2017.12.20
最高の焼きイモ体験を!~スーパー安納芋プロジェクト始動~
こんにちは。
ザッツ・京大編集部です。
みなさん、「居合道」をご存知ですか?
編集者は居合と聞くと、つまらないものばかり斬ってしまう某侍キャラクターしか思い浮かばないのですが(お若い方、ご存知でしょうか)、れっきとした武道なのです。
実は、京都大学の居合道部はかなりの強豪。
2018年には、全国学生居合道大会で団体戦の部準優勝という好成績を収めました。
(京都大学体育会居合道部ホームページ:http://www.kusuiaido.org/)
そのときの出場メンバーのひとりが、今回ご登場いただく都築 咲保里さん(写真中央。理学部・4回生)。
同大会の個人戦の部にも出場し、3位を勝ち取った実力者です。
全国3位というだけでもすごいのですが、この個人戦。
なんと、男女混合です。
つまり、都築さんは、数々の男子を打ち破りながらの全国3位なのです!
そんな都築さんに、そもそも居合道とは、というところからご自身のことまで、お話を聞かせてもらいました。
取材のために我々が足を運んだのは、吉田キャンパス内にある武道場。
自主練の最中だった都築さんが迎えてくれました。白の道着に刀を持った姿が凛々しいです。
――すみません。そもそも、居合道とはどのような武道なのでしょうか? 目にも止まらぬ速さで刀を抜いて、敵を倒すというイメージがあるのですが。
「私も、自分が入部するまでは斬り合いのイメージでした(笑)。でも、剣道のように打ち合うのではなく、決まった技をひとりで行う「形武道(かたぶどう)」なんです。
試合も演武形式。『五本抜き』といって、出場者が1対1で5本の「形(かた)」を同時に抜き、審判の判定で勝敗が決まります 」
――演武で競うんですね! しかし、『五本抜き』という言葉、初めて聞きました。具体的にはどういうものなんでしょうか ?
「居合道では、開始線に立って、刀を抜いて(抜刀・ばっとう)、斬り、敵への警戒を示しつつ残心(ざんしん)を行った後、刀を納めて開始線にもどるまでをひとつの「技」とします。その技を5つ、つまり「五本」、技を「抜く」んですね」
――なるほど。ちなみに「技」というのは……
「技には大きく分けて2種類あります。ひとつは、いろいろな流派のもつ独自の「古流(こりゅう)」。もうひとつは、「制定(せいてい)」と呼ばれます。こちらは「全日本剣道連盟」が定めた技で、そこに所属する団体は流派を問わずに共通して練習する「形」です。『五本抜き』では、古流の中から2本、制定12本の中から3本、計5本を抜きます。……きっと、実際に抜いたところを見ていただくほうがわかりやすいですね(笑)」
……なんと、都築さんが演武を見せてくれることに(!)
「京都大学の流派は伯耆流(ほうきりゅう)といって、斬るとき、突くときに発声があるのが特徴です。ですので、全力発声で失礼します(笑)」
そう言って開始線に立った瞬間、先ほどまでの和やかな空気が変わりました。
都築さんの「技」。是非、動画にてご覧ください。
古流の技を2本続けて抜いてもらいました。1本目は「切付(きりつけ)」。右横に座っている敵の殺気を感じ、機先を制して右上腕に切りつけますが、なおも敵が左手で右袖を捕らえて組みかかろうとするので、引き込みつつ腹を突いて倒します。
2本目は、要人を警護しているという想定の「一乍足(いっさそく)」。前方に立つ敵の殺気を察知し、相手が切り下ろしてくるので立ち上がりながら刀を受け流し、さらに真っ向から切り下ろして勝つ、という技なのだそう。
制定の技から2本。1本目は、四方を敵に囲まれたという想定の「四方切り(しほうぎり)」です。最初に刀を抜こうとする右斜め前の敵の右こぶしに柄当てして動きを止め、次に左斜め後ろの敵のみぞおちを突き刺します。さらに右斜め前の敵、右斜め後ろの敵、左斜め前の敵をそれぞれ真っ向から切り下ろして倒します。
2本目は「総切り(そうぎり)」。前方の敵の殺気を感じ、機先を制してまず敵の左斜め面を、次に右肩を、さらに左胴を切り下ろし、続いて腰腹部を水平に切り、最後に真っ向から切り下ろします。
――力強くも流れるような動きがカッコいい!!! すごい気迫を感じました。
ところで、試合 の最中に対戦相手の動きは気になりませんか?
「あまり気にしませんね。隣を気にすると負けちゃうと思います(笑)。
居合道は打ち合いこそしませんが、その動作はすべて敵を想定したもの。演武というのは、仮想敵と自分との対峙なんです。対戦相手ではなく、自分の作り上げた仮想敵を斬る・倒すことに意識を置いています」
――実践的な動きなんですね。仮想敵って、どのようなイメージなんでしょうか?
「自分と同じ背格好というのが基本ですね。あとは人によると思いますが、私はそこまで具体的なイメージではなく、どこを斬るかという位置の方を重視しています」
――自分自身との戦いという感じがしますが、試合の場合は審判の判定で勝敗が決まるんですよね。どういった点が見られて、評価されるのでしょうか?
「審判を務められるのは高段位の先生方なので、私ではわからないところもあるのですが。きちんと決まった「形」の通りに動けているかどうか、姿勢はぶれていないか、刀の勢いはあるかなど、総合的に評価されていると思います。だから、女性と男性、どちらかが有利とはいえないですね」
――なるほど。さて、今日は都築さんがこれまでに大会で獲得されてきた賞のトロフィーやメダル、盾、賞状をお持ちいただきました。たくさんありますね……。それにしても、昨年の学生大会での個人戦3位、本当にすごいですね!
「ありがとうございます。 でも、実はめちゃくちゃ悔しくて。本当は優勝を狙っていたんです。
これまで京都大学の居合道部から優勝者が出たことはあるんですが、女性ではまだいないんですよ。でも、私の代で42年目。そろそろ女性の優勝者が出てもいいと思ったんです。
京大女子初の個人チャンピオンになりたいって3回生のときからずっと思っていたので……悔しいですね」
男女混合で3位というのは、すごいことだと思うのですが、やはり常にトップを目指す姿勢の都築さんだからこそ、ここまで強くなったのだと感じさせられる言葉でした。
「都築さんのここがすごい。」部員VOICE① 主務・森岡さん(農学部・3回生)
女性は「流れ」で評価されることが多いんですが、男女混合の試合だと「力強さ」もやっぱり必要なんですよね。ただ、あまり強く振りすぎると体勢が崩れてしまうことも。都築さんは体全体をうまく使って、姿勢の安定感と刀を振るときの力強さを両立されている点がすごいと思います! うちの部の女子内ではピカイチです。
――都築さんはどうして居合道を始めようと思ったんですか?
「高校生のときに弓道部で、もともと武道には興味があったんです。大学に入ったらしっかり活動できる部活に入りたいと思っていたこともあって、入学当初は武道系の部をいろいろと見て回っていました。
部活・サークルの勧誘もあるなかで、居合道部の先輩(女性)にも声をかけられたんですね。
びっくりしながら、『かっこいいと思います』と答えたら、そのまま見学することになって。それが、居合道部のことを知った最初のきっかけです」
――衝撃の一言ですね(笑)。入部の決め手になったのは?
「実際に見て、雰囲気が好きになったんです。武道だから礼儀を重んじる部分もあるんですけど、体育会としてはそこまで厳しいほうでもなく、先輩・後輩の仲がよさそうだと思いました。あとは、運動量がそんなに多くないのも安心でしたね。運動経験のない学生も多いです」
――なるほど。実際に初めてみて、どうでしたか?
「最初は技を覚えるのにいっぱいいっぱいで。いや、それ以前に道着の着付け方もわからなかったですね。それに、日常生活で刀なんて持つことないじゃないですか(笑)。どうやって持てばいいのか混乱することもあったし、慣れない動きが多いのでとにかく必死でした」
――確かに難しそう。うっかり刀を落としたりしそうです。
「ただ、最初は「覚えた」といっても形だけ。次は、どう抜くかというステップになるんです。たとえば、刀を上から下へ斬り下ろすという動きがあるとしますよね。ただ刀を握って振るだけなら誰でもできますが、それだと勢いが出ないし、実際に「斬れる」動きとはいえない。動きのひとつひとつに突き詰めていく要素がたくさんあるんです。
なかなかできなかったことでも、練習しているうちに「あ、こういう動きか」って感覚を掴める瞬間があって、そういう発見がすごくおもしろかったですね」
――そういう課題やコツのようなものは、顧問の先生とか指導者が教えてくれるんですか?
「……いえ、これは京都大学居合道部の特殊なところなんですが、部には師範、いわゆる指導者の先生はいないんですよ。基本的には、3回生が1、2回生に教えるんです」
――えっ師範がいない?! そこのところ、もう少し詳しく聞かせてください!
――京都大学居合道部は師範不在なのに、どうして全国大会で活躍できるほど強いんでしょうか?
「ひとつは、OB・OGの方々が指導してくださること。かなり高段位の先輩もいらっしゃって、折を見て私たちの練習を見てくださっています。それに加えて、京都市の武道センターの 夜間稽古にも参加させてもらうことも。こちらでも高段位の先生に教えていただいたりします。技術面では、この2点に支えられているところが大きいですね」
――先輩から後輩へ脈々と技術が受け継がれているのですね。また、学外でも地域とのつながりから指導を受けることができると。
「それから、練習環境が整っているのも大きいと思います。平日はほかの部との兼ね合いで時間の制限はありますが、ほぼ毎日武道場を使えるんですね。土曜日も正規練習がありますし、日曜日は1日中OK。やる気さえあれば、いくらでも練習できるんです。
私も入部当初は自分がこんなにやるとは思っていませんでしたが(笑) 」
「都築さんのここがすごい。」部員VOICE② 脇田さん(工学部・4回生)
都築さんの練習量は、居合道部員のなかでもダントツで多いです。自分の弱点をひとつひとつ潰していくストイックさが、技の完成度の高さにも表れていると思いますね。試合となるとライバルですが、居合道に取り組む姿勢は仲間として尊敬します。
都築さんのお話を伺って、居合道への興味がますます湧いてきた我々編集部。
せっかくなので、居合道部の正規練習を見学させていただきました。
練習前は和気藹々とした雰囲気でしたが、主将の声がかかると全員が一斉に並んで正座。ピリリとした空気が武道場に走ります。
黙想や礼、準備体操を終えたところで…
この掛け声で、全員が一斉に刀を抜きました。まさに時代劇のワンシーンのよう!あまりのかっこよさにシビレます。
それから数種類の素振りがあり、技の練習へ。
ちなみに、練習は男女混合です。都築さんが第3位になった学生大会もそうですが、大会も男女混合であることが多いのだそう。スポーツ競技としてはめずらしいですね。
さて、都築さんが最初に説明してくださった通り、居合道には「古流」と「制定」という2種類の技があります。
新入部員はまず制定を覚えてから、古流の練習に入るとのこと。
3回生が1、2回生の指導を行っていました。
上回生の目から見て、それぞれが気づいたことを、自分たちの言葉でわかりやすく伝えようとしているのが見て取れます。
刀を抜くときの動きや、刀と腕の正しい軌道、相手との間合いや踏み込み方、そして、「その振り方で本当に斬れるのか」など。具体的な言葉で丁寧に伝えていきます 。
上回生は教えることによって学ぶことも多いのだそうです。
4回生の都築さんは自主練習としての参加ですが、真剣な眼差しで後輩たちの稽古をみつめ、気がついたことがあれば熱心に伝えていました 。
先輩から後輩へ教えつないでいこうとする責任感。これが、京都大学居合道部に受け継がれてきた強さの秘密なのかと感じます。
さて、正規練習の仕上げは、全員による『五本抜き』。
それぞれが自分の持ち技を、試合さながらに連続して抜いていきます 。
都築さんに演武を見せていただいたときも感動しましたが、大人数で一斉に行うとさらに迫力があります!
居合道部全員での『五本抜き』。みなさん、自分のタイミングで技を抜いていきます。隣の動きに気を散らされず、自分の仮想敵と向き合っている様子がよくわかりました。最後に、編集部にとって予想外の音が鳴り響くも……みなさんの集中力は全く乱れません。ちなみに、最も手前の男性が主将・北川さん。その隣の女性が都築さんです。
「都築さんのここがすごい。」部員VOICE③ 主将・北川さん(農学部・3回生)
都築さんが振るう刀には勢いがあります。男性に負けないくらい……いや、男性が負けるくらいの力強さですね。それができるのは、姿勢が安定しているから。足腰の踏ん張りがきいているから、刀を後ろから前へしっかりと走らせることができるんです。かといって、勢いに任せすぎることもない。基本に忠実な動きです。
1回生の夏休みは毎日、武道場で稽古をしていたという都築さん。居合道部のなかでも際立って練習に打ち込んでいたそうですが、部活と学業との両立は大変ではなかったのでしょうか?
「両立……できていたのかなあ(笑)。いちばん部活にウェイトを置いていたのは3回生のときなんですが、幹部として忙しくなるのはわかっていたので、時間を確保するために、2回生の間に講義を多めにとるようにはしていました。
4回生になると、大学院の入学試験があるし、研究室に配属されるしで、さらに学業が忙しくなって。練習時間もぐっと減りました。
そのときどきによって、学業と部活のウェイトを調整しながらバランスを取っていた感じです」
――今年は練習時間が減ったことで、何か変わったことはありましたか?
「練習不足は否めないのですが、実はプラスになったこともあるんです。
3回生までは、やっぱり「勝ちたい」という思いが強すぎて、その気持ちに引きずられるように体も前へ出てしまう傾向があったんですね。ずっと指摘されていたんですけど、なかなか改善できなくて。
でも、4回生になって少し居合道と距離を置いたことで、その気持ちが落ち着いたんです。そうすると、前のめりにもならなくなってきて。心の余裕ができて、演武の質が少し変わったのかもしれません」
気持ちと動きが深く関わっているんですね。
現在は理学部で有機化学を研究している都築さん。大学卒業後は、京都大学の大学院理学研究科にそのまま進学が決まっているそうです 。
――大学院生になっても居合道は続ける予定ですか?
「続けたいと思っています。もちろん、実験などで忙しくなるでしょうし、練習時間はどうしても少なくなるのですが。でも、今の私があるのは先輩方が指導してくださったおかげ。その恩を、下の代に返していきたいと思っています」
全力で居合道に打ち込み、数々のすばらしい成績まで収めた都築さん。最後に、居合道の魅力について語ってもらいました。
「居合道は、私のように大学から始める人がほとんど。だから、初心者でも全国大会を目指せる可能性大! 夢がある武道だと思います。
それから、男女混合の試合が多いのも魅力ですね。ただ力強ければいいというわけではないので、体格や筋肉量では男性に負けてしまう女性でも、居合道では同じ土俵で戦うことができます 。
つまり、居合道は個人のがんばり次第でどんどん上を目指せるんです。そこが、私にとっては最大の推しポイントです!」
努力が目に見えて現れる居合道。京都大学には、その努力を支える環境もあるのですね。
都築さん、居合道部のみなさん、ありがとうございました!