2017.12.20
最高の焼きイモ体験を!~スーパー安納芋プロジェクト始動~
こんにちは、「ザッツ・京大」編集部です。
みなさんも感じているかもしれませんが、日本では近年、大きな豪雨災害が続いているように思います。
実際、近年では、平成29年7月九州北部豪雨、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、今年は令和2年7月豪雨などが起こっています。
そこで、今回は、豪雨によって引き起こされる土砂災害について研究している学生さんがいると聞いて、お話をうかがいました。
今回、取材したのは理学研究科修士課程2年の菊池美帆さん。
京都大学宇治キャンパスにある、防災研究所の地盤災害研究部門で研究に取り組んでいます。
菊池さんは2019年度・第4回京都大学久能賞を受賞。
京都大学久能賞は、科学・技術分野において独創的な夢を持つ意欲ある女子学生を支援する賞です。
今年1月に行われた授賞式で、「災害で人が死ぬことのない日本や世界をつくりたい」と思いを語った菊池さん。
どんなことを研究しているのか、お話を聞いてみましょう!
――さっそくですが、菊池さんは防災研究所でどんな研究をしているんですか?
「豪雨によって引き起こされる土砂災害が、どのようなメカニズムで発生するか、どんな条件がそろった時に発生してしまうか、ということを解明するための研究をしています。土砂災害が起きる瞬間の要因としては、雨と地震の2つがあります。私がフォーカスしているのは雨による土砂災害。大量の雨が降ることで土砂が一気に下流に流れてくる土石流や、山の斜面が崩れる岩盤崩壊などです。特に、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)によって起こった愛媛県宇和島市吉田町の土砂災害を対象に、ここ2年ほど現地に通いながら研究しています」
――現地には何回くらい行かれているんですか?
「昨年4月から1~2ヶ月に1回のペースで通っています」
――実際に何度も足を運んで研究しているんですね。現地ではどんなことをするんでしょうか?
「野外調査をして、現地でどういう現象が起きているのか、土がどんな状態になっているのかなどを、実際に見て観察します。地道に足を運んで、調査を積み重ねていってようやくイメージが固まり、この場所で起きた土砂災害がどのようなメカニズムで発生したのかという仮説を立てられるんです。そして、仮説を検証するために、川とか山奥とかいろいろな場所を探して岩石を採ってきて、大学の実験室で分析します」
――岩を持って帰ってくるんですか!実験室では何を分析するんですか?
「岩石が風化してもろくなっていくと、岩盤からどさっと崩れてしまいやすくなることが考えられます。そのもろくなる過程やメカニズムを調べるために、岩の強度や成分を分析します。まず強度は、岩石をつぶすのにどれくらいの力が必要か、強度試験を行って調べます。つぶすのに必要な力が大きいほど強い岩石ですし、少しの力でつぶせるものはだいぶもろくなってしまっている岩石ですね。成分については、X線分析装置を使って調べています。岩石を砕いてつぶして粉にして、岩石の中にどういう元素や鉱物、粒子が入っているのかを分析します。岩石が硬いものともろいもので鉱物や化学元素の組成に違いがあるので、それを調べていきます」
――なるほど……。現地に採りに行って、持ち帰って調べて、の繰り返しですね。岩を採るって、なんだか難しそうですね。
「そうですね、難しいこともありますけど、やりがいはあります。現地に行く前に、研究室で調査する場所を何ヶ所か決めるんです。標高や地形のデータを見ながら地図を広げて、このへんの川でイメージする岩石が採れそうだな、この山の斜面でもろくなった土が採れないかな、と。そして実際にその場所に行って、仮説通りのサンプルがあるかを探します」
――なるほど。地図を見て土砂災害の原因の仮説を組み立てる、そして、実際に調査してその裏付けを得るんですね。
「はい。ただ、実際に行ってみると、思ってもみなかったようなものが見られることもあって。地層が折り重なっているのが見える場所が偶然見つかったり。そういった新たな発見に出会うことで、研究が発展していくこともあります。」
――大変なことやしんどいことはありますか?
「岩石の採取がすごく重いので運ぶのに苦労します。研究室の先生や先輩の力を借りています。あとは、もろい岩石を壊さずに持ち帰るのも難しいです。大きいラップみたいなものでぐるぐる巻きにして、がんばって持ち帰っています。ハンマーや方位磁針はもちろん、現場でも細かな作業が必要なため、ビニールテープや結束バンド、ハサミなども野外調査の必需品ですね」
――そもそも菊池さんは、どうして土砂災害の研究をしようと思ったんですか?
「きっかけは、私が学部3年生の時に起きた九州北部豪雨です。福岡県朝倉市で流木が流れたり家が流されてしまったりして、ショッキングな映像をニュースでたくさん目にしました。当時私は他大学で森林の分野を学んでいたのですが、朝倉という林業地で起きた災害でもあったので、林業を勉強している自分に何かできることはないかと考えるようになりました。現地に災害ボランティアに行った際には、膨大な被害と被災者を目の当たりにして、もどかしさやふがいなさを感じました」
――実際に現地に行ったのですね。そして、学部3年というと、進路選択の時期です。
「就職するか大学院に進むか、悩みました。私はこの先どうやって生きていこうと考えた時に、やっぱり人のためにできることをしたい、人の生活を守ることがしたいと思ったんです。そんな時に災害があって、自分が森林を学んでいたこともあり、その気持ちが強く結びついて。土砂災害に何か対策を講じられるような人になりたいと思いました」
――将来の目標ができたんですね。
「はい。私は小さい頃から、これになりたい、あれになりたい、という感じで将来の夢がふわふわしていたんですけど。この時に抱いたのは、今までにない強い気持ちでした」
――そこからどんな進路を選んだんですか?
「森林科学の中の砂防学という分野に進みました。学部時代は、たとえばこの地域に雨が降ったらここから崩れる、というシミュレーションや計算などを勉強しました。でも実際は、日本全国の地盤は同じではないし、地質や地形によって結果は変わってきます。そういう多様な部分を解明していくことが、この先もう一段階上の土砂災害対策を講じるために必要だと思ったんです。そこで、地質や地形について勉強するため、京都大学の大学院に進学しました」
――大学院に進むにあたって、京都大学を選んだのはどうしてですか?
「まずは地質・地形を勉強できる研究室を全国で探しました。その中で、今所属している京都大学の研究室は、災害が起きた現場に足を運んで、実際の現象を解明して、この先の社会に生かせるような研究をしていると感じたんです。この研究室に行きたいと強く思いました」
――現場に行って実際の現象を解明したいという気持ちが大きかったんですね。研究室に入ってみてどうでしたか?
「いろいろな現場に連れて行ってもらえるのでありがたいです。私が研究している地域だけではなく、先生や先輩方が対象にしている場所にも同行させてもらえて、さまざまな現象を見させてもらっています」
――京都大学ならではの特徴はありますか?
「先ほどお話したX線分析装置は、特殊な装置なので、京大だからこそあるものだと思います。分析機器などの設備が整っているし、読みたい雑誌や論文などの資料も絶対手に入るし、自分がやりたいと思ったことをやれる環境ですね」
――研究室がある宇治キャンパスの雰囲気はどうですか?
「吉田キャンパスと違って、学生よりも研究者のほうが多いので、研究に集中できる環境ですね。大学院で研究に没頭したい人にとってすごく良い環境だと思います」
――菊池さんの今後の進路について教えてください。
「卒業後は就職して、建設コンサルタント会社の地盤部門で働く予定です。将来は、研究の成果を社会につなげていく、研究と社会を橋渡しするような仕事ができればと思っています。土砂災害に効果的な対策を講じられる技術者になりたいですね」
――夢への第一歩ですね! 実現したい目標はありますか?
「土砂災害で人が亡くなってしまうことがない社会を目指して、犠牲者が出ない仕組みを築きたいと思っています。昔から『災害研究』はされているのですが、避難すべき場所や方法について、皆さんが疑問を持っていて結局は避難が遅れてしまったりする。そういうことが起こらないよう、ここが危ない、こういう状況になったら危ない、というもっと的確な情報を出せるようにできればと思います」
――最後に読者にメッセージをいただけますか?
「私は、森林から地質・地形の分野に進もうと思った時、学部も分野も違うので大変かなと不安に思っていました。でも、進みたい道を信じてやってみようと勇気を出してみたから今の自分がある。だから、もしやりたいことが見つかったなら、自分にブレーキをかけずに飛び込んだほうが、その先の幸せにつながると思います。私もまだ途中ですけど(笑)」
自分の信じた道を歩み、研究に邁進してきた菊池さん。
来春から社会に飛び立つ彼女の今後の活躍も楽しみです。
菊池さん、どうもありがとうございました!