

「ああ。なるほど。それを聞いて、『対等』という感覚がすごく薄いんだなって思いました。それも誤解のひとつかもしれませんね。
私はガイダンスなんかでよく話すんですけど、面接は学生も面接官、つまり企業を面接する場なんです。例えば、嫌な態度をとる面接官がいたとしますよね。もしその企業に就職したらその人が上司になる可能性があるわけです(笑)。『こういう人のいる会社では働きたくない』と感じるなら、次の面接に呼ばれても断ることもできるんです。
でも、自分が一方的に評価される立場だと思ってしまっていると、その判断はできないですよね。まな板の上で料理されるのを待つ素材のような意識では、自分を出せないと思います」。

ありのままの自分を話せるようになるために、欠かせないのが自己分析。松尾先生のセミナーでは、4つの軸から自分の進路を考える自己分析の方法が紹介されていました(詳しくはコチラ)。

――ありのままの自分を見せて「この素材はいらない」っていわれるのが怖いんですよね……。

「でも、自分をぜんぶ見てもらって『君はうちに合っているね』っていわれた企業のほうが、働いていても幸せじゃないですか(笑)。職場って、ある意味生活の中心になる場所。1日の大半を過ごす場所で、自分を盛ったり、隠したりし続けるのはすごくしんどいし、そもそも無理だと思います。
その『働く場所』に、どうして、どんな風に自分がマッチすると思うのか。どういう自分を相手に知ってほしいのか。それを考えることこそが自己分析です。

だから、エントリーシートや面接って、自分のことを率直に話して、それについて相手が『いいね!』と言うか、『うちの会社とはちょっと違うね!』と言うかという、ただそれだけのことなんです。
もちろん、『自分はこの会社に合う!』と思って、その意思表明をしたのに、相手から『ちょっと合わないね』と言われてしまったら落ち込む気持ちはわかります。
でも、一番大切なのはお互いがマッチするかどうかで、『落とす』、『落とされる』ということではない。『君にあった会社はほかにあると思うよ』っていう、社会人の先輩からのアドバイスだと考えるといいのではないでしょうか」

――そう考えると、かなり気が楽になりますね。

「実際に、そのあたりを理解した学生はすごく楽しそうに就職活動をして、自分に合った企業に出会っていきます。もしも無理にキャラ作りをしているのであれば、その殻を破ってほしいですね。
それに、結局は『自分の言葉』が一番強いんですよ。企業の人はたくさんの学生を見ているわけですから、ネットに落ちているような文章を借りてもすぐにわかってしまいます(笑)。恋愛と同じで、本当の自分を見せないと、企業側としても『君と一緒に働きたい!』とはなりません

日本=ポテンシャル? アメリカ=即戦力? 日米就活事情。

――話は変わるのですが、日本の就職活動って海外とはけっこう違うものなのですか?

「海外といってもいろいろな国がありますが(笑)、私が研究するうえでベンチマークにしているのはアメリカの社会です。
アメリカには、日本のような『大学を卒業したら翌月から必ず働きなさい』という強いプレッシャーはありません。ただ、多くの場合、新卒者が会社に雇用されるためには、少なくとも数ヶ月以上の実務経験が求められます。

この実務経験は「インターンシップ」といわれますけど、それを経てからじゃないと基本的には採用されません。これは、ヨーロッパの大半の国でも同じだと思います。
それに対して、日本の採用制度では、人柄や個性、適性を採用基準にして、新卒の学生を採用し、入社してから数年かけて成果を出せる人材に育てていく。『ポテンシャル採用』と表現されることがありますが、こういった点はアメリカと大きく異なっています」

――アメリカやヨーロッパの国々では、採用されるときに即戦力としての能力が求められるんですね。

「そうですね。ときどき、学生から『国連やNASAで働くにはどうすればいいですか?』という質問を受けることもあるのですが、こうした機関でも日本の『新卒』のように採用されることはほぼなく、実務経験や職歴が非常に重視されます。
アメリカの映画やドラマを注意して観ていると、新卒の学生が5、6人インターンとして採用されて、『この中で6ヶ月後に残るのは1人だけです』などと宣告されるシーンがあったりします。このインターンシップの期間中はすごく薄給で、無給の場合もあります。採用されなければまた別の会社でインターンからやり直し。そのため、競争心も非常に煽られますし、若年層が経済的に不安定になっています。
一方で、日本は就活中のプレッシャーは大きいのですが、大学新卒者の9割以上が就職できていることからもわかるように、若年層の社会的な基盤を確保できているという面は評価できるのかなと思います」

松尾先生の研究テーマのひとつは「長い就活って何ですか?」だそう。「『長い』ってダメなことでしょうか? それに長い・短いって感覚的なもの。調査と分析でわかったのは『長い』と感じるのは期間でなく受けた企業と選考の数によるということ。また、内定時期が『人と比べて遅い』とそう感じたりすることもあるようです。研究を通じて『たくさん受けないと……。周りのみんなに遅れないように内定をもらわないと……』と思いつめてしまうような日本の就活を変えられたらと思います」

計画通りに進まないのが人生! キャリアは「前」には在らず。

――ここまでお話をうかがいながら恐縮なのですが……「キャリア」ってそもそもなんなんでしょうか(汗)。

「(笑)。キャリアの語源は『轍(わだち)』、車が走ってできる跡のことだと言われています。つまり今まで生きてきた人生のすべてがキャリアであるとも言えるんです。
だから、そこに予め用意された『正解』なんてないし、ただ『生きてきた後に道ができました』ということ。誰かが引っ張ってくれたり、すばらしい人生に続く道があったりするわけじゃなくて、自分の人生を自分で生きていくということが『キャリア』なんです

――「人生のレールに乗る」という言葉とは反対ですね。

「それは人生の先に何本もレールが用意されていて、そのうちの1本さえ選べばシューッと進んでいく、というような考え方ですかね。
キャリアはそうじゃなくて、後ろにしかないんです。道のない荒野をどう進んでいくかを考えるのが、おそらく本来の意味だと思います」

――高村光太郎の『道程』みたいですね。「僕の前に道はない 僕の後ろに道はできる」。

「おお、すばらしい(笑)。
だから、キャリア教育って『この道を選んだらいいよ』と教えるものでは決してなくて。自分で道を切り拓いて進む力をつけてもらうことなんです

――最後に、これからキャリアを考えるすべての人へメッセージをいただけるでしょうか。

「私がなるほどな、と思っている理論で、クランボルツの『計画的偶発性理論』というものがあるんです。この理論の中では『人生の8割が、予想もしていなかった出来事で決まる』ということが言われています。
例えば大学生なら、卒業後はこういう職に就いて、こんな家庭をもって、どこに住んで、ここまで昇進して……というようなことを考えているかもしれません。考えること自体はもちろん大事なのですが、人生ってほとんどの場合思い通りにはいかないです。私も本当にそうでした(笑)。
でも、思い通りにいかないことは『失敗』ということではない、と強く言いたいです。

むしろ、思いがけない出来事を受け入れていく中で、キャリアが形成されていくように思います。
『人生には行き先の決まったレールなんてない』ということを理解しないと、おそらくこれからの社会ではやっていけません。どんなに思いがけないことが起きても、それを受け入れて柔軟に対応していくことを大切にしてほしいです。

『予定と違うから嫌だ』じゃなくて『予定と違うからおもしろい』。
予期しなかった出来事を楽しむという姿勢を、少し心に置いておいてもらえたらいいなと思います」

松尾先生、ありがとうございました!

京大生の強い味方! キャリアサポートルームの詳しい情報はこちらでどうぞ!
https://www.gssc.kyoto-u.ac.jp/career/