2019.09.26
サイコパスはためらわない?−−嘘つきの脳のメカニズム
2020年の東京オリンピックに競歩代表選手として出場する、山西利和さんがザッツ・京大に登場!
京都大学工学部を2018年3月に卒業したばかりの若きアスリートは、取材場所にセッティングされた京都鴨川沿いの某所に、バックパック&スーツという「若手会社員」然としたスタイルで軽やかに現れました。
——まずは東京オリンピック代表への内定、おめでとうございます。今のお気持ちはいかがでしょう?
「うーん、自分の中では心境の変化ってそんなにないんですよね。でも周りはてんやわんやです。所属している愛知製鋼で祝勝会を開いていただいたんですが、社長や各職場の皆さん、市長や競技連盟大勢の人が集まってくださる大掛かりなもので驚きました」
——練習中の声援も増えたんじゃないですか?
「や、それはないですよ! でも今日のような取材は増えました」
——今更ですが、今日はお勤め先の愛知製鋼から京都にお越しいただき、ありがとうございました。実は大事な練習時間を削らせているのではと、ちょっと気にしたりしています……。
「予定と予定の合間を利用してちゃんと練習しているので大丈夫です(笑)。ただ、オリンピック代表の内定が決まってから、一番融通を利かせやすい自分の練習時間を後回しにしがちなのは、だめだなぁと思うところですね」
——今日はスーツ姿なので分かりにくいですが、ユニフォーム姿は細マッチョでしっかり筋肉がついていらっしゃいますよね。体脂肪率を伺ってもいいですか……?
「今はオフシーズンなので10%ぐらいです。レース前は7%ぐらいまで落とします」
——なんと! 細身でいらっしゃるのと、スーツ姿とその黒縁メガネがすごくしっくりしていて、IT関係のビジネスマンだと言われても違和感がないです。ちなみにそのメガネは……?
「これは、量販店で売っている普通のメガネです。競技用ではないですね」
――そうなんですか。競技中に汗でずれたりとか、そういうのは大丈夫なんですか?
「そうですね。曇るのとかも、あまり気にならないんですよ(笑)」
昨年の9月~10月にカタール・ドーハで開催された「2019世界陸上競技選手権大会」で、男子20㎞競歩で優勝し、見事金メダルに輝いた山西さん。この優勝が、東京オリンピックの代表内定につながりました。
なんと! 取材当日に、その金メダルを山西さんが持参くださいました!!
初めて実物を見る金メダルは、思っていたよりも大きい! 想像よりも神々しい! なんか凄すぎて、触らせてくださいとか、もう無理! などなど、「ザッツ・京大」編集部一同がざわつきます。
しかも、この種目での日本人選手のメダル獲得は、オリンピック、世界選手権を通じて史上初! 本当に歴史を塗り替えた一歩なのです。
——あらためまして、ドーハ世界陸上での優勝、おめでとうございます! この大会に向けて、山西さんが意識的に取り組んだことがありましたら教えてください。
「ひとつは、地力を高めることですね」
――「地力」ですか。その言葉は、2018年8月のジャカルタ・アジア大会を思い出します。6秒差で惜しくも銀メダルだったわけですが、レース後に「そもそも地力が足りない」とコメントされていたかと思います。
「そうですね。その『地力』です。そして、勝負に競り勝つための後半のスパートに、意識的に取り組んできました」
――なるほど。ただ、昨年の世界陸上(ドーハ)でのレースでは、比較的早い7kmの段階からトップを行く形となったと思うのですが、何か計算があったのでしょうか?
「最初は第二集団にいたのですが、中国の王凱華 選手が6km手前で飛び出したことでレース展開が変わりました。その展開のままでラストに勝負を仕掛けると、体の大きなスピードのある選手に勝つことは難しくなると判断しました」
――王凱華 選手は、まさにジャカルタ・アジア大会で残り500mから優勝争いをした選手ですよね。
「そうです。そこで、自分が前に出て集団のペースを上げて、全員の体力を削って人数を絞り込んでいく『サバイバルレース』に持ち込んで、自分の良さを活かせるレース展開にしていくことを考えました」
――そうやって変化を見極めながらも、自分の有利な展開に持っていくのですか。過酷な競技中に、冷静というかロジカルですね……。ちなみに、トップでゴールしたときの感想について、『やり切れない気持ち』もあったと聞いていますが。どんな気持ちだったんですか?
「もちろん、うれしかったですし、ほっとした気持ちもありました。ただ、『これで勝ってしまった』という気持ちがありました。本当は、最後にもう1段階ペースを上げて、後続を離していくレースをしたかったので」
――男子20㎞競歩での日本人選手のメダル獲得は史上初の快挙ですが、ご自身では納得されていないんですね。でもその妥協のない姿勢があるからこそ、栄冠を手に入れられたのかなという気がします。
気温32度・湿度80%超えの過酷な環境を独走し続けた先の勝利だった。(提供:中部実業団陸上競技連盟)
――競歩の世界を代表する選手となった山西さんですが、競歩を始めたきっかけは何なんですか?
「中学から陸上競技を始めたんですが、その頃は長距離がメインでした。高校時代に陸上部で顧問の船越先生に出会って競歩を勧められたのがきっかけです」
――そこからめきめき頭角を表し、高校3年生の時に世界ユース選手権(現U18世界選手権)で金メダルを獲得していますよね。
「これについては狙って獲ったというよりタナボタな感じで獲れてしまったという感覚がありまして……」
――そうなんですか。ちなみに、大学進学のときには、陸上の強豪校からの誘いもあったのではないかと思うんですが、なぜ京大を選んだんですか?
「競技はいつかはやめるときが来ます。将来のことを考えたら学業を優先させるべきだと思い、京都大学を選びました。それに京大は母校の堀川高校からも近いので、船越先生に引き続き練習を見てもらえるというのもメリットでした」
――なるほど。ところで、京大生時代はどのようなものでしたか? 工学部でも真面目に勉強されていたと聞いているので、学業との両立が大変だったのではと思うのですが?
「確かに両立は簡単ではありませんでした。ただ、京大は学生の自主性を重んじる学風なので、その時々で学業と陸上競技の練習のどちらを優先するかを自分で調整することができました。社会人になって振り返ると、やはり京大時代の方が時間を自由に使えていたと思います(笑)」
京都大学時代の練習風景。体育会陸上競技部ではパート長を務めていました。
――京大卒業後に愛知製鋼株式会社に入社。同社の陸上競技部で活動されていますが、どんな生活ですか?
「朝練をしてから出勤。部品開発部の社員として働きながら15時ぐらい……夏だと暗くなるのが遅いので16時ぐらいかな、そこから練習が始まります。食事は基本的に自分で管理しています。外食はあまりしないのですが、愛知で食べるひつまぶしは美味しいなあと思っています(笑)」
お仕事中の山西さん。ワーキングウェア姿が新鮮です。愛知製鋼株式会社の陸上競技部は1970年創部と歴史があり、国内では数少ない競歩部門があることでも知られています。
愛知製鋼株式会社 陸上競技部:https://www.aichi-steel.co.jp/sp_info/track.html
――普段の練習内容、意識して練習するポイントなどをお教えください。
「大学時代から大きく変更はありません。常にフォームを意識しながら練習しています」
――フォームの美しさは山西さんの特徴ですものね。高校陸上部の顧問の船越先生がフォーム(歩形)にこだわり指導されていたのに影響されたとか。
「はい。高校・大学では主に船越先生の指導を受けていました。現在は船越先生からのご縁で高校時代からアドバイスをいただいていた、内田隆幸コーチの指導を受けています。内田コーチも歩形の美しさを大切にされている方なので、方針はぶれていません」
――普段からコーチとマンツーマンでの練習なのですか?
「内田コーチと一緒に練習するのは月に2、3日程度ですが、合宿には同行いただいて歩形を細かくチェックしてもらっています。ただ動き自体については、自分で細部を突き詰めて考えるようにしています。大学時代に比べて競技への取り組み方が広くなり、総合的な観点から判断ができるようになってきました。もちろん前提としてコーチのアドバイスを大切にしたうえでではあるのですが」
――歩形については、「地面を蹴る動き」から「地面の反力をもらう動き」に近づけるようにした、という話をされている記事を読みました。
「そうですね。感覚的にやっていることを言語化するのは難しいのですが……。ただ、競歩という競技は、一番美しい動きが結果的に一番速いんですよ」
――2019年になってからの戦績の著しさを見れば、フォーム改善が結果につながっているのは間違い無いのかなと思います。山西さんは、練習内容を自作のプログラムで管理しているという話も聞きましたが。
「プログラムといってもとても簡単なものなので、大っぴらに言うのは恥ずかしいのですが(笑)。自分の練習内容をデータとしてまとめることを大学卒業前くらいに始めたんです。練習の量と質…日々の練習で何km歩いてタイムはどうだったのか、という数値を記録して、データ検証しやすいよう自作の簡単なプログラムでグラフ化してまとめています」
山西さんの語り口調はおだやかだけど、話す内容は明確でとても論理的。
ドーハ世界陸上競技選手権 | 20kmW | 優勝(日本人初) | 2019年 |
競歩GPラコルーニャ | 20kmW・20kmW | 優勝(日本人初) | 2019年 |
中部実業団対抗 | 10000mW | 優勝 | 2019年 |
全日本競歩能美大会 | 20kmW | 優勝 | 2019年 |
日本選手権 | 20kmW | 3位 | 2019年 |
福井国体 | 10000mW | 3位 | 2018年 |
全日本実業団選手権 | 10000mW | 4位 | 2018年 |
アジア大会 | 20kmW | 2位 | 2018年 |
世界競歩チーム選手権 | 20kmW | 4位 | 2018年 |
日本選手権 | 20kmW | 2位 | 2018年 |
ユニバーシアード | 20kmW | 優勝 | 2017年 |
日本選手権 | 20kmW | 3位 | 2017年 |
日本インカレ | 10000mW | 優勝 | 2017年 |
日本インカレ | 10000mW | 優勝 | 2016年 |
世界ユース選手権 | 10000mW | 優勝 | 2013年 |
※Wは競歩を指す
――最後に、これからの目標を教えてください!
「今現在の目標として掲げているのは、東京オリンピック金メダルです。京大に入学したとき、『たとえ遠い目標だとしても』と掲げた目標が『世界一』でした。20代前半というとてもいい年齢で東京オリンピックを代表選手としてのチャンスをつかむことができ、めざす以上は勝つしかないと思っています」
――ザッツ・京大の読者にもメッセージをお願いします。
「オリンピックも頑張りますので、ぜひ応援いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします!」
……最後の最後に、もうひとつお願いした編集部。山西さんは、快くサインと座右の銘を色紙に書いてくださいました!
京大時代に掲げた「世界一」。その目的地と自らの立つ現在地を見つめながら、その間を確かに歩き続けてきた山西さんを体現する言葉です。……説得力、ありすぎです。
山西さん、本日はありがとうございました!