2021.08.25
ブッダの叡智がAIに!? サイバー×フィジカル×マインドの調和が生み出す、これか...
こんにちは!
ザッツ・京大編集部です。
1月、2月はウィンタースポーツのメインシーズン。
本来なら、スキーヤー、スノーボーダーにとっては、雪を求めて旅したい季節ですよね。
ちなみに、底冷えには定評がある(?)京都とはいえ、キャンパスのある市内ではそうそう積雪もありません。
が、しかし。
京都大学のスキー競技部には、なんと「日本代表」がいるんです!
2019年にスウェーデンで開催された「スキーオリエンテーリング」の世界選手権での一枚。左肩には確かに日本代表の証が!(写真:Ski orienteering world(Facebook)より)
それが、この本間樹良来さん(農学部4回生)。
本間さんは、スキー競技部所属で、昨年度は女子部主将を務め、インターカレッジスキー大会(通称インカレ)で女子部の1部昇格に大きく貢献。同時に2018年度、2019年度には「スキーオリエンテーリング」の日本代表選手として、世界選手権、ワールドカップにも出場しているのです!
これは……聞かねば! 会わねば!
ということで、取材に行ってきました!(オンラインで)
本間さんは、取材中も終始笑顔で編集部にいろいろと教えてくれました。(京都大学スキー競技部のWebサイトはコチラでどうぞ!)
――本日は、お忙しいところありがとうございます! 早速ですが、本間さんは、「日本代表」と聞きました。本間さんが取り組んでいる「スキー競技」ってどういうものなんでしょうか?
「まず、私のスキーの活動はふたつあります。ひとつが、スキー競技部でのクロスカントリーという種目の選手としての活動。日本代表になっているのは、もうひとつのほうで、個人的に取り組んでいる『スキーオリエンテーリング』という競技です。スキー競技の中の『クロスカントリー』、オリエンテーリング競技の中の『スキーオリエンテーリング』ですね」
――なるほど。ちなみに、なぜ雪の少ない京都大学で「スキー」をやろうと思ったんですか?
「最初は大学ではスキーをする気はなかったんです。というか、そもそも京大にスキー競技部があることも知りませんでした(笑)。北海道出身なので、スキー自体はクロスカントリーを小学校1年生のときから続けていたのですが、受験期間はやめていたので。
でも1回生のとき、隣の部屋にたまたま住んでいたスキー競技部の先輩に誘われて見学に行って、練習にも参加させてもらったら、やっぱり楽しくて(笑)」
――そうなんですか! ちなみに、そのスキー競技部では、昨年のインカレで念願の1部昇格を果たしたとか。
「はい、女子部が1部だったのはもう何十年も前のことで、それもたった1年間だけだったと聞いているので、私たちにとってはとても大きな出来事でした。
私たち京大女子部は4人しかいないので、いろいろ不利な面もありますし」
(上)2020年2月に開催されたインターカレッジスキー大会(通称インカレ)では、女子5kmフリー、10kmクラシカルで優勝を果たした本間さん。女子部の1部昇格に大きく貢献。(下)同じくインカレではリレー(3人組)でも第3位に輝き、メダルを獲得しました。
――不利な点、ですか?
「インカレにはアルペン、クロスカントリー、コンバインドという競技があり、各競技で上位に入賞するとポイントを獲得できます。その合計ポイントによって学校対抗の成績が決まり、さらに1部・2部の入れ替えも決定するんです。だから、部員数が多い大学ほどポイントを獲得できる確率が上がるので有利なんですね。
それに強豪校だと、雪面に合わせてスキーワックスを考えて塗ってくれる『ワックスマン』もいたり、待機とか作業用のテントを用意できたり。でも、私たちは、外で雪に降られながら、自分たちでひたすらワックスを塗るという……(笑)」
――(笑)。その精鋭4人で、何十年ぶりの快挙を達成ですか! しかし、「クロスカントリー」は平野を走り、坂を登り、かなりハードな競技に見えるのですが、どういったところにおもしろさを感じていますか?
「確かに5〜10kmを全力で走るきつい競技なので、『何が楽しいの?』と聞かれることも多いです(笑)。でも、苦しい中でも全力で走るからこそ、ゴールしたときの達成感は格別。『キツさ』こそが楽しい競技ともいえます」
これが女子部の精鋭4人!(本間さんは左から2人目) 春や秋には各大学のスキー部が集まってリアルに走る「季節外駅伝大会」もあるそうで、これはそのひとコマ。
――では「日本代表」の話をうかがいたいのですが、すみません、そもそも「スキーオリエンテーリング」って、どんな競技なんですか?
2020年にロシアで開催されたワールドカップに出場。スタート前の、緊張の瞬間です。(写真:European ski orienteering championships (ESOC) and World Cup final2020(公式ホームページ)より)
「スキーをしながら、地図を見て指定されたポイントを指定された順番でまわり、ゴールまでの時間を競うという競技です。ポイント間のルート選択は自由。険しくても直線的な近道がいいのか、遠回りでも滑りやすいほうがいいのかなど、どのルートを選ぶかが勝負の分かれ目になります」
――まさに「オリエンテーリング」なわけですね。クロスカントリーとの大きな違いは何でしょう?
「クロスカントリーは、スタートしたら、ある意味、何も考えずに体力の限界まで追い込んで走ります。でも、スキーオリエンテーリングは、がむしゃらに全力でというわけにはいきません。体だけでなく頭もフル回転させて、次のルートを考える必要があります。その、全神経を研ぎ澄ませる感じが楽しいですね」
――なるほど。その「地図」は事前に渡されるのですか?
「いえ。渡されるのはスタートの15秒前です(笑)。地図は胸の前に固定して、それを見ながら滑る感じですね」
スキーオリエンテーリングのマップも拝見! 地図をストックしておき、普段から読み解くトレーニングをしているとのこと。
――15秒前?! それをすぐに読み解いてスタートするわけですか。コースには例えば何か矢印的なサインみたいなものは……?
「まったくないです(笑)。メインの目印と言えるのは『地形』そのもの。曲がり角などは目印になるのですが、森の中ですし、周りは雪だらけ。スキーのスピードも速いので、ちょっとでもぼーっとするとすぐに自分の居場所を見失ってしまうんです。だから、競技中は集中力を途切れさせることができません」
――ええっ…‥私がやったら迷子になりそうです(笑)。そのスキーオリエンテーリングで、本間さんは2019年の世界選手権(スウェーデン開催)、2020年のワールドカップ(ロシア開催)に日本代表として出場していますよね。世界を舞台にした戦いはいかがでしたか?
「フィールドがすごく広いし、傾斜も急だし、とにかくすべてのスケールが大きかったです。試合中に景色を楽しむ余裕はありませんでしたが、ふとした瞬間、目の前に広がっていた絶景が心に残っています。そして、驚いたのは、トップ選手の判断の早さ。立ち止まって地図を読むようなことはせずに、即座にルートを見極めてサーッと滑っていくんです。世界トップレベルの大会では、スキーの能力と地図を読む能力、どちらもレベルが本当に高いと実感しました。私はスキーだけならまだ戦える場面もあったのですが、地図読みの能力が大きく不足していて。もっと力をつけて彼らと競い合いたい、トップ争いに自分も加わりたいと思いました」
(写真:Ski orienteering world(Facebook)より)
――「スキーだけなら戦える」、そう言えるのも十分すごいと思います! ちなみに、クロスカントリーの練習とはまた別に行うのですか?
「共通するものも多いです。実は、どちらの競技も夏の間にどれだけ体力をつけてパワーアップできるかが重要で。筋トレはもちろん、京都は山が多いので、比叡山や大文字山でトレイルランニングをしたり、ストックを持って走る『ポールラン』をしたりします。
スキーオリエンテーリングのために行なっているのは、地図を読む練習。瞬時に読めるように、机の上でもルートを考えたりしています」
――本間さんはどちらの競技でもすばらしい成績を残していますが、ずばりその「強さ」の秘訣はなんですか?
「そうですね……『時間の使い方』でしょうか。大学生って、自由な時間がたくさんありますよね。その時間をどう使うか、それが私は得意なのかなと思います。
勉強でもやりたいことがたくさんあったので、トレーニングでは自分にとって本当に『必要なこと』と『必要じゃないこと』をよく考えるようにしていました。長時間だらだらと練習するのでなく、自分に足りていない力を効率的に補えるように、1年単位で練習計画を立てて、集中して取り組んだり。時間の使い方をすごく意識して工夫したおかげで、結果を出すことができました」
――優先順位をしっかりつけていたということですね。
「はい。勉強もスキーも、どちらもがんばりたくて。
もちろん忙しかったですけど、その分、なんとかして効率を上げることができたり、本当に重要なことを選ぶ力がついたりして、結果的には勉強もスキーもうまくいきました。勉強だけに絞っていたらロシアのワールドカップにも行けなかったので、スキーを諦めなくて本当によかったと思っています」
2020年ロシアでのワールドカップにて、日本代表メンバーと撮影。
――ちなみに、本間さんはどんな勉強をしているんですか?
「高校の頃から発展途上国の食糧問題や農村開発に興味を持っていて、今は農学部で、途上国の現状や制度、発展に必要なことなどを幅広く分析する『開発経済学』を専門に勉強しています。
卒業論文では、ザンビアをフィールドに選びました。新型コロナウイルスの影響で現地調査をすることができないので、一般に公開されているデータを使って分析を進めています」
――現地調査ができないのは残念ですね。これまでの学生生活で、海外で学ぶチャンスはありましたか?
「2回生のとき、タンザニアのコーヒー農家を研究するスタディーツアーに参加しました。農家の経営戦略を調査して、それ自体も興味深かったのですが、収穫を体験させてもらったり、ホームステイをしたりと、現地の方と交流してその生活を間近で見られたのがとても新鮮で楽しかったです。
ただ夏の合宿の合間に行ったので、体力的にはハードでした(笑)」
――スタディーツアーと合宿の両方をこなせるのは、さすがの一言です。
「ありがとうございます(笑)。
あとは学外のプログラムなのですが、3回生のときにパレスチナへも行きました。発展途上国に関心をもったきっかけが中東の難民・紛争問題だったので、入学当初からずっと勉強したかったんです。ただ農学部ではなかなか機会がなく、総合人間学部のパレスチナゼミに参加したり、アラビア語の授業を受けたりするようになりました。
そのなかで『やっぱり現地に行ってみたい』という気持ちが強くなり、イスラエルでのスタディーツアーに参加することに。そのあと、ひとりでパレスチナへ移動しました」
――実際に行ってみて、パレスチナはどうでしたか?
「日本ではパレスチナというと紛争のイメージが強いかもしれませんが、実際にはとてもおだやかな土地でした。食べ物がおいしくて、現地の方々も本当にあたたかく迎えてくださって、『すごくいいところだなあ』というのが一番の感想です。
ただそのなかでもよくよくお話を聞いてみると、もちろん辛いことや苦しいことがあって。現地にはどのような暮らしがあって、人々が何を考えているのか、実際に行ってみないとわからないことがたくさんあるのだと痛感しました」
パレスチナから京大に来ている留学生に家族や友達を紹介してもらい、現地でお話しを聞いたり案内してもらったりしたとのこと。
――しかし、本当に「多動」ですね! エネルギーがすごいです。
「今までずっと、やりたいことがたくさんあったんです。
それをひとつに絞らないで、すごく忙しくても全部やるのが、きっと私のスタイルなんだと思います。
勉強でも、経済の分析に必要な統計学や日本の農業の問題、アラビア語にパレスチナ問題……。発展途上国の食糧問題に限らず、いろんなことを学んできました。卒業論文やゼミの発表準備に追われているときなんかは、ふと『なんで今アラビア語のテスト勉強をしているんだろう?』と思ったこともありましたけど(笑)。やりたいことが全部やれる京大の環境ってやっぱりすばらしいです」
――今は4回生ですが、今後はどのような進路を考えていますか?
「大学院に進学して、今の研究を続けるつもりです。大学院でもやりたいことがたくさんあって。いずれは絞っていかないといけないとは思うのですが、もうしばらくは自分のやりたいことを続けていきたいと思っています。
スキーは卒業とともにすっぱり辞めるつもりだったのですが、今は迷っています。スキーオリエンテーリングでは『学生のオリンピック』ともいわれるユニバーシアード冬季大会に日本代表として出場する予定だったのですが、コロナの影響で開催延期になってしまったので。まだ大学院での生活がどのようなものになるか想像できないので、なんともいえませんが、可能であれば春からトレーニングしなおして出場するのもアリかなとも考えています」
――最後に、高校生や大学生、読者の方々へメッセージをお願いします!
「大学は、自分から動きさえすれば好きなだけやりたいことができる場所です。『これがやりたい!』という思いを持って入学すれば、きっと楽しい学生生活が待っています。
それから大学は、おそらくスポーツに全力で取り組める最後の機会だと思います。私はスキーを通して、大切な仲間と出会い、世界を経験して、優先順位を見極めて本当に必要なことを選び抜く力も身につきました。だから大学で部活に打ち込むというのも、ひとつの選択肢としておすすめしたいです!」
本間さん、ありがとうございました!