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No.128

update.2022.06.29

祝・京都大学創立125周年!附属図書館がお送りする記念イベントは、より多くの人が見て楽しめるキャッチーな貴重資料展

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2022年、京都大学が創立125周年を迎えたことを記念して、附属図書館では、所蔵する貴重資料の企画展を6月1日から行っています。今回は館内でのパネル展示(8月31日まで)だけでなく、オンラインでのデジタル展示(12月22日まで)も並行して開催。いったいどのような内容で、どんな見どころがあるのでしょうか。附属図書館の概要や展望も含め、附属図書館の北條風行さんと櫻井待子さんに紹介してもらいました!

附属図書館内でのパネル展示

御伽草子や奈良絵本など、眺めて楽しい「絵物語」6点を厳選!

――附属図書館としては久々の企画展ですよね。どのような経緯で開催することになったのでしょうか。

北條さん
京都大学が創立した1897年、附属図書館も組織としては設立されていて、その2年後に開館しました。大学とほぼ同じ時間を歩んできましたので、記念に何かできないかと、「創立125周年記念」を冠した展示を行うことになったんです。図書館員を中心に話し合った結果、物語の主要な場面を絵に描いた「絵物語」をテーマにしようと決まりました。

――たくさんの学術資料があるなかで、「絵物語」をテーマにされた理由は何だったんでしょう。

北條さん
妖怪をテーマにしようとか、国宝や重要文化財を紹介しようとか、125周年にちなんでテーマを決めず125個紹介しようとか、ほかのアイデアもいろいろ出たんですよ。そのなかで、より多くの人に楽しんでもらえるよう、絵で伝わる資料を選ぼうというのが出発点になりました。

――絵物語なら妖怪もカバーできますもんね。ただ、国宝や重要文化財というテーマでも、キャッチーで引きがありそうですけど……。

北條さん
附属図書館では、国宝の今昔物語集に加え、40種類もの重要文化財を所蔵しているんですが、文字ばかりの古い資料は、専門的に学んでいないと何が書かれているのかわかりづらい。「より多くの人に」という部分でハードルが高いんですよね。だから資料そのものを楽しんでもらえるようにと、室町から江戸初期にかけてつくられた御伽草子や奈良絵本を中心に選びました。

国宝の今昔物語集

――確かに文字だけだと、現代語訳なりを見て理解するしかないですもんね。その点、絵物語ならビジュアルで楽しむことができるわけですね。

北條さん
絵物語のコレクションも数が多く、附属図書館の企画展でも何度か取り上げているんですが、とても人気が高いんです。今回は、過去に附属図書館で展示されたことのある所蔵資料のなかから、Webサイト「京都大学貴重資料デジタルアーカイブ」で公開されている絵物語6点を紹介しています。

――人気の展示物を記念のタイミングであらためて紹介しようということですね。

図書館員たちが選りすぐった絵物語を、オンラインでも楽しむことができる

それぞれの貴重資料に対し、図書館員が「○○No.1」の称号を授与!?

――「絵物語の貴重資料展」とするにあたり、どういった基準で、どういう資料をセレクトされたんでしょう。

北條さん
絵物語のなかでも、ストーリーを楽しんでもらいたいもの、色鮮やかな彩色が施されたもの、絵自体を楽しんでもらいたいもの、いま話題になっているものといった視点で、少し角度を変えながら6点に絞りました。どれも昔の資料ですが、現代の人が見ても発見があると思います。

――館内展示とデジタル展示という2つの形態で開催されますが、これにはどういう意図があったんでしょうか。

北條さん
やはり「より多くの人に」という点から、遠方に住んでおられる方にもご覧いただくにはオンラインが向いているだろうと考えました。既に作成しているデジタルアーカイブを有効に活用しようという意図もあります。そこに載っているものよりも、やわらかい表現で解説やあらすじ、見どころなどを紹介することで、まずは附属図書館に貴重な資料がたくさんあることを知っていただければと。
また、附属図書館は1日に約3,000人の入館者がいるため、館内でパネルを展示することで、そういう方々にも貴重資料があることを知ってもらえればと考えました。

――せっかく保管されている貴重資料を、広くアピールしようというねらいもあったんですね。

北條さん
附属図書館では数多くの貴重資料を保管していますが、通常、事前に予約しないと見られないんですよね。だけどデジタルアーカイブなら、予約も来館もせずに見られます。そのことも、もっと伝えていきたいです。

――展示方法を考えるにあたり、工夫されたことはありますか?

北條さん
それぞれの資料に、図書館員が独自につけた「○○No.1」というキャッチフレーズを添えているんですよ。親しみやすい表現にすることで、興味を引ければと趣向を凝らしました。たとえば「塩焼き文正(ぶんしょう)」なら、「あやかりたいNo.1」とか。

それぞれの絵物語つけられたキャッチフレーズはどれも心惹かれるものばかり

――「あやかりたいNo.1」!?

北條さん
貧しい暮らしをしていた庶民の文正さんが、塩を焼く商売で才能を発揮して、立身出世を果たしていくサクセスストーリーなんです。おめでたい話なので、125周年を記念する展示としてぴったりかなと取り上げました。

――それは確かにあやかりたい……。

北條さん
金銀も使われた豪華な奈良絵本で、読めばご利益があると、昔は嫁入り道具にも使われていたようです。デジタル展示では、概要や見どころだけでなく、デジタルアーカイブの高精細な画像や詳細な解説、あらすじに飛ぶリンクをつけ、関心のある方はさらに深い情報へとたどりつける入口になることを意識しました。

――あらすじもあるんですね!

櫻井さん
かつて展覧会をしたときに、図書館員でつくったんですよ。読みやすい形になっているので、厳密な現代語訳ではなく、あくまでもストーリーを紹介するものとして楽しんでいただけるとうれしいです。

デジタル展示で紹介された絵物語は、すべて京都大学貴重資料デジタルアーカイブへとリンク。あらすじ等を読むことができる

北條さん
また、コロナ禍で話題になったアマビエの図も展示しているんですが、それをキャラクター化した「アマビエちゃん」がデジタル展示全体のナビゲーター役を担っているのも特徴です。

今回の企画展のナビゲーターを務める「アマビエちゃん」の絵物語も展示

――とてもポップで見やすくなっているんですね。「こういう視点で見ると面白い!」といったポイントはありますか?

北條さん
物語の舞台が京都になっている資料もいくつかあり、通りや神社などの名前も出てくるので、そういう記述を探すのも楽しいと思います。

色のつけ方など、昔の人たちの知恵や工夫にも注目していただければと。今の技術でも難しい金や銀の彩色など、見応えがあります。 もちろんこれらは一例で、それぞれご覧になった方が独自の楽しみ方をしていただけたら本望です。

過去100回以上にわたる貴重資料展の歴史がわかる年表も展示

――これまでの貴重資料展を記した年表も展示されているんですよね。

北條さん
1899年の開館から現在まで、100回以上にわたって行われてきた貴重資料展の歴史を総覧できるようにしました。
デジタル展示では、当時の情報が残っているものには、リンクをつけて、さらに詳しく見られるようにしています。
一方、館内の展示では、附属図書館の歴史を紹介するパネルも展示しています。昨年11月から1月にかけて行われた大学文書館の企画展「京大図書館の起源-知の集積地として-」で展示したものをいくつか用意したんですが、今の様子と随分違う、設立当初の閲覧室の写真などもあって面白いですよ。

館内で展示されている附属図書館の歴史を紹介するパネル

――最初の展示イベントはいつだったんですか。

北條さん
開館の翌年、1900年の附属図書館創立1周年記念展覧会です。これは紹介できる情報がなかったんですが、2周年記念展覧会は写真があるので添えています。 活発に行っていた時期もあれば、数年に1回の時期もありますね。ここ最近はコロナ禍により控えていたので、前回は2019年でした。

――長い歴史のなかには、大変なご苦労もあったんでしょうね。

櫻井さん
第二次世界大戦の戦況が厳しくなってきた頃には戦禍を免れようと、1944年と45年の終戦間際、2回にわたり図書館の資料を疎開させています。その後、間もなく終戦を迎えたので、すぐ利用できるようにと急いで疎開先から戻すことになったようですが、附属図書館の60年史には、「労が多くひとときの悪夢になった」という記述が残っています。当時の図書館員たちが、戦争中に守ってくれた資料を今も引き継ぎ、提供できていると思うと感慨深いですね。

――おかげで貴重資料展も継続できているわけですからね。附属図書館の蔵書には、どんな特色があるのでしょう。

北條さん
学内には学部、大学院、研究所、それぞれに図書館図書室が合計40カ所以上あるんですが、附属図書館はあらゆる分野の図書を所蔵しているのが特徴で、蔵書数 は100万冊にのぼります。ちなみに大学全体の蔵書数は720万冊、日本の大学図書館のなかでは東京大学に次いで2番目に多いんです。

――それだけ貴重資料も多いということですね。

知の拠点として多くの人が活用する、京都大学附属図書館

櫻井さん
できるだけ劣化が進まないよう、温度や湿度を一定に保った部屋で、大切に保管していますが、そこに書かれているのは、昔から引き継がれてきた情報であり、それを伝えていく役割が図書館にはあります。
もともとは図書館に来て資料を見るというスタイルが主流でしたが、やがてコピーを取り寄せられるようになり、今ではインターネット上で、世界中の人がいつでもどこからでも情報を手に入れられるようになりました。そうした環境を整え、情報を発信していくことが、いまの大学図書館に求められていること。帝国大学時代から続いてきた京都大学の学問的な探究心、文献や資料を大切にしてきた先人の情熱を感じつつ、学術情報を流通させていくことも図書館の役割だと捉えています。

――貴重資料のデジタルアーカイブ化も、情報発信の手段として進められているんですね。

櫻井さん
今後は大学の研究者が、研究の過程で生みだしてきた実験ノートや、調査結果の数値といった研究データなども、一定のルールのもとで整理・保存して公開し、研究に役立ててもらえればと考えています。
1つの発想から研究成果が生み出され、それをもとにまた誰かが新たな研究につなげていくことが、研究のサイクルであり、帝国大学の頃からそのサイクルは変わっていません。

――研究の成果はもちろん、その過程で生まれたアイデアも、誰かの研究のヒントになるかもしれませんしね。

櫻井さん
もともと大学図書館は、大学に所属する先生方の研究支援や、学生への教育支援を行っていますが、一方で、研究者に限らず、一般の人に対する社会貢献にも力を入れています。 私たちは誰でも日々の生活のなかで、ちょっとした疑問がわき起こり、それについて調べて解決したり、さらに掘り下げて考えるといったことを繰り返しています。そうしたあらゆる人々の知的欲求に応えていけるよう、過去から受け継いできた知恵や発想を公開・発信して、学術的な貢献と社会的な貢献、常に両方をめざしているんです。

――京都大学創立125周年の記念展示が、知的好奇心を刺激する機会にもなりそうですね。デジタル展示もパネル展示も、より多くの人に楽しんでもらえることを願っています!

■関連リンク

京都大学創立125周年記念 附属図書館所蔵貴重資料展示

【デジタル展示】
展示期間:2022年6月1日(水)~12月22日(木)
附属図書館 所蔵貴重資料展示
附属図書館 貴重資料展年表

【パネル展示】
展示期間:2022年6月1日(水)~ 8月31日(水)
展示場所:附属図書館1階ラーニング・コモンズ入口前